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マグカンさんの作品:【第六十三回】兵庫耐震工学研究センター 福井弘久さん

関西にいる「シュッとした」人たちから「シュッとした」お話を聞きたくて始めた、MAGKANインタビューコーナー!

第六十三回は、

防災科学技術研究所 兵庫耐震工学研究センターの研究員 福井弘久さん にお話をうかがいました! 実大三次元震動破壊実験施設「E-ディフェンス」とは何か、今までの実験でわかってきたこと、これからに向けて研究を進めていることについて語っていただいたインタビューです。

 

一番すごいのは、この大きさで本物の地震の揺れを再現できるというところ

──兵庫県の三木市に存在する、こちらの研究施設。一体何を、どのように研究されているんでしょうか。

福井(以下、F): 阪神淡路大震災の揺れも再現できる、世界最大級の震動台「E-ディフェンス」で実大のものを揺らして、どんな風に壊れるか、どこまで耐えられるか、という実験をして、耐震技術の向上や破壊のメカニズムを研究しています。

──実大のもの…というと、一軒家や、オフィスビルをそのままのサイズで、ってことですか!?

F: 一戸建ての住宅2棟分は載って、重さは1,200トンまで耐えられます。ただ一番すごいのは、この大きさで本物の地震の揺れを再現できるというところにありまして。震動台…揺らして実験できるテーブル自体は海外にも大きなものがあるんですが、揺れる方向が一方向であったり、揺らすスピードなどに制限があります。ですが、「E-ディフェンス」は縦にも横にも斜めにも揺らせるので、本物の地震を再現できて、さらに実大のものを載せることができる、すごい施設なんです。

──本物の地震は決して一方向だけの揺れじゃないですもんね…。

F: そうですね。ちなみに大型のものだと、一方向で揺れるものでも相場は1平米1億円と言われているんですが…。

──1平米…1億円…。

F: まぁ相場ではあるんですけど…。やっぱり震動台を作るってそんなに簡単なことではないので。精密機械も入っていますし。

──そんなにすごいものが、関西にあったんですね。

F: 兵庫県南部地震(阪神淡路大震災)を受けて、耐震技術を上げようと動き出したことが施設を作ったきっかけだったと聞いています。あの時の地震では、学者や設計者のそれまでの想定とは少し違う壊れ方をする建物がいくつかあったんです。

──過去の地震から計算された被害想定がある程度あったんですね。

F: はい。壊れ方にも『良い壊れ方』といったものがあって、最低でも建物の中の人の命は守るように想定されていました。それなのに、阪神淡路大震災以前では考えられないような地震が起きて、その想定は覆されてしまった。それが何故かというと、実際に建物を壊すことなく、計算だけで考えられた想定だったからだったんです。本物の地震の揺れを受けると、建物の破壊メカニズムというのはどうしても計算とは変わってくるので、それを検証するために作られた実験施設がこの「E-ディフェンス」でした。

──東日本大震災の揺れも再現できるのでしょうか?

F: 2013年に改良工事を行いました。直下型地震のような、短時間で激しく揺れるものの再現はできるのですが、東日本大震災のような長く揺れる海溝型の地震は難しかったので…。揺れを再現するための油圧装置を増設したりして、今は再現できるようになっています。

油圧パイプと振動台の接続部。一年に一度、三カ月間メンテナンスをしているとのこと。定期的に部品も交換しており、修理が必要なほど壊れたことがないそう。地下数十メートル下までコンクリートが打ち込まれ、震動台の揺れを支えている。

 

室内被害といって、棚や大きなテレビが倒れてきてケガをする割合はなかなか減りません

──では、各メーカーの耐震技術は、ここでの研究結果が用いられているんですか?

F: 国が建築基準法を定めるにあたっての情報のひとつとして、研究結果が指針に取り入れられることはありますね。この施設自体は認定機関ではないので、ここでの研究結果が一般の方の身近に感じられるところまで届くには、けっこう時間がかかっていると思います。ハウスメーカーの方々が世の中に出しているような「自社の耐震技術」でいうと、その技術を事前に試して自信を持つために、「E-ディフェンス」が使われていることもありますね。

──最近ではどのような研究をされていますか?

