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マグカンさんの作品:【解説】第五回「食わず女房」

漫画『妖怪めし』と連動して、妖怪文化研究家 木下昌美さんの妖怪コラムをお届けします。

第五回は、「食わず女房」。

さて、一体どんな妖怪なのか…?


 食わず女房(あるいは飯食わぬ女房など)は昔話として、日本各地で広く聞かれます。みなさんもきっと何処かで読んだり、耳にしたことがあることでしょう。

 話の前半、男が「物を食わない女房がほしい」という条件に合う者を迎え入れるところは概ね全国的に相違ありません。加えて、食べるものや調理法については話によって様ざまであるものの、いずれも米に執着していることが見て取れます。しかし後半部分で地域差が色濃く出ますので、詳細を以下に挙げてみることにします。

 大まかに東日本と西日本とで型が分かれており、まずは東。女房が鬼や蛇、山姥となり男を追いかけるものの、男が菖蒲の生えた場所に身を潜めたことで追跡は能わず。その日が五月の節句だったために、菖蒲を飾る由来として用いられるようになるのです。

 なぜ菖蒲で女房を除けることが出来たのかと言うと、菖蒲には悪いものを払う力があると考えられているからです。毎晩、娘の寝所に通って来る男の着物に針を刺して翌朝糸をたどると、男の正体が蛇であったことを知る、所謂(いわゆる)蛇聟入の昔話でも蛇の子を宿した女が菖蒲湯につかると子を堕ろすことが出来たというシーンがありますね。

 さて、対する西では女房は蜘蛛となり、男に火へ叩き込まれ死んでしまいます。よって、夜の蜘蛛は親に似ていても殺せという俗信と結び付けられることがあります。


 もちろんこれらの型に当てはまらないケースもあり、場所ごとに細かな差が見られます。かの柳田國男が『日本昔話名彙(※1)』の中で、各地の食わず女房譚(たん)を羅列しており地域ごとの女房を俯瞰(ふかん)できますので、興味がある方は読んでみてください。

 しかしこうして見ると『妖怪めし』に登場する食わず女房は、東西折衷であることが窺えます。そんな『妖怪めし』の女房は一体全体、どのような御飯を食べるのでしょうか。どうぞ今後をお楽しみに。

【注】
※1 日本放送協会編、柳田國男『日本昔話名彙』1948/日本放送出版協会

文:木下昌美

木下昌美


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妖怪文化研究家。奈良女子大学大学院卒業後、奈良日日新聞社に記者として入社。その後、フリーの身となる。妖怪に関する執筆だけでなく、講演や妖怪ツアー等も行っている。

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2022/8/1