関西にいる「シュッとした」人たちから「シュッとした」お話を聞きたくて始めた、MAGKANインタビューコーナー!
第六十回は、
羊毛フェルトで手のひらサイズの動物を制作されている、 Hirokoさん ! 動物を羊毛フェルトで再現する奥深さについてうかがいました!
3作目から販売するようになって
──X(旧Twitter)でいろんな動物の羊毛フェルト作品を掲載されていますよね。どれも可愛い子ばかりなんですが、作る動物はどのように決めているんでしょうか?
Hiroko(以下、H): ほぼ毎回一目ぼれですね。SNSとかで見ていて「可愛い! 作ろう!」みたいなノリで作っています。
2021年にSNSで話題になったエゾタヌキ
──今までで一番のお気に入りはどの動物ですか?
H: トラです。優しい顔にできたので。ただものすごく時間がかかりました。
H: 他の動物はけっこう毛が長いので、今まで身体の線のごまかしが利いたんですね。でも、トラは毛を短く作らないといけないので…。できるだけリアルに作りたくて、筋肉をすごく気にして作っていたんですけど、「モフモフしているくせにペッってやられたら死ぬんやろうな」っていう身体を作るのが大変でした。
──この足の太さと雄々しい感じがすごく素敵ですね。一番難しかった動物も、このトラでしょうか?
H: いえ、キツネがめちゃくちゃ難しかったです。思っていたよりも苦戦しちゃって…。
H: 激しく動く動物なので意外と筋肉質で、毛が短い部分があって。そのくせ毛が長くてふわふわしているところもあるので、骨格的な部分と相まって、なかなかキツネらしくならなかったです。本当に難しくて。
──とてもイキイキとして見えますが、そんな苦労があったんですね!
H: あと、難しいという意味では、何個作っても思い通りにならないのが猫ですね。
──意外です!
H: 家に猫がいるんですけど、身近すぎるのか、上手く表現できていない気がするんですよね。家の猫を転がして、「どうなってんの?」って言ったりしてるんですけど(笑) 絵を描いていた頃から猫が難しくて。その時は「猫に対して思い込みがあって、それを元に作っているから思い通りにならないんじゃないか」って言われたこともあります。
──絵も描かれていたんですね! 羊毛フェルトを始めたのはいつ頃からなんでしょうか?
H: 大体4年前くらいです。3作目から販売するようになって…。
──3作目から!?
H: 一つだけ、とりあえずハンドメイド作品の販売サイトに出品してみたんです。「これは売れるんだろうか」と思いながら、お試しで…。そうしたら、びっくりすることに3時間くらいで売れて。
3作目のハリネズミがこちら。
──3作目からこのクオリティ…!
H: 初めて作った時はマスコットみたいな見た目でした。YouTubeにある作り方の動画を見ながら、ほぼ我流で作っていったので、ハリネズミのトゲもどう表現したらいいのかわからなくて(笑)
初めての作品。トゲの部分は毛糸。
H: 2作目からリアルにしようと作り出したらものすごく時間がかかって…。そこからハマりました。
2作目のハリネズミ。
H: ハリネズミはお餅のように形が崩れる生き物なので、その丸みを表現したくて。砂袋って言うんですかね、丸い袋に砂を入れたら、下にズドンと形が落ちるじゃないですか。そんな風にしたくて、難しいなぁと思いながら作っています。
──ハリネズミへの愛ですね…! もともと手芸がお好きだったんですか?
H: 子どもの頃からずーっと何かを作ってますね。絵も描いていたし、編み物もしたし、ビーズもしたし、本当に手当たり次第に…。とにかく何かを作っているのが好きなんです。羊毛フェルトみたいに、一つのものをずっと作り続けているのはずいぶん久しぶりで。
──羊毛フェルトの直前は何を作っていらっしゃったんですか?
H:何してたかな…。あっ、自分の部屋を改造していました。純和室の部屋に、引き戸と本棚を作って、壁と天井を塗り替えて、床をフローリングにして洋室に。刺繍とか、貝を削っていろいろ作ったりもしてましたね。いろんなことをするのが本当に好きで。
──その中でもどうして羊毛フェルトを始められたんですか?
H: 羊毛フェルトで作られたハリネズミを見て、すごく可愛かったんですけど、その作家さんが人気すぎて買えなかったんですよ。「じゃあ自分で作ってみよう」と思って始めたのがきっかけです。
──ハリネズミがもともとお好きだったんでしょうか?
H: ハリネズミを飼いたいなってずっと思っていたんです。Instagramで飼われている方を見て、めちゃくちゃ可愛いなと思って。飼いたくて飼いたくてずーっと調べていたんですけど、寿命が4年くらいだから、「4年でお別れなんて絶対できない!」と思って諦めました…。
月に二つくらいは作りたい
──動画を見ながら羊毛フェルトを始められたとのことでしたが、どなたを参考にされていましたか?
H: 「 Wakuneco. 」さんっていう、ものすごくリアルな猫を作っておられる方です。作っているところをすごく細かく動画にあげてらっしゃるので、「あー、こうやってやるんや」って見ながら作っていました。
──そこからはほぼ我流とのことでしたが、いつもどういう工程で作っていらっしゃるんでしょうか?
H: 土台になる芯を作ったら、あとは肉付けしていくような…。たぶん粘土に似ていると思います。どんどん肉を足していくような。それである程度輪郭ができてから、羊毛フェルトで植毛していくんです。
──羊毛フェルトって針で刺せば刺すほど圧縮されて、小さくなっていってしまいますが、植毛するためには針をたくさん刺す必要がありますよね。土台が小さく縮んでいってしまわないんでしょうか?
H: 多少縮みます。なので、押しても戻ってくるくらい、土台はかなり硬く作っています。あと、毛を増やしていくと、膨れるというか全体が大きくなっていくので、ある程度細めの土台を作るようにもしていますね。一番時間がかかる作業です。
──動物によるとは思いますが、一つ作るのにどれくらい時間がかかりますか?
H: 平日は仕事で作業ができないので、大体休みの日に作っているんですけど、10~15日くらいですね。月に二つくらいは作りたいと思っているので。ただ最近は集中力が全然なくて、気づいたら寝ている時もあります(笑)
──動物を専門に作られていますが、何を参考にして作っておられますか?
H: 大体は写真ですね。一つを作っている合間に次の作品の資料集めをずっとしています。結構時間がかかるんですよ。正面だけの写真が多くて…。本当はぐるっと一周の写真が欲しいくらいなので。でもペット自慢するなら、皆さん正面からの写真を載せたいじゃないですか(笑)
──確かに…(笑) じゃあ腕の太さやバランスは感覚的に作っているんでしょうか?
H: いえ、頭の大きさを決めたら、何頭身だから身体はこれくらいの大きさの芯を作ろうとかで、測りながら作っています。腕の太さは鼻の大きさの比率から考えてバランス見たりとか…。あと、骨格はかなり気にして作っていますね。
──けっこうきっちりとバランスを見て作られているんですね! 何か動物のことで勉強なさっていましたか?
H: いえ、そういうわけではないです(笑) でも、絵を描いていたので、人間のデッサンの勉強と一緒に動物の描き方の本もいろいろ読んだことがあって、そのあたりが役に立っているのかもしれません。
──なるほど、ベースとなる知識が絵にあるかもしれませんね。バランスの他、色合いも大事にされていることの一つですか?
H: そうですね。リアルなものを作る時はなるべくリアルな色に寄せますけど、ちょっとデフォルメが入ってもいいかなと思う時は少し明るめの色にしています。実際の色のとおりに作ると、かなりダークになってしまって映えないというか、少し明るめにしたほうが何となく可愛く見えるんですよね。
──想像している動物と、実際のその姿って全く異なりますもんね。ちなみに一番気になっているけどまだ作っていない動物はいるんでしょうか?
H: オオカミです。漫画の『ゴールデンカムイ』(集英社刊)を読んで、めっちゃ好きになったんです(笑) 憧れというか。
──『ゴールデンカムイ』がきっかけで!!(笑)
H: そういうきっかけばかりです(笑) 天王寺動物園でウロウロしているオオカミをじーっと見たりもしたんですけど、小さい手のひらサイズの作品にしてカッコよく作れるんだろうかってずっと思っていて。いつか作ろうと思い続けているのがオオカミなんですけど、その練習のために次は犬…柴犬を作ろうかなと思っています。
もっとリアルに作りたい
──今はオークションで販売されていますが、購入された方へお渡しするにあたって、大事にしていることは何ですか?
H: 羊毛フェルトは繊細なので、絶対にダメージを与えないように配送することと、手に届いた時に「買ってよかった」って思ってもらえるようなラッピングをすることですね。。
──対面での販売ではない分、受け取られた時にどう思われるかはとても気になりますよね。
H: たまに写真を送ってくれる方がいらっしゃるんです。スズメを庭の木の上に置いて「本物っぽいでしょう」と送ってくださったり、買われて何年か経ったあとにも「今はこんな感じです」ってディスプレイした様子を送ってくださったりして、すごく嬉しいし、安心しますね。
──動物たちへの愛を感じますね。これからも作品を作り続けていく上で、高めたいと思っている技術はありますか?
H: 足とか爪とか、細かいパーツをもっとリアルに作りたいです。本当に存在してるように見えるように。
──例えば歯とかも?
H: そうですね。口を開けた状態ってすごく難しいんですよ。一回作ってみたんですけど、「怖…っ」ってなっちゃって(笑) でも、そういうところを生きている動物のように、かつ怖くないように作れるようになりたいですね。
──表現の幅が広がりますね! では、これから挑戦したいことは何ですか?
H: 以前、ウミガメを作るのにワックスを使ったんですけど…。
──すごい! 羊毛フェルトには見えない質感が出ていますね。
H: 溶かしたワックスを塗って、磨く技法を紹介されている作家さんがいたので、参考にさせていただきました。耳や鼻を作るのにワックスを使っているんですけど、そういうパーツだけじゃなくて、全体的に使ったらおもしろいんじゃないかなと思って。
──羊毛フェルトの作品でなかなか見たことのないリアルさです。
H: 形を作ってワックスで固めてから、さらに削ったりしているので、あまり羊毛フェルトっぽくないですよね。他にももっといろんな動物を作れるんじゃないかなと思っていて。硬いイメージの動物だけじゃなくて、クジラとか。そういうものを作れたらいいなぁと思っています。
──わぁ、楽しみにしています!
Q.「シュッとしてるもの」って何だと思いますか?
H: イメージだと細い女の人や背の高い人とかなんですけど…動物なら細―い犬ですかね。アフガンハンドとかの、顔が長くて長方形みたいな感じの犬です。
Q.自分の名前で缶詰を出すとしたら、中に何を詰めますか?
H: 缶詰に詰めるものって言ったら、アイディアとか食べ物とかのイメージしか浮かばなくて…。自分に関係させるとしたら羊毛フェルトのキットとかですけど、困るやろうしな(笑) あるといいなぁと思うのが、いつでも食べられる美味しいチーズケーキですね!
Hiroko
【 X 】
大阪府出身。Xには作品や制作過程を掲載し話題に。作品はオーダーではなくオークションで購入可能。好きな漫画は『ゴールデンカムイ』(集英社刊)。