• お知らせ 2023.4.1

妖怪文化研究家 木下昌美の「妖怪めし」【解説】第八回「鎌鼬」

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漫画『妖怪めし』と連動して、妖怪文化研究家 木下昌美さんの妖怪コラムをお届けします。

第八回は、「鎌鼬」。

さて、一体どんな妖怪なのか…?

 『妖怪めし』には様ざまなオバケが登場しますが、メインキャラではないけれど何度も出てきては活躍しているモノがいることに、お気付きでしょうか。第1話にも出てきた、鎌鼬(かまいたち)です。鎌鼬に関する話は各地に伝わっていて、地域や記録により様ざまな特徴があります。

 江戸時代の随筆『耳嚢』巻之七「旋風怪の事」(※1)に出て来る鎌鼬は、風の内に潜むもの、または鼠や鼬のようなものが風に巻き込まれて起こすことを指し示しています。ある子どもはつむじ風に巻かれ着ていた小袖に鼠の足跡らしきものが一面に付いていた、とも記されています。

 同じく江戸時代の随筆『想山著聞奇集』(※2)にも鎌鼬が登場します。鎌鼬が人に触れると知らない内に傷ができ、はじめは血も出ず痛みもないが追って大量出血、ひどい場合は死に至るとあります。人の股や膝、脛に傷を作るそうで、腰より上が傷付くことは稀。そしてやはり、旋風の吹く時にやって来るもののようです。

 『妖怪めし』では毎度、道案内を買って出る鎌鼬。先に挙げたように鎌鼬と風はセットであるので、疾走感からイメージして道案内役となったのかもしれません。

 作中では親切で優しいキャラクターですが、人に傷をつけるのだから本来はそうでもないかも……と思うことでしょう。

 私が聞き取り調査をした中でも「子どものころ足がサックリ切れていたのを親に見せたら、鎌鼬にやられたと言われたことがある」などと話してくれた方がいらっしゃいました。その際に、どこか厄介な存在として語っておられたことが印象深いです。

 しかし中には傷付けはするけれど、リカバーしてくれるものもいます。例えば岐阜県恵那市の鎌鼬。(※3)この鎌鼬は3人組の神様で、ひとつが転がしふたつが切りつけ、最後のひとつが治してくれるのだといいます。これは暦をまたぐと起きてしまうことであるとして、傷を治す際は暦を焼いた灰を油で練ったものを傷部分につけるのだそうです。治してくれるならば、はじめから傷つけないでくれと思わないではないですが、興味深いお話です。

 こうしたエピソードを踏まえ『妖怪めし』では今後、鎌鼬はどう活躍するのかしないのか、またもしかすると仲間がいるのかもしれない……と想像するのもワクワクしますね。

 どうぞ引き続きお楽しみに!


【注】
※1・2 『日本庶民生活史料集成 第16巻 奇談・紀聞』1970/三一書房
※3『旧静波村の民俗 岐阜県恵那郡明智町旧静波村』「口承文芸」1971/東京大学民俗研究会

文:木下昌美

木下昌美

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妖怪文化研究家。奈良女子大学大学院卒業後、奈良日日新聞社に記者として入社。その後、フリーの身となる。妖怪に関する執筆だけでなく、講演や妖怪ツアー等も行っている。

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