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マグカンさんの作品:【第五十五回】絵本作家 長谷川義史さん

関西にいる「シュッとした」人たちから「シュッとした」お話を聞きたくて始めた、MAGKANインタビューコーナー!

第五十五回は、

絵本作家の長谷川義史さん ! 絵本作家としての活動や関西弁の魅力について伺いました。

 

「長谷川義史」さんって?

大阪府藤井寺市出身。グラフィックデザイナーなどの経験を経て、2000年に『おじいちゃんのおじいちゃんのおじいちゃんのおじいちゃん』で絵本作家としてデビューして以来、数多くの作品を生み出し続けている絵本作家。MBS放送の番組『ちちんぷいぷい』では名物企画『とびだせ! えほん』を10年間担当し、その温かい語り口でお茶の間でも大人気。

 

松竹新喜劇やプロレスを観て育った

──これまで数多くの作品を生み出してきた長谷川さんですが、とあるインタビューで「松竹新喜劇」が原点であると仰っていましたね。

長谷川さん(以下、H): 松竹新喜劇のような絵本を描きたいと思って描いているわけではないんですが、松竹新喜劇の影響が作品に現れている部分はあると思います。最初はもっとかっこよくてお洒落な、若い女性が好むような絵本を描きたかったんですけど、実際に描いてみたら僕はそういうタイプではなく、読者の人から「松竹新喜劇みたいですね」って言われたことがあって。考えてみたら、子どもの頃から松竹新喜劇は好きでよく観ていたんですよ。

──長谷川さんが子どもの頃は松竹新喜劇が土曜日のお昼に、テレビで放送されていたんですよね。

H: 土曜日は小学校から帰ってくるとまずは吉本新喜劇がやっていて、そのあとに松竹新喜劇を観るというのが黄金の流れでした。

──松竹新喜劇といえば、吉本新喜劇とはまた少し違ってストーリーがきっちりある「人情喜劇」ですよね。小学生なら、吉本新喜劇派が多かったのではと思いますが…。

H: 普通の子どもは吉本新喜劇のほうが好きだったと思いますよ。松竹新喜劇は人情の裏側を観ないといけませんから。たぶん僕は少し変わった子というか、そういうところがあったんだと思います。教室の隅から冷静にクラスメイトのことを観察しているような感じで、一学期や二学期はあんまり目立たないけど、3学期で追い込んでいくタイプというか(笑)

──あまり人前に立つタイプではなかったということですかね。

H: 目立ちたがり屋ではなかったですが、人前で何かをすることに対しては嫌そうに見えてわりと好きだったところもありました。でも調子に乗ってはしゃいだり、ふざけて笑いを取るのは好きではなかったです。時々ぼそぼそっと面白いことを言うタイプというか…。

──なんとなく想像がつく気がします(笑) では、当時他にハマっていたものや影響を受けたものはありますか?

H: アントニオ猪木の時代のプロレスは好きで観ていましたね。だんだん過激になっていくにつれて観なくなってしまいましたけど。

──そういえば、キラーカーンのYouTubeを観ていると仰っていましたよね。

H: そうそう! たまたまYouTubeのおすすめに出てきたから観てみたら面白くて(笑) これは松竹新喜劇に通じるものがあると思いますよ。キラーカーンって日本人なんですけど、大相撲の春日野部屋に入門廃業を経てヒール役のモンゴル人レスラーとして再出発した選手でして、体が大きくていかつい風貌の方なんですけど、当時の試合や動画を観ていると優しい心がある方だと思うんです。そういう意味で彼は人情の人だと思うので、松竹新喜劇と通ずる部分を感じます。松竹新喜劇やプロレスを観て育ったので、やっぱり絵本の中にも家族とか人情とか、そういう不細工なものが自然と出てしまっているんだと思います。やっぱり育ちや経験というものはどんな人でも作品に出てきますからね。

 

「長谷川さんの絵は饒舌ですよね」と言われた

──これまで制作した中で一番思い出に残っている絵本はありますか?

H: よく聞かれるんですけど、自分で作った作品は全部自分の子どもみたいなものなので、これが一番というのはなかなか言えません。でも、やっぱり思い出に残っているのはデビュー作の『おじいちゃんのおじいちゃんのおじいちゃんのおじいちゃん』という作品です。本当に大変だったんですよ。全くの素人だったので、あれだけ絵本を描きたかったのに実際に描いてみる段階になると、何もできなくて…。一から編集の人に教えてもらって、かなりしごかれましたね(笑)

──そうだったんですね。初めての作品は作り上げるまでに大体どのくらいの時間がかかったんでしょうか?

