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マグカンさんの作品:【第八十四回】映画監督 阪元裕吾さん

関西にいる「シュッとした」人たちから「シュッとした」お話を聞きたくて始めた、MAGKANインタビューコーナー!

第八十四回は、

次世代の日本映画界を担う鬼才として注目を集める、映画監督の阪元裕吾さん! 最新作『フレイムユニオン 最強殺し屋伝説国岡 [私闘編] 』の公開を記念して、お話を伺いました!

『阪元裕吾監督』って?

大阪府出身。卒業制作として手掛けた自主制作映画が注目を集め、大学卒業後に『ファミリー☆ウォーズ』(18)で長編商業映画デビュー。その後、『ある用務員』(21)、『黄龍の村』(21)など、ジャンルにとらわれない作品を次々と発表し、『ベイビーわるきゅーれ』シリーズはインディーズ映画ながら異例のヒットを記録。フリーで殺しを請け負う殺し屋「国岡昌幸」の日常を追ったモキュメンタリー作品『最強殺し屋伝説国岡』の最新作が10月10日より、全国順次公開予定。

誰かになかなか頼れない人に観てほしい

──阪元監督は大阪出身で、大学時代は京都で過ごされたそうですね。思い出の場所などがあれば教えてください。

阪元(以下、S): 僕が大阪で一番好きな場所は、十三から見える梅田の景色です。あの摩天楼は良いですよね。

──十三というと、淀川を挟んで梅田の対岸にある街ですが、下町の空気感が漂う個性的な街ですよね。

S: 学生の頃は梅田が大好きで、梅田の映画館にもめちゃくちゃ行っていたんですよ。1年に100回ぐらい。でも大人になると、梅田って行くまでに気合が必要になった気がして。それと比べて十三は全くそんな気合が要らない。梅田を感じながら河川敷に寝っころがって、夜通し友達と喋ったりしていましたね。

──では、京都でのお気に入りの場所はありますか?

S: 岡崎神社はよく行っていましたよ。めっちゃくちゃでっかい鳥居があって、夜中はそこで遊ぶっていうか…チルっていました。あとは鴨川デルタで飲んだり花火をしたり、当時は大学生らしいことをしていましたね。

──阪元監督の作品には、大学時代から繋がりのある、同世代の演者さんやスタッフさんが多く参加されている印象ですが、「チーム阪元」として大切にされていることはありますか?

S: なるほど…。質問とは少し違う答えになってしまいますが、たしかに『ベイビーわるきゅーれ』でチーム感が強まって、それは良いことなんですけど、実はあまりスタッフが固まりすぎないようにしたいと思っています。いろんな作品で、いろんな出会いがあるので、「こういう作品を撮る時には、こういう布陣にしよう!」と、作品に合わせて固めていった方が、良い作品を撮る上では大切なのかなと。でも、同じ布陣だからこそ息が合っていく、ということもあるので、難しいところだなと思っています。その点では、今回の『国岡』シリーズは主演の伊能昌幸との立ち話から始まった映画。友達と二人で始めたものですし、完全に自主映画だからこそ、自分たちでコントロールできる部分も多く、今後も続けていきたいシリーズです。

──シリーズの最新作『フレイムユニオン 最強殺し屋伝説国岡 [私闘編]』はどんな人に観てほしい映画になっていますか?

S: 今回の映画は、ある一面ではアルコール依存の話でもあるんです。アルコールじゃなくても、何かに依存してしまう、拠り所を自分以外のものに求めてしまう人の物語でして。この作品は、そういう誰かになかなか頼れない人に観てほしいなと思います。…っていうとすごく真面目な映画みたいですけど、テーマとしてあるものですね。

──公開が楽しみですね。

S: あとはやっぱり、普段ミニシアターに行かない人がミニシアターに行くきっかけになる映画になってほしいという気持ちが強いです。

──監督がミニシアターにこだわる理由は何でしょうか?

S: 僕、シネコンも好きなんですけど、部活がしんどすぎて辞めようか迷っていた時に、兵庫にある「塚口サンサン劇場」というミニシアターに『桐島、部活やめるってよ』を観に行ったんです。その時に感じた、一人になれるような空気感とか雰囲気が、自分にとってはすごく特別で…。ファミリー層が多いシネコンも楽しいんですけど、一人になりたい時に駆け込めるような、逃げ場所になってくれるミニシアターが好きなので、ずっと在り続けてほしい場所です。

 

みんなで話し合って作り上げていく楽しさが、最近やっと分ってきた

──阪元監督の作品は食事のシーンが多い印象ですが、料理がお好きなんですよね?