F: ここができてから18年ほど経つんですが、建物の耐震技術はすごく上がっていて、地震によって建物が一気に潰れてなくなる被害は少なくなってきました。一方で、室内被害といって、棚や大きなテレビが倒れてきてケガをする割合はなかなか減りません。なので、そこに着目して非構造部材についての研究を進めています。

──「非構造部材」?

F: 「構造部材」が柱などの建物を形づくるもので、「非構造部材」は間仕切り壁や天井など生活するためにあとから建物につけるようなものを言います。「非構造部材」は建物と違って耐震基準があまり厳しくないので、室内被害が減らない要因にもなっているかな、と。

──それは例えば、家具のストッパーや耐震マットの性能も対象に?

F: はい。そのような耐震アイテムは「震度〇に耐えました」と表記されていたりするんですけど、特に国が決めた基準の試験方法などがあるわけではないんです。各社独自に様々な環境で試験しているので、条件が統一されてないことが多くて。やっぱり、建物にはそれぞれに苦手なリズム(周期)と呼ばれるものがあるんですけど、その苦手なリズムから外れたリズムで試験していたとしたら、実際に苦手なリズムの地震が来た際は耐震性能が発揮できないことになってしまいます。同じ地震でも、建物の高さによっても揺れ方が変わるので…。その試験のズレを防ぐために、何か全体で統一した検証実験方法のようなものを作れたらな、と上司の研究員と一緒にやっています。

──100円均一で売っている耐震マットとか、正直「本当にこれは意味があるのか?」と疑ってかかっているところはありますね…。なので「この実験をクリアしています!」とかがあると、より安心できる気がします。

F: 室内被害の実験をして、数字ではわかっていないんですが、耐震マットや家具を固定する金具といった耐震アイテムはある一定の効果がありましたよ。使わないよりは、使うほうがはるかにマシになります。

──やっぱりそうなんですね…!

F: 耐震アイテムの他にも、天井や壁の部材も実験の対象だったんですが、実験に関わられたメーカーの方々の中で「これでOKだと思っていたけど、ちょっと変えなきゃいけないな」という話が出てきているそうです。私たちは指針づくりのほうに取り掛かっていますが、メーカーさんの個々の技術的な部分は実験をきっかけにこれから派生していくかもしれません。そうやってどんどん「非構造部材」が強くなって、現状よりも良い方向に進んでいってくれたらいいなと思っています。

 

自分で頑張って購入した家にいきなりブスブスと穴を開けられるかって言ったら、難しい

──室内被害を減らすために、他に研究されていることはありますか?

F: あとは…仕組みづくりですね。

──仕組み、とはどういう…?

F: 家具の位置や高さに気を付けたり、固定をしてみたり、皆さんそれぞれでできる対策があるかと思うんですが、それをもっとやりやすくなるような仕組みを作れないかと思っていて。耐震を考えると「家具の固定をしてください。そのために壁に穴を開けます」という話になるんですけど、自分で頑張って購入した家にいきなりブスブスと穴を開けられるかって言ったら、難しいじゃないですか。私も自分のマンションに穴を開けているかと言われると、開けられていないですし…。

──賃貸の場合でも難しいですよね…。

F: 家具だって、安い家具だと固定のために穴を開けたら壊れやすくなりますし、逆に何百万もするような家具にドリルで穴を開けられるかって言ったら、それもできませんよね。だから、穴を開ける側も、開けられる側も、「ここを使ってください」っていう印があれば、やりやすいと思うんです。壁の正しい位置を見極めるのも難しいですしね…。中に芯が通っている場所を狙わないと、固定してもすぐとれちゃうんですよ。

──わぁ、それは知りませんでした。

F: 部屋の中や家具に耐震用の固定するポイントが設けられている、それに価値が見いだされれば、例えば賃貸住宅の大家さんの立場でも、積極的に取り入れられるようになるのかなとも思っています。まぁ、我々は制度を決められる機関ではないので、今はそういう案をいろいろ発信していきたいなと考え中です。

──先ほど、耐震技術は十分上がっているとおっしゃっていましたが、地震への対策として今後はどういうことを考えてらっしゃるんでしょうか?