H: 3年ぐらいかかったと思います。何の期待もない新人作家の一作目ということで、締め切りが無かったんですよ。僕は締め切りがあるからこそ、その期限から逆算して何とか自分の納得できる絵を描いていくことが出来ると思っているので、締め切りがないということは本当に恐ろしかったです。今となっては締め切りは恐ろしいことですけど(笑) 僕の絵、わりと一発仕上げみたいなところがあって、パソコン上で修正したりしないんですよ。調子が良い日は一日で何枚か描けたりしますが、絵本によっては一旦失敗し出すと、もう一週間ずっと失敗しっぱなしで頭おかしなってきたりとか。だから、締め切りがあるとそれに向けて「何とかしないと!」と気合も入りますし助かるんですよね。

──長谷川さんでもそういう瞬間があるんですね。

H: ありますよ。というか立ち向かうまでが嫌なんです。「やらなあかんよな」という、もやもやした嫌な精神状態が続く日があって。結局、頭で考えているだけではダメで、手を動かさないと結果は出ないんですけどね。

──長谷川さんは作画だけを担当されることもありますが、そういう時はどんなことを意識されているんですか?

H: 文章に対しては「ここをもっとこうしてください」というような要求などはしません。自分も言ってほしくないタイプなので。そして、人の文章で自分が絵を描くときに独りよがりになるような絵にならないように気を付けています。昔、幼年童話の挿絵を描いたことがあって、その時の編集者の人に「長谷川さんの絵は饒舌ですよね」と言われたことがあるんです。それはいい意味で言ってくれたんですけど「今回は語る一歩手前の、引いた絵を描いてください」って言われまして。その一言で絵が変わったんですよ。それまでは書いてある文章を追って、登場人物のポーズであるとかを過剰に描くところがあったんですけど、それ以来、同じ文章を読んでもどういう絵を描けば過剰に描かずに読者に伝わるか、バランスを考えるようになりました。でも、文章の方に絵を最初見られたときに「ああ、こういう絵になるんや」という、いい意味の裏切りは与えたいので、難しいですね。自分で全部作った方が気楽です(笑)

 

関西弁は関西独特の形容詞や感情を伝える言葉が多様にある

──翻訳された『どこいったん?』(クレヨンハウス刊)や『ちがうねん』(クレヨンハウス刊)ではあえて関西弁を使用されていますが、長谷川様が思う関西弁の魅力を教えてください。

H: 関西弁は凄く奥が深くて、表現として面白いと思います。翻訳する中で気が付いたんですけど、関西弁は関西独特の形容詞や感情を伝える言葉が多様にあるんですよね。あと、一言で言い表せる言葉が多いと思います。だから翻訳するときに、「お、この言葉ぴったり!」という短い言葉を探し当てたときは、言葉探しみたいなところがあって面白かったです。やっぱり、関西は元々商人の町だからユーモアのある言葉で相手とコミュニケーションをとり、潤滑な状態にして、商売を上手いこと成り立たせないといけなかった。だからこそ面白い言葉がいっぱいあって、それが関西弁の魅力なんだと思います。

──なるほど。そもそもこの絵本を関西弁で翻訳することになったのは、長谷川さんのアイデアだったのでしょうか?

H: この絵本の翻訳は出版社の人から関西弁にしてくれって言われたんです。その意図としては関西弁にしたら、ほんわかとした温かい印象が出るのではないかということだったんですが、この「ほんわか」っていうのはどういうことなのかと言えば、さっきも言ったように人とのコミュニケーションをとる上で白黒はっきり言わずに上手いこと「まあまあ、ええやんええやん」といういい意味での適当さみたいなものに由来する気がしますね。

──いい意味での適当さ…。確かに関西人って「知らんけど」って言いながら喋り出しますしね (笑)

H: ただ、やっぱり関西圏以外の方は関西弁で訳してくれってなるとめちゃくちゃ関西弁を求めるんですよ。「~でんがな」「それはちゃいまんがな」みたいなものや、英語の「I(=わたし)」は「わて」じゃないんですか?と。「いや、なんぼ関西弁にしてくれ言われてもそんな言葉いいません!」といつも思いますね (笑) 関西弁って言葉のリズムとかメロディ、音域が違うだけで同じ言葉は多いですからね。でも、関東の方にはそれが分からないみたいで、過剰に関西弁にしてくれと言われることがよくあります。

──長谷川さんは定期的に絵本ライブを開催されていますが、子どもたちに読み聞かせをする際にあえて関西弁を使ったりすることはあるのでしょうか?

