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マグカンさんの作品:【第十九回】妖怪文化研究家 木下昌美さん

関西にいる「シュッとした」人たちから「シュッとした」お話を聞きたくて始めた、MAGKANインタビューコーナー!

第十九回は、

奈良で活動する 妖怪文化研究家の木下昌美さん にお話をうかがいました!妖怪文化研究家とは何なのか、妖怪への尽きない興味について語っていただいたインタビューです。

 

とにかく、読めるものは何でも読みます

──「妖怪文化研究家」とのことですが、お仕事としては何をなさっているんでしょうか?

木下(以下、K): 『奈良妖怪新聞』(大和政経通信社)というものを執筆・発行し、奈良の妖怪を紹介しています。あとはWebサイト『超!アニメディア』でコラムを書いたり、奈良県内の妖怪にゆかりのある地を巡るツアーの案内人を務めたりしています。昨年はお子様向けに『すごいぜ!! 日本妖怪びっくり図鑑』(辰巳出版刊)という本を出版しました。

今まで出版されたもの

 

──研究、という部分ではどういったことをするんですか?

K: 大したことはしていませんが、まずは図書館に行って、手あたり次第関係ありそうな文献を読んでいます。調べたい地域、例えば奈良だったら奈良市史とか、市町村が記録しているものなどに目を通します。思いもよらない意外な本に載っていることもあるので、探すところが一番大変です。過去には地域の情報誌にちょっとした記述を発見したこともありました。とにかく、読めるものは何でも読みます。なので、まだ読めていない資料がたくさんありますね…。

──文献ありきなんですね。

K: もともと国文学専攻ということもあって、私は本に書かれていることを元に調べるようにしています。「あの人がこう言っていたよ」というところからはスタートしないようにしています。研究者のスタイルや分野によってもこれは異なると思うんですが…。でも、妖怪に限らず、もし何かをご自身でも調べようと思うなら、それについて書いてある本は一冊でも多く読むことをオススメします。

──古いものから読んでいくんですか?

K: ケースバイケースです。例えば市町村史に目を通したとしましょう。もしそこで気になる話を見つけたら、その話を調べるために古いものへと遡っていくといった方法をとることもあります。現地取材に行く場合は、役場の方の協力も得ます。お話をうかがいに行くのも大変なんですけどね…。断られたり、嫌がられたりすることもたびたびあるので。

──取材先はやはり年配の方が多いんでしょうか?

K: そうですね。ただ、もうその地域にいる妖怪の話を知っている方ってけっこういらっしゃらなくなっていて。「昔、おじいちゃんが話していたけど、もう亡くなってしまった」とか「入院してボケているから覚えていないと思う」とか。調べだすのがちょっと遅かったなと思います。言い伝えられているものが、もういろいろ消えていっちゃっているんでしょうね。それは世の中の流れとして仕方がないことかな、とは思うので、書き残せるものは書き残していきたいと思っています。消えることは致し方ないことです。ただ昔の話が消えたとして、お化けの話まで丸っと消えることはないと思います。また現代に則した新しいお化けが発生するのではないでしょうか。


──木下さんのように、妖怪の研究者は他にも多くいらっしゃるんですか?

K: まあ私はナンチャッテ研究家ですが……。真面目に研究していらっしゃる方は分野や立ち位置問わず、たくさんいらっしゃいます。ここ最近は在野の方でも、妖怪に関する商業本を出す人が増えてきたように思います。それだけでなく、もちろん大学の先生で妖怪や怪異を扱っている方もいらっしゃいます。また小説家で、京都国際マンガミュージアムの館長でもある荒俣宏さんも、とても妖怪に詳しいことは有名ですね。荒俣さんは、かの有名な漫画家・水木しげるさんとの親交も深かったようです。

──そういえば、今日のワンピース、水木しげる先生のイラストですよね。かわいいです。

K: そうなんです。ありがとうございます。

 

進路指導の際に「妖怪の研究をしたいです」って先生に言って

K: あと、京都にある国際日本文化研究センター所長の小松和彦さんは妖怪研究の第一人者として有名です。昨年は上皇、上皇后両陛下の前で妖怪の話をされていました。紫綬褒章も受章されてたり…。

──ええ…!

K: 「妖怪がここまで認められる時代になったか」と盛り上がったように記憶しています。ちょっと前まで、妖怪は世間一般から見向きもされませんでしたから。時代が変わったことを私も感じました。

──木下さんは研究だけをお仕事としてされているんですよね。

K: 研究というか…文章を書いて設計を立てています。いや、お金を稼ぐのって大変で…(笑) 今は、たまたま周りに文章を書かせてくださるところがあったり、ツアー会社の方から声を掛けられて、いろんなツアーをやるようになったりしているので、運が良かったなぁと思います。

──でも、どうして「妖怪文化研究家」になったんですか?