F: 今は減災…地震の被害を極力減らそう、減らした上で都市の回復力を上げようという考えのもとに動いています。直近だと、10階建ての鉄骨の建物にアラートシステムをつけて、地震のあと、「その建物に入っても大丈夫かどうか」がわかる実験をしました。建物の外壁につけたライトがその建物の変形を算出して、赤・緑・黄で建物の危険性を知らせてくれるんです。ガチャガチャ揺れたけど、青ならその建物は安全、赤ならもう次の地震が来たら倒壊してしまうから避難する…のような。このライトがあれば、専門家でなくても「すぐにこの建物から離れたほうがいいかどうか」がわかる。そういった、人の動きで減災に繋がるような研究を最近は活発に行っています。

10階建ての試験体を半分に分割したもの。震動台の上に運び、クレーンで組み立てて一つの建物にする。右側が試験体の天井部分。


──確かに、避難場所に定められている体育館や病院だって、場所によっては老朽化が進んでいるところもありますよね。

F: 2023年の7月には体育館を揺らす実験をしていましたよ。老朽化によって体育館全体がぐちゃっと潰れることはなかなかないんですけど、かまぼこのような形をした屋根は、変わった揺れ方をすることがあって、あの屋根が崩れたり、天井が落ちてきて被害が出る場合もあるので…。

──「E-ディフェンス」での実験は年間でどれくらいやっておられるんですか?

F: 平均して5~6件だと思います。ひとつの実験をするために、建物などの試験体の設計から始めるので、1~2年前から準備を始めています。震動台に載せて揺らしたらすぐ壊しちゃうので、本当に1日、2日のためにこつこつと…。でも、実験によってさまざまですが、ひとつの実験から新しいことに次々と繋がっていく場合もあるので、ものによってはそのデータ解析を数年かけて行って、ずっと続いていくこともあります。

──福井さんの中で印象に残っている実験はありますか?

F: 研究員の先輩方と一緒にやった、「浮揚免震」の実験ですね。地震が来ても建物が揺れないように、髪の毛一本分、50ミクロンだけ建物を浮かすっていう。

──髪の毛一本分、浮かす…!

F: 実験を実施するには、限られた予算の中で、試験体の製作や実験の実施などを計画していくのですが、コロナが大流行した時期で、なかなか当初の計画通りにはいかなかったこともあり、予算もじわじわと厳しくなってきました。そこで、できることはなるべく自分たちで作ろう・動こうといって取り組んだ実験なんです。重さ60トンの試験体を揺らしたんですけど、試験体を震動台の上へ移動させたり、取り付けたりすることもあって、本当に自分たちだけでやらなきゃいけないことばっかりで。しんどかったんですけど、達成感がありましたね。

 

ある時は設計者、ある時は施工管理者、実験の手配も計測も、建物をどう載せるのかも自分で

──福井さんはどういう経緯でこちらの研究員になられたんでしょうか?

F: 僕は少し変わった経歴で…。機械工学を大学で4年学んで、そのあと一般企業に4年勤めていたんです。でも、心の底では建築に興味があって。実家が建築関係の仕事をしているんです。それで心機一転、建築で大学に入り直して、博士課程を修めたあとに縁あってここへ来させてもらいました。今36歳で、博士をとって4年目なので、キャリアとしては浅いんですが…。

──建物を作るほうから、壊すほうに来られたんですね。

F: 確かにそうですね(笑)

──会社員から大学に入り直したのは、何かきっかけがあったんですか?

F: これといったきっかけはないんですけど、25歳で結婚をして、父親と将来のことを話す機会が増えたりして、気持ちが変わっていったのが大きいかもしれません。何かを変えるタイミングに遅すぎることはないかなって。ただ、博士課程まで行きたいとは正直思っていませんでした(笑) でも学ぶことがおもしろかったし、卒業してから就職のことを考えたら、年齢的にも博士で何か専門的なことを身に着ける必要があるなと思ったんです。そんな学生の時にここでの実験に関わる機会があって、研究員の職へと繋がったんですけど、当時はここで働くことになるとは想像もしていませんでした。

──こちらでの経験は当時の福井さんにとっても新しい体験でしたか?

F: 何かひとつのことができるだけじゃなくて、研究に関わる全てのことがわかっていないとだめだということを思い知らされましたね。ここって特殊で、実験の担当になれば試験体を作成しなければいけないので、図面も読めないといけないし、外注して作ってもらうことになっても、都度確認して施工管理もしなければいけないんです。ある時は設計者、ある時は施工管理者、実験の手配も計測も、建物をどう載せるのかも自分でコーディネートする、ゼロから研究のことを考えられる人になる必要があって。

──それは…なかなかハードな…。

F: ひとつのエキスパートではだめなんですよね。僕は免震が専門なんですけど、卒業してすぐは試験体の施工のことなんて知らないことばかりで、軌道に乗るまですごく苦労しました。あとは1日実験をするにしても、準備に年月がかかるので、当日もし準備不足で失敗したら目も当てられなくて。学生の時には「線が外れてた!」「収録ボタンが押せてなくてデータが消えた!」なんてこともありましたが、とてもじゃないけどできません(笑) 今までの自分とは全く違う感覚で、集中して準備を進めるのも大変でした。どれだけ事前に準備をしても、10回中9回はそのとおりにはいかなかったですし…。今もですけど、実験ではイレギュラーが発生するので、なかなか思い通りにならないです。

──実際に「危なかったな、あれは…」というのはありますか?

F: ありましたね。言えませんけど…(笑)

──(笑) 今でも新しいことに挑戦する日々ですか?

F: 今度はブロック塀の実験をするんですよ。

──大阪北部地震でも被害が出たブロック塀ですね…。もしかして、それを一から作るんですか?

F: はい。ブロック塀を取り扱っている企業の方との共同研究で。でも、ブロック塀なんて全然知らなくて(笑) どうやって作られているのか、まずそこから勉強でした。ある意味、自分のスキルを上げるにはもってこいの場所だなと思います。その実験の担当になったらもうやるしかないので、いろいろ挑戦できるのは大きいですね。

ニュース記事: ブロック塀耐震性 建築基準法適合有無で比較実験 兵庫 三木

 

実験用に作られたブロック塀


──もし、こちらで働きたいと思うお子さんがいたら、どういう風に学んでいけばいいんでしょうか?

F: 難しいですね…。勉強というよりも、全部に興味のある人がいいですね。例えば、地震波のデータをもらった時に、その数字だけじゃなくて、どこにどんな風に取り付けられていて、どういう機械でどうやって計測したものかっていうところにまで興味を持てるような。いろんな分野に興味を持てたほうが、ここでの仕事が楽しいと思います。ここのスタッフにも、土木学をやってきた方とか、社会防災をやってきた方とか、かなり幅広くいるので、学びのきっかけ自体は何でもいいです。何かしら興味を持ったところから、どんどん繋がっていくような仕事だと思うので。

──最後に、福井さんの目標を教えてください。

F: まずは、E-ディフェンスの研究員である以上、実験の担当を一人で任せられるような研究員になることですね。施工も、計測も、実験のすべてをコーディネートすることにおいて、自分はまだまだだなと思っているので…。 あとは、ひとつのことに向かうと他がちょっと疎かになってしまうことがあるので、自分の研究も、担当している実験も、上手くこなせるように余裕を持って切り替えられる人間になりたいですね。

 

Q.「シュッとしてるもの」って何だと思いますか?
F: 建物のイメージがありますね。人ならカッコいい人とか、かわいい人なんでしょうけど…。あべのハルカスを見た時なんかは、「ああ、この建物シュッとしてんな」と思います。
Q.自分の名前で缶詰を出すとしたら、中に何を詰めますか?
F: 何かなぁと悩んだんですけど…カッコつけるなら、家族の写真です!(笑)

 

福井弘久


E-ディフェンスHP

奈良県出身。2020年から兵庫耐震工学研究センターで研究員として勤務。2023年春にはトルコ・シリア地震の現地調査団に参加した。好きな漫画は『ONE PIECE』(集英社刊)。

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