

あしたてんきになあれ
わさびなゆき
あらすじ人生を終わらせる予定の日、不運にも天気は大いに荒れた。運休になった電車には乗れず、雫は死に場所を探し、仕方なく歩き始めた。
作品講評コマの見せ方が上手く、冒頭から読者が主人公に惹きつけられるよう印象的に描けている。リズム感も良いのでするすると読み進めることができ、キャラの表情も良い。だが後半の流れは死を扱う割には軽く見え、前半との落差が大きく「出オチ」になってしまっているのが残念。今後はデッサンとストーリー構成を重視しつつ、頑張っていってほしい。

保健室の獏先生
荒谷夏来
あらすじ人ではない何かに憑かれやすく、万年体調を崩している高校生・白磁。少しでも身体を休めようと保健室で仮眠をとっていると、美形の先生にキスされそうになっていて…!?
作品講評保健室の先生が実は邪気を食べる獏で、引き寄せ体質の主人公を利用して食事にありつく流れをコメディタッチで描いたところがおもしろい。また、トーンや背景の処理は前回の受賞からレベルアップしていた。ただ、作画の硬さや展開が綺麗に収まりすぎている点は変わらず懸念としてあるので、話のまとまりよりも自分の好きなものを思い切って描ききることとデッサンを意識して次回作に繋げてほしい。

ノルニルデストリカ
まきせただす
あらすじ国民すべてに平等に幸福になるよう運命を算出する「ノルニル」。運命に抗うものを従えさせる「調停者」として働くリュカは、少女・メイヤと出会い「運命」を見つめ直すことになる…。
作品講評「自分の人生を自分で決める」という既視感のあるテーマを活かすための設定がよく練られており、丁寧な作画で好感が持てた。一方でその丁寧さが固く見えてしまっており勿体なかった。キャラの表情や性格、演出も整っていたが、読者の予想を良い意味で裏切るには少し足りなかった。基本的な漫画の構成力は既にあるので、以降は読者に対してどうアプローチをするかを重視してみてほしい。

片翼の天使
青井彩佳
あらすじ天使の加護を信仰する町で、孤児のラドは本物の家族のように慕うケン兄たちと教会で穏やかに暮らしていた。ある日、隣町で連続殺人事件が起きる。被害者は必ず教会の近くで殺されているという噂で…。
作品講評決めゴマでのキャラクターの表情に感情がこもっていて、見せ場で読者を引き込めるほど魅力的に描けている。その分、画力や演出など、作画の力不足が残念。今後はデッサン力を磨きつつ、いろんなタイプの作品に挑戦して描ける絵の幅を広げていってもらいたい。

ベリーベリーハッピー健康ライフ
如月きさ
あらすじ一見すればホラー映画にでも出てきそうなオンボロホテル。しかしそこは宿泊客を"徹底的に健康にする"ホラーよりも恐ろしいホテルだった!? 繊細なタッチで描き出される痛快ギャグコメディ。
作品講評ホテルの廊下がランニングマシンになっていたり、美少女の支配人の圧が強かったりと、ギャグのセンスが随所に光っていた。ただアングルが似通っていて画面の変化に乏しく、背景の描き方にも荒さを感じる。笑いのセンスは十分に期待できるので、ボケやツッコミを引き立たせるにはどんな演出やカメラ位置が効果的か、勉強をしながらどんどん作品を描いていってほしい。

妄想女王
日高チトセ

第3回 MAGKAN(マグカン)漫画賞。今回はノミネート5作品の選出です。ご投稿いただいた方々に心から感謝申し上げます。
今回の応募作は全体的に基礎力が備わった作品が多く見受けられました。賞の回数を重ねるたび集まる作品。さらなる可能性と、ともに成長する喜びを感じさせていただけたことをとても嬉しく思います。
『あしたてんきになあれ』は、湿度さえも感じ取れるような空気感が心地よく、心情描写のリズムも相まって魅力ある導入となっていた。読み手を引き込む力量を感じさせられる作品。その反面、後半の展開は都合よく用意されていたかのような印象を受け、拍子抜けしてしまい勿体無い。今後は読者目線の視野を養い、それに応えるドラマづくりと展開の追求に力を注いでみてほしい。
『保健室の獏先生』は、ノミネート2回目、成長をうかがえる作家さん。少し固さを感じさせるが、センスや色気を醸し出す作画で安心して読み進めることができる。内容的には、謎めいた先生の秘密に触れ、巻き込まれてしまう主人公…といったものだが、抵抗はするもののアクションを起こしきらず流されたままの主人公という印象を受けてしまい、必然性とドラマ的には少し物足りない。ただ、コンセプト作りのポイントは掴めているので、今後、演出や展開をもう少し大胆に描いてみてみるとドラマの質の向上に繋がるかと。現実で起こすと「ありえない、バカだなぁ」と思えることでもマンガで表現すると意外に普通に見えてしまう傾向があります。
『ノルニルデストリカ』は、どこか愛らしさを感じさせるような作画やキャラクターが好印象。丁寧で安定感がある構成も特筆すべき点に思える。題材は、機械によって国民の運命が管理され、それによって平等で不安のない世界が保たれている…といったものだが、どこか既視感が伺えてしまう。予測的には、それに異論を唱える者が現れ、後ろ暗い真実が…というところまでは目の肥えた読者には想像できてしまうのではないだろうか。似たラインを辿るにしろ、作家自身が描くからこその付加価値を見出すことが大切。これだけは他者に負けないというような強みを自覚し、追求する機会にもしてほしい。
『片翼の天使』は、クライマックスの決めゴマのキャラクターの表情に引き込まれる。作家の熱がしっかりとこめられた作品という印象。全体的に拙さが見受けられるものの、反面伸び代を感じる。情報の整理や読者への伝え方、コマ割りの単調さ、作画の基礎力など、自身の課題点を自覚し、ひとつひとつ向き合えば、作品の質は見違えるものになると思う。
『ベリーベリーハッピー健康ライフ』は、繊細な線で描かれたコメディマンガ。アップテンポで勢いよく読める。キャラクターの掛け合いも微笑ましいし、面白く料理できていると思う。ちょっと強引なツッコミも心地良い。だからこそ今後は、フックづくりに意識を向けてほしい。読者が今何を求めているのかアンテナを張り、扱う舞台や題材を精査すると、商業で戦う上で、もう一段階上の視点を持てるようになると思う。
次回は2019年・夏(締切:8/31当日消印有効)。優秀な作品は即掲載、関西の編集者が担当に付き、ともに連載を目指すことができます。また受賞に至らずとも可能性を感じる才能の原石には編集部から担当希望のご連絡を差し上げることも。ここから将来、マグカンを代表作する作家さんが誕生することを心から願って――皆様のご応募、心よりお待ちしております。