S: そうですね、レシピを見るのがすごく好きです。

──料理に目覚めるきっかけは何かあったのでしょうか?

S: 単純にゲームみたいに攻略とクリアが明確なので、それが好きなのかもしれません。中学生の頃とか、一人でホールケーキを焼いたりしていました。

──えっ、すごいですね!

S: クッキーを焼いたり、お菓子作りにめちゃくちゃハマっていましたね。

──作ったお菓子は友達に配ったりされていたんですか?

S: いや、自分で全部食べていました。料理って達成感が得られるし、頭のストレッチにもなるし。料理は今も、一番身近な作品作りだと思います。

──では、監督の作品作りの原点って、意外とお菓子作り…なんでしょうか?

S: どうでしょう…でも小学生の頃から小説とか漫画も描いていて、お菓子以外にもいろいろ作っていましたね。とにかく作りたかったんですよ。スポーツとかあんまりやらないタイプだったので、何かを作りたいという欲求が強かったです。

──みんなで何かを作る、というよりも一人で作ることが好きだったんでしょうか?

S: そうですね。たぶん僕の世代はギリギリ、個人ホームページとかを作っていた時代だったので、そこで友達らしき人ができたことはありましたけど、それ以外はずっと一人で何かを作るっていうのが好きで。その対象がたまたま小説だったり、お菓子作りだった、という感じですね。

──でも、映画を作るとなると、一人では作れず、たくさんの人と関わらないといけませんよね。

S: はい。脚本は自分との闘いなんですけど、映像となると試練がたくさん迫ってきます。暑さや天候の自然現象との闘いでもあるし、ロケーションの用意も必要だし。そういう毎日訪れるミッションをどうやって攻略していくか、みんなで話し合って作り上げていく楽しさが、最近やっと分ってきた気がします。周りにいる人たちがみんな良い人だからっていうのもあると思うんですけど。

 

いつも何かしらせめぎ合っています

──監督の作品では、芸人さんのキャスティングが多いですが、お笑いはよく観ますか?

S: ジャルジャルさんが好きで、YouTubeは全部観ています。

──どんなところが好きですか?

S: ジャルジャルさんのコントって、冷笑主義に走らないじゃないですか。最近、芸人さんやSNSを見ていても冷笑系が多くて、自分もそういう部分があるので否定しきれないところもあるのですが、そういうものを観すぎると結構「ううっ…」って辛くなってしまうんですよね。でもジャルジャルさんは、あの2人で完結し続けるものをブレずにずっとやっているから、そこが好きです。

──他にも、監督の映画で使用される楽曲はライブハウスシーンで活動しているアーティストが多いイメージがあります。

S: そうですね、音楽も好きです。音楽を聴くときは、僕はあんまり文脈を気にしないタイプかもしれないです。今って、文脈がなによりも大事ですけど。

──たしかにコンテンツに対して文脈とか考察ブームみたいなところはありますよね。

S: そうそう。「この楽曲の長さは〇〇を表しているんじゃないか?」とかね。僕自身はそういうのはあまり惹かれないというか、たぶん僕が文脈を重視したものを作れないからこそ「ぐぬぬ…」ってなるんでしょうね。『ベイビーわるきゅーれ』に文脈も考察も必要ないじゃないですか? あれは勢いの映画なので。

──勢いと同時に、どのキャラクターにも可愛げがあって、好きになってしまう魅力が詰まっていたと思うのですが、監督がキャラクターを作る際に意識してることはありますか?

S: そうですね…今回の『国岡』も何でこうなったのか分からないですけど、いつの間にか可愛くせざるを得ない作風になっていて…自分でもよく分からないんですよね。僕はどちらかというと、嫌な奴を撮る方が得意だと思うんですよ。昔は胸糞悪い奴しか出てこないような映画ばっかり撮っていましたから。だから嫌な奴が嫌なことを突き通す映画も撮りたいんですけど…。最近、不快なキャラクターへの防御力みたいなものが下がってきている気がしていて。

──防御力?

S: 例えば、とあるキャラクターが危険を回避するために真剣に助言しているのに、主人公が「はいはい。まあ、それは分かってますよ」ってちょっと流す描写があるだけで「こんな主人公がなんでいいやつ扱いなんだ?」とか、映画じゃなくてYouTuberの企画動画とかでも、動画の中で少しキレ芸をするだけで「心臓がヒュッとするからやめてほしい」というコメントがたくさんついたりとか…。

──あぁ…なるほど。

S: 先日、劇場版『TOKYO MER~走る緊急救命室~南海ミッション』を観に行って、「ストイックなキャラクター描写だな…」と感動したんですよ。鈴木亮平さんが演じる医師の喜多見先生は、どんなに追い詰められた状況に陥っても、チームのみんなに「早くしろよ!」って怒鳴らず、「みなさん、ちょっとテンポ上げていきますよ!」って声を掛けるんです。それは不快感を与えないキャラクターとして置いた結果ではなくて、たしかにこの喜多見先生だったら、こういう場面では怒鳴ったりしないよなっていう説得力がある。だからキャラクター造形として、完璧だなって思いました。

──たしかに喜多見先生の人間性ってドラマ版の頃から安心感ありますよね。

S: あと、キャラクターのバランスもすごく良かったんですよ。たまに「こいつ必要か?」みたいな、邪魔になってしまっているキャラクターとかいるじゃないですか。とりあえず出したんだろうなって思ってしまうキャラクター…。でも、この作品は全員がしっかり動いていて、見せ場があった。僕も出す以上はなるべく必然性を持たせようと考えているんですけど、このバランスも難しいんですよね…。登場させなくても成立するけど、お客さんが求めている場合もありますし…。

──バランスを取るって難しいですよね…。

S: いつも何かしらせめぎ合っています。僕は漫画だと『賭博黙示録カイジ』のスピンオフ、『上京生活録イチジョウ』(講談社刊)が好きなんです。一条聖也というキャラクターが東京に上京してからの数年を描いた作品なんですけど、これが素晴らしいんですよ。資本主義の塊である東京に出て、余裕はないけどバイトをしながら自由に暮らせる人生と、エリートになって今まで自分を見下してきた奴を見返して、とにかくお金を稼ぐ人生、どちらを選ぶのか…。

──その狭間で揺らぐわけですね。

S: そう。僕もこうやって映画に関わっていると、彼と同じように揺らぐというか、悩むんですよ。アクション映画って、爆破にはお金がかかるし、どうしてもある程度の予算が必要で…。つまり、映画を撮るために資本主義にのまれるべきなのか、それとも、規模は小さくてもミニシアターで自分が面白いと思う映画を撮り続けたり、自分の自由な生活を重視するべきなのか。これにすごく悩んでいて、自分と一条さんを重ねてしまう部分がありますね。

──重ねてしまう部分…。では最後に、映画に登場する国岡は「これしかできないから」という理由で、殺し屋として活動していますが、監督にとっても映画は、彼のように「自分には映画しかない」という感覚があるのでしょうか?

S: どうなんですかね…。「これしかできない」というよりは、途切れないから生産され続けているというか…。気付いたら飛び出しているっていう感じですかね。だから「撮りたくても撮れねぇ!」みたいな状況や気持ちに、悩んでみたいとも思います。贅沢なんですが。

──これからのご活躍も期待しています。ありがとうございました!

 

フレイムユニオン最強殺し屋伝説国岡[私闘編]

殺し屋の真中卓也は、仕事のミスで命の危機に陥るも、同業者の国岡に助けられる。しかし、真中はその失敗で謹慎処分を受け、父親(元・京都殺し屋ランキング1位)に強制的に実家へ連れ戻されてしまった。しばらくして国岡が様子を見に行くと、そこには淡々と家事をこなし、家の手伝いに徹する変わり果てた真中の姿が…。見かねた国岡の言葉により、殺し屋としての情熱を取り戻した真中は、殺し屋として再出発する決意を固め、父親との決闘に向けて厳しい特訓に挑んでいく――。

©「フレイムユニオン 最強殺し屋伝説国岡[私闘編]」製作委員会

10月17日(金)より 塚口サンサン劇場、出町座
10月18日(土)より 第七藝術劇場 ほか全国順次公開!
是非劇場にてご覧ください!

 

Q.「シュッとしてるもの」って何だと思いますか?
S: ん~…ごぼうとか? え? これ合ってる?(笑)
Q.自分の名前で缶詰を出すとしたら、中に何を詰めますか?
S: サバです。シャケは流石にないですよね(笑)

 


阪元裕吾

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1996 年、大阪府生まれ。バイオレンスとユーモアの絶妙なバランス、リアルなキャラクター造形を武器に活躍。好きな漫画は『ドラえもん』(小学館刊)、『上京生活録イチジョウ』(講談社刊)。

撮影:青谷建

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