K: 子供の頃からお話に出てくるお化けの話が大好きで。ずっとお化けや妖怪にまつわる話を調べて拾い集めていたんです。それから、高校生の時に読んだ何かの本で、妖怪を研究対象にすることができると知ったことがきっかけで、進路指導の際に「妖怪の研究をしたいです」って先生に言って。

──妖怪を研究対象に、って一体どういうきっかけが…?

K: 近所に、学校の先生ではないんですが、勉強を教えてくれる方がいたんです。その方もたまたまお化けが好きで、成績が上がるとお化けの本とかを貸してくれたり、プレゼントしてくれていました。完全にモノで釣る作戦ですね。そうするうちに、研究書のようなものももらうようになって、研究者がいることを知りました。印象に残っているのは、馬場あき子さんという方の『鬼の研究』(ちくま文庫刊)。馬場さんは歌人ですが、同書の中で人の心に住む鬼、人間の内面を通じて鬼を知るといったことに言及されていました。それから鬼にも興味を持つようになって、大学・大学院時代の研究テーマにもしました。

──大学生になった時に、関西まで出てこられたんですよね。

K: 先ほどお話しした進路指導の先生に「妖怪を研究したいって、そんなことを言われてもわからん」って放り出されて(笑) 出身は福岡なんですが、調べていたら同志社女子大学に鬼の授業をしている先生がいらっしゃったので、そのまま深く考えずに関西に来ました。

 

そもそも「河童」というのは関東地方の方言

──そういったきっかけで、奈良で今も研究を続けていらっしゃるんですね。

K: 研究を始めたきっかけとかは、あまり考えたことがありません。普通に小さい頃から好きなものだったので。ただ、大学を卒業するくらいまで「妖怪が好き」とは周りに言っていませんでした。言ったら変な人扱いされるでしょう?(笑) 卒業後に、SNSやブログで初めて妖怪好きの仲間は意外と多いって知って、公言するようになりました。

──そんなに好きなのに隠されていたんですか。では、妖怪の一番の魅力って何ですか?

K: 妖怪を通じて、その地域の風習や文化が見えてくるのが一番おもしろいです。別に妖怪そのものは信じていなくて、というか居ませんが、当時の人たちがどんな恐れ・畏れを持っていたのかとか、調べるとそういったことが見えてくるのが好きなんです。まぁ、自分でものを書くようになるまでは、ぼんやりとした“好き”で妖怪の何がどう好きなのかはわかっていなかったんですけど…。

──今、研究されているのはどの妖怪なんでしょうか?

K: 福岡県宗像市の河童を調べています。毎年、西日本のお化け好きの方々と一緒に同人誌を出しているので、そのために(笑) 地域によって、河童も違っていてややこしいんですよ。いっぱい種類がいて困るんです。名前も地域によって違いますし…。

──河童の名前が地域によって違う?

K: そもそも「河童」というのは関東地方の方言でした。他の地域では「ガタロ」と呼んだり、「河太郎」とか「ひょうすべ」と呼んだりで。それぞれちょっとずつ違う性質を持っていたはずです。ある時を境に河童に統合されてしまったんです。そうは言うものの、文献から河童以外の呼び名が消えているわけではありません。つまり今はひっくるめて河童と呼ばれているものが、本来の意味での河童ではない可能性もある訳です。

──では、奈良の妖怪にも特徴的なところがあるんでしょうか?

K: 奈良県は南の方がほぼほぼ山なので、山深い地域に根ざしたお化けが多いような気がしています。また近づいてはいけないと言われる場所や積雪が多いといった物理的に危ないところに出ることもあります。

──その中でも、特に気になっている話はありますか?

K: 有名な「砂かけ婆」という妖怪、あれは奈良県にも話が伝わっているんですが、何故奈良である必要があるのかと不思議に思っています。奈良の河合町というところには、砂をかけるタヌキやキツネの話が記録としてあることにはありますが、砂かけ婆の単語は特に出てこないんですよね。

──奈良には猫にまつわる言い伝えもあると聞いたんですが…。

K: 階段やお墓で転ぶと猫になる、という伝承は奈良県の各地にありますね。これも、何で奈良に多いのか、何で猫なのか、わからないんです。猫が身近な生き物だったというのは一つあると思うんですけど。坂が多い場所に伝わっているという感じでもないですし。

──正直、猫になれるなら転びたいですね。

K: 転んでみようかな、と言う人はよくいます(笑)

 

今みたいにお化けのバリエーションが豊かになったのは、江戸時代から

──それにしても、詳細がわからないもの、というのは多くいるんですね。

K: むしろわからないことだらけです。わからないからこそ、調べています。時代によって、または地域によって話の性質も変わってきますし、だからこそ、飽きもせずに興味を持ち続けていられているのかもしれません。

──時代を遡るほど、お化けや妖怪の記録がたくさんあるものだと思っていました。

K: そんなことはありませんよ。ただ、今みたいにお化けのバリエーションが豊かになったのは、江戸時代からでしょうか。それまでは鬼や天狗、鵺くらいで。大げさに言えば、わけのわからないものは全部鬼と表現しておけば良いだろう、という感じだったのかと思います。また、江戸時代と言えばお化けや妖怪の見た目がキャラクター化した点も大きな変化です。その時代は印刷技術の発達が目覚ましく、出版物が一気に広まりました。そのおかげでいろいろなものを作って、多くの人に見せることが可能になったという訳です。自然と創作系の妖怪もバーッと広まったんですよね。もしかすると今で言う「ゆるキャラ」に近い扱いだったのかもしれません。浮世絵にも、黄表紙(大人向けの絵入り小説)にも、たくさん使われていました。

──これから調べてみたい妖怪はいますか?