H: 絵本ライブの時は自然に関西のイントネーションになってることはあると思うんですけど、基本は関西弁ではない言葉で書かれているものはその通りに読みますし、無理やり関西弁や関西のイントネーションで読むということはしていません。ただ、自分の子どもが小さい頃に絵本を読み聞かせる中で、翻訳されたファンタジックでお洒落な外国の絵本を、文章を見て瞬時に関西弁に訳して読むと、物凄く子どもにウケたことはあります。その絵本の雰囲気と、僕が読む関西弁とのギャップが面白かったみたいで。やっぱり関西弁ってズルいですよね、面白いですから。

 

絵本ライブという形が出来上がったのは子どもたちの厳しい視線のおかげ

──絵本ライブはいつ頃から始められたのでしょうか?

H: デビューして暫くしてから、講演会でもないですけど…ちょっとお話してください、という依頼が来たんです。絵本作家の中にはそうやって人前で話す人と話さない人がいるんですけど、僕は話す人になろうと思っていたんです。

──それはどういった理由からでしょうか?

H: 全然知らない土地に行けるからです(笑) でも実際に行ってみると、一時間~二時間ぐらい何かを喋らないといけないんですよ。それに絵本がテーマだったりすると、親御さんたちに連れられた子どもの参加者も多いんですが、子どもなんて僕の話を静かに聞いてられるわけがないじゃないですか。勿論、大人だって面白い方がいいですし、みんなが飽きずに楽しめる時間になるように「なんとかせなあかん」と思って、まずはその場で絵を描きながら話をしたら、子どもも大人も楽しんでくれて。じゃあ次はどうしよう、「ウクレレでも適当に弾いてみようかな」とか、あの手この手でみんなが飽きないように、自分なりに工夫して今のスタイルになりました。特に子どもって本当に素直で分かりやすいので、嫌だったら嫌だし、つまんなかったら、あからさまに態度に出ますからね。だから、いまの絵本ライブという形が出来上がったのは子どもたちのそういう厳しい視線のおかげですね(笑)

──絵本ライブなどでは子どもから質問が来ることもあるようですが、驚いた質問はありましたか?

H: いっぱいありますよ。大人の人はだいたい、「まあこういうこと聞いてくるだろうな」っていう予想がつくことばかりなんですけど、子どもは意表をつくことを聞いてきますからね。「収入いくらですか?」とか普通に聞いてくるし(笑) 他にもびっくりすることはいっぱいあって、『おかちゃんがつくったる』という僕が体験した実話を元にした絵本があるんですが、父親が亡くなって、母親が女手ひとつで一生懸命働いて育ててくれるという話をつい先日絵本ライブで読んで、終わってからサイン会をしたんです。その時に、ひとりのお母さんが「反抗期も始まりつつある6年生の息子が、長谷川さんの読み聞かせを聞いて、急に育ててくれてありがとうって言ってくれました」と話してくれて。「ようそんな素直な言葉発するな」と驚きましたね。でもそういう思いもよらない何かを引き出す力が絵本にはあるんだろうなと思った出来事でした。

──恥ずかしくてなかなかお母さんに言えない言葉ですね。長谷川さんが思う絵本の役割って何だと思いますか?

H: 役割…は分からないけど、いま世の中が良くない方向に向かっているような気がしますよね。平和じゃない方向というか…。僕は絶対平和な方がいいに決まってるし、戦争や紛争なんかすぐ止めたらいいと思っています。そして平和のために武器を持つってことは間違っている。「ほな、どうやって戦うねん」ってなると、絵本作家としては平和へのメッセージや思いを、ちゃんと声をあげて伝えていくことが大事だと思っていますね。

──絵本を制作し続けるために意識的に行っていることや、気を付けていることなどはありますか?

H: まずは絵本を描くにはやっぱり絵が描けないとどうにもならないので、絵をしっかり描くということですね。絵が描けないと表現できませんから。あとは何事にも興味を持って、面白がることですかね。日常生活の中で、気になった一言から想像が広がって絵本になる場合があるので、アンテナを常に立てておくことは大切だと思います。でもこの三年ぐらいはコロナ禍で人との交流が減ったのですごく困りