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マグカンさんの作品:【第八十一回】テアトル梅田 支配人 高橋剛志さん

関西にいる「シュッとした」人たちから「シュッとした」お話を聞きたくて始めた、MAGKANインタビューコーナー!

第八十一回は、

2024年4月に劇場名称を「シネ・リーブル梅田」から変更した、大阪・梅田の 映画館「テアトル梅田」支配人の高橋剛志さん にお話をうかがいました。映画館の支配人とはどんな仕事をしているのか、語っていただいたインタビューです。

 

「テアトル梅田」が東京と戦える劇場になっていければ

──2022年9月に梅田にあるLOFTの地下に入っていた映画館「テアトル梅田」が閉館し、2024年に梅田スカイビルに入っている映画館「シネ・リーブル梅田」が名称を変え、新生「テアトル梅田」にリニューアルされましたが、リニューアル前からずっと支配人をされていたんですか?

高橋(以下、T): いえ、2023年に「シネ・リーブル梅田」へ配属されたあと、「テアトル梅田」になる少し前に支配人を拝命しました。でも、実は新卒で入社してからの二年間は不動産事業部に配属されて、宅建を取得してマンションの売買をしていました(笑)

──ええ!?

T: そのあとの二年間は本社の経理部にいまして…。入社5年目で「テアトル新宿」に配属となり、その4ヵ月後に提携館「アップリンク京都」に現場スタッフとして入ったのが初めての映画館での仕事でした。

──大きな会社ならではですね。実際、支配人とは一体どういうお仕事をされているんですか? 個人的に昔から謎で…。

T: わからないですよねえ(笑) お店の店長のような当たり前に管理するところと、あとは劇場内にある4つのスクリーンのうち、どこで何時から何を上映するか、を考えるのも仕事です。上映期間中にも「この作品はシニアのお客様が多いから次から上映時間を早めてみよう」とやってみたり。あと、「テアトル梅田」に名前を変える際に4階で「MAKUAI CAFE」というカフェを作ったんですが、そこの商品の選定や入れ替えも私がやっています。それと、リニューアル時の内装や、6月に実施した各シアターの改修のことも。

 

──カフェや内装のことまで! いろんな部署に配属された経験がすべて関わっていますね!

T:それと、映画の配給会社の方とのコミュニケーションも仕事のひとつですね。東京に比べると、コミュニケーションの部分は関西の力のほうが上かもしれません。むしろ、ここを頑張らないと東京に置いていかれちゃう。

──東京に置いていかれる?

T: 東京だと全国の劇場に配っていただいている作品の宣材のほかに、配給会社の方から飾り付けに使えるものを送っていただきやすいんです。関西だと、配給会社の方が「負担になってしまうかも」と遠慮されて、お声がけいただけないことも多くて。でも、ミニシアターの楽しさって、作品の見所やあらすじを紹介する、劇場手作りの「パブボード」にどれだけ力を入れているかにもあると思っているので、普通の宣材だけじゃ物足りなくて。こちらからお願いをすれば、配給会社の方も用意してくださることが多いので、コミュニケーションが大事なんですよね。

──物理的な距離をコミュニケーションでカバー、ですね。

T: 「こういった形で展開をしたいんですよね」とアプローチした時に、「それおもしろいですね!」って配給会社の方がお金をかけてちょっと良い印刷で出してくださることもあったりして、コミュニケーションをとることで生まれるものもあるんですよ。東京一極集中にならないためにも、関西を盛り上げるためにも、積極的にやらなければいけないところだと思いますし、やればやるほど関西のお客様にアピールできる情報が増えるので、頑張り次第で如何様にもできる楽しさを感じますね。

──東京には負けてられない、ってところですか!

T: そうですねえ。東京はやっぱり強いので。スクリーンがたくさんあって、そのスクリーンごとに色を付けやすいんです。その分、「テアトル梅田」は作品の数で勝負しています。数で勝負した上で、一つ一つの作品を丁寧に掘り下げていくことで、この劇場ならではの楽しみ方をお客様に届けたくて。個人的には、正直関西でもミニシアターのスクリーンが増えてくれたほうが嬉しいところではあるんですけど、その需要のきっかけづくりもウチがやっていきたいんです。最終的には「テアトル梅田」が東京と戦える劇場になっていければな、と思っています。

──素敵ですね。

T: でも、私は埼玉県出身なので、支配人になったばかりの時は「関西のミニシアターの拠点となるべき劇場で、関東の人間が支配人でいいのか?」という葛藤はありましたよ(笑) 旧「テアトル梅田」が閉館する時、地元の方の声がすごかったので、「関西弁じゃない自分は受け入れてもらえるんだろうか?」って卑屈になっていて。特に何か言われたわけでもないので、僕の勝手な考えなんですけどね(笑)

 

好きな映画のエンドロールに自分の名前を載せたい

──支配人のお仕事として、勝手なイメージですが「支配人権限でこれは上映する!」というようなことはないんでしょうか?

T: 本社の編成部が上映する映画の最終決定権を持っているので、その決まったものをどうお客様に最適な形でお渡しするか、を考えることがほとんです。でも、ウチだけで上映する作品を選ぶ「企画上映」を定期的にやっているので、その提案の際に自分がやりたい作品をしれっと紛れ込ませたことは何回かあります(笑) とはいえ社会人なので、楽しみながら仕事をやれるように、自分のやりたいことが売上に繋がる努力をする、というところでしょうか(笑)

──さすがです…(笑) 実際にはどんな作品を潜り込ませたんですか?

T: アニメ映画の『BLUE GIANT』を、私とスタッフの意向で本部にプレゼンして上映させていただきました。ウチには「odessa」っていう独自のスピーカーを使ったスクリーンがあるんですけど、本当に音がすごく綺麗に聞こえるんですよ。映画『BLUE GIANT』はシネコンで上映されていたイメージの強い映画なんですが、その「odessa」があるスクリーンで上映するのはすごく「テアトル梅田」の色に合っているなと思ったんです。どれくらいの音量で上映するか、も試写しながらスタッフと一緒に決めたりもして、すごく楽しい仕事でしたね。上映が始まってから自分でお金を払って観に行ったくらいで(笑)

──スタッフの方とのコミュニケーションも密にされているんですね。上映時間のことを相談される時もあるんでしょうか?

T: 私より映画を観ているスタッフがたくさんいるので、ただただ好きが高じた上でのみんなの意見が聞きたくて、積極的に相談するようにしていますね。作品の客層の予想を一緒にしたり、時間帯によって上映する回数はどちらのほうがお客様にハマるか聞いてみたり。もちろん最終決定は私になるんですが、みんな忌憚なく意見してくれるので参考になります。

──皆さんで意見が割れてぶつかることもありますか?

T: ありますね~!(笑) むしろそのほうが、ミニシアターとして正常な形なんじゃないかと思っています。僕から編成部のほうに「これはこうじゃないか」と提案することもありますし。今でこそ、東京と同じタイミングで上映スタートする作品が増えているんですが、昔は関西での上映初日が東京より二週間遅れる、なんてよくあったんですよ。それは今まで東京とやりとりをして、環境を整えてくださった方々のおかげなので、僕もできる限り盛り立てて勢いを増していけるようにするのが理想ですね。

──映画の知識自体は入社されてから学ばれたんでしょうか?

T: そうですね。映画は好きでしたけど、詳しいわけではないという自覚はあって、実際入社してみたら明らかに他の同期に比べて映画を全然知らなくて(笑) 一番好きな映画はずーっと『スター・ウォーズ』なくらい、ミニシアターのこともあまり詳しくなかったんです。

──出版業界もそうですが、それは周りの方があまりにも観すぎているだけ、ということはありませんか…?

T: どっちもあると思います(笑) NetflixもU-NEXTもHuluもAmazon Primeも全部観尽くして、観る作品がないから恋愛リアリティーショーを観始めた方もいるくらいですし。

──配信されているすべてを観尽くす…? それは、社内で『スター・ウォーズ』の話をしたら終わりがなくなりそうですね。

T: 上の世代の方々が強いですね。勝てないなと思います。シリーズの1・2・3はそんなに好きじゃなくてあんまり観なかった、4・5・6のほうが好きだって言う方がいるんですけど、その1・2・3を映画館で20回くらい観たそうなんですよ。「じゃあ4・5・6は何回観たんだ?」って…(笑) 映画をできる限り観ようとしていますけど、さすがにそこまではまだ追いつけないですね。僕はアナキン・スカイウォーカーが一番好きなので、一昨年の東京コミコンで写真を撮らせてもらったんですけど、全然聞いたことのない俳優さんと写真撮ってる社員もいたりするので…。

──何がきっかけで映画業界で働きたいと思われたんでしょうか?

T: ミーハーなんですが、好きな映画のエンドロールに自分の名前を載せたくて。映画を作る側になるとか、そういうイメージはなかったんですけど。いまだに載りたいなあと思っています(笑)

──機会はこれからもたくさんありそうですね。

T: 実は…映画『この世界の片隅に』のクラウドファンディングがあったんですけど、協力するとエンドロールに名前を載せてもらえたんですよ。でもそんなクラウドファンディングがあることを知らなくて、「やればよかった…」って今も後悔しています。それくらいミーハーな心持ちなんですが、いつかどこかで名前が載るように頑張ります!

 

ミニシアターの発信拠点になる

──「テアトル梅田」と名前が変わって一年が経ちますが、お客様の反応はいかがですか?

T: 名前が変わった当時は「復活するのが嬉しい」という方や「テアトル梅田もシネ・リーブル梅田も好きだったから一緒にしてほしくない」という方など、いろんなご意見をいただいていました。ですが、今はお客様から「東京ではやっているけど関西ではないから上映してほしい」とリクエストをいただいたり、SNSで「テアトル梅田でやってくれないかな」と名前を出していただけることが増えて、とても嬉しく思っています。ちょっと安心できたというか、お客様もついてきてくださったのかなって。

──佇まいがすごく洗練されていて、いろんな方が入りやすい形にされていますよね。

T: 改装の際にすごく頑張りました!(笑) ウチは梅田スカイビルにあるので、どうしても駅から歩かないといけないんですよ。大型の映画館であるシネコンだと、基本駅前やショッピングモールの中にあるので、上映時間まで他のお店で時間を潰せますが、ウチでは少し難しい。なので、そこを逆手にとって、「映画館でゆっくりしてから映画を観よう」と思えるスペースを作りたかったんです。シネコンとはちょっと違った方向性ですよね。


──確かに、映画館で上映時間を待つ、という経験はあまりないですね。

T: シネコンはどこに行っても同じ環境で、同じ映像、同じ音響で観られるのが強みだと思うんですが、ミニシアターはここでしか観られない映画が数多くある、というのが一番大きな違いだと思っています。そのミニシアターの中でも、ウチはB級映画と呼ばれる作品の取り扱いが多かった「テアトル梅田」と一緒になった形でもあるので、作品の系統も作品数もできる限り絞らず、「雑食系」としていろんな作品を扱う、というのを特徴としてやっていきたくて。大きな作品を扱ったら、予告にはあえてニッチな作品を流すということもして、お客様の「面白そう」と思う幅を広げてもらえたら、というのが願いですね。

──ミニシアター入門にお勧めできそうな劇場ですね。

T: そうですね。ミニシアターはハードルが高いと思われる方がやはり多いと思うので、そういった方が気軽に来られるようになるのが一番嬉しいです。最近は映画『侍タイムスリッパー』が大阪だとはじめからシネコンで上映されたりと、昔ほどシネコンとミニシアターの垣根がなくなってきていて。それもウチにとっても良いことかなと思っています。いろんな映画をいろんなところで観られる環境が整えば整うほど、お客様にアプローチしやすくなるので。


──これからの目標は何でしょうか?

T: 「テアトル梅田」になってからずっと目標としているのは、「ミニシアターの発信拠点になること」です。シネコンとはまた違う体験をお客様にしていただけるよう、アプローチを続けていきたいんです。その一環が「MAKUAI CAFE」と、そこに隣接した「シアター・イン・シアター」でして。「シアター・イン・シアター」は約100インチのモニターとそれを囲むソファのある空間なんですが、そこではずっと映画の予告等の映像を流しています。ゆくゆくは学生さんの映像作品も流せたらすごくおもしろいですよね。そこで繋がりを持った監督さんの作品をいつか本上映にすることもできますし。この劇場を拠点として、上手く使ってもらえるポジションに入れたらなあって。その導線づくりが、やりたいことであり、やるべきことだと思います。自分たちでいろんなところにアプローチをし続ける劇場でありたいですね。

 

Q.「シュッとしてるもの」って何だと思いますか?
T: 俳優のマッツ・ミケルセンさんですね! 4月の「スター・ウォーズ セレブレーション」に行って、マッツと写真を撮ってもらいまして…。
──すごい!
T: すごくシュッとしていて。「何でこんなカッコいいんだろう」ってずっと考えちゃうくらいに。マッツの積み上げてきたものを今まで映像で観てきたというのもそうなんですけど、現場の対応もすごく優しくて…。最後に日本語で「ありがとう」と言ってくれたのもめちゃくちゃカッコいいなと思ったんです。マッツはカッコいいの総称なんじゃないかなぁ。
Q.自分の名前で缶詰を出すとしたら、中に何を詰めますか?
T: 家にあるガチャガチャの景品を詰めたいです。実は『トイ・ストーリー』も好きで…(笑) 僕が仕事に出ている間、彼らは家で騒いでいると思っているんですよ。なので、飾れていないガチャガチャの景品があるのがすごく申し訳ないんです。誰かにあげるのもアレだし。僕セレクトの缶詰を何個か作らせてもらって、開けたらそれぞれ違うモノが出てくる、たぶん外れはない缶詰を作って、売らせてほしいです。

 


高橋剛志

テアトル梅田 X

埼玉県出身。3年前から関西へ配属され、2024年に新生「テアトル梅田」の支配人に。好きな漫画は『SLAM DUNK』(集英社刊)。映画『THE FIRST SLAM DUNK』は劇場に20回以上足を運んだ。

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