K: 「べとべとさん」をちゃんと調べないとなーと思いながら、まだやってないです。たぶん資料がたくさんあるので、一回やり始めたらややこしそうなので逃げてるだけなんですけど…(笑)

──「べとべとさん」?

K: 一人で夜道を歩いていると、後ろをついてくる妖怪です。奈良県でも伝承があって。

──あっ、道を譲らないといけないとか、そういう妖怪は聞いたことが…。

K: おっしゃるとおり、違う名前で他の地域にも伝わっています。本当に、どこに載っているのかわからないので、とにかく全部読まないといけなくて。それが面倒くさいなと思ってやれていないんですよ…。

──目印みたいなものがない中を調べていくんですもんね。

K: そうですね。ある程度は目星を付けますが、大外れすることもありますし、困ったものです。「べとべとさん」だけでなく、他に調べたいものや地域がたくさんありますが、もう手が回らなくって。誰かやれるならやってほしい!(笑) 地元である福岡の話も気になります。福岡をはじめ九州は海に囲まれているので、海系の話も多かったりと、また奈良とは違った魅力があります。

 

誰か助けてくれる人がいれば嬉しい

──資料である文章を読み続けるのも時間が要りますよね。

K: 文字が書いてあれば何でも読みたいので、苦ではないんですけどね…。仕事の一環という口実で、一日の半分は本か漫画を読んでいます。

──Instagramでは、グルメ漫画のレシピで作ったご飯の写真を載せていらっしゃいますよね。

K: 漫画もご飯も好きなんです。破天荒なメニューを作るなら『食戟のソーマ』(集英社刊)ですし、健康食に気を遣うなら『にがくてあまい』(マッグガーデン刊)。『にがあま』、好きなんです。野菜を食べたい時はこれですね。あと、手を抜きたい時は、よくめんつゆが使われる『きのう何食べた?』(講談社刊)ですし、『パパと親父のウチご飯』(新潮社刊)も作りやすいメニューがありますね。大体、作中のご飯がおいしそうだから作ってみるんですけど、描かれているご飯のようにおいしそうにはならない(笑) なったことが一回もないです(笑)

──ご飯といえば、いつの時代も大事なものだと思うんですが、食にまつわる妖怪がそんなに思いつかなくて。少ないんでしょうか?

K: 「ヒダル神」とか、「食わず女房」とか…少ないのかな。そう言われてみれば、あんまり考えたことがなかったです。妖怪って、くだらない、単純なこと、身近なことから発する場合が少なからずあるので、確かに不思議ですね。調べてみたら意外といるのかも。おもしろいですね。いいネタをありがとうございます。調べてみます(笑)

──では最後に、野望を教えてください。

K: 今は奈良のことを調べていますけど、周辺の地域や、地元、自分の身近なところにある、おばけの話を拾って深められたらなぁと思っています。それから、何年も前からユルユルと進めてはいるんですけど、奈良妖怪事典を作りたいです。とはいえ情報量が多いせいで全然一人じゃ進まなくって。あと数年? 数十年?はかかりますね…。誰か助けてくれる人がいれば嬉しいです。

 

Q.「シュッとしてる」ものって何だと思いますか?
K: 最近観た、『劇場版 新幹線変形ロボ シンカリオン 未来からきた神速のALFA-X』のシンカリオンですね。あと、これはネタバレになってしまいますが映画の中でゴジラが出てくるんですけど、その姿が今までになくシュッとしていました(笑)
──ゴジラ?
K: ゴジラ、好きなんです。怪獣もお化けみたいなもんなんで。お化け好きは9.9割怪獣好きではないかと、勝手に思っています。
Q.自分の名前で缶詰を出すとしたら、中に何を詰めますか?
K: オススメの古本とか、ジャンルばらばらの本を詰めたいです。同じラベルでも中身が一つ一つ違う、ガチャガチャみたいな感じで。

木下昌美


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妖怪文化研究家。奈良女子大学大学院卒業後、奈良日日新聞社に記者として入社。その後、フリーの身となる。妖怪に関する執筆だけでなく、講演や妖怪ツアー等も行っている。一番好きな妖怪の漫画は『百鬼夜行抄』(朝日新聞出版刊)

撮影場所:「カフェ ワカクサ」( HP )

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2020/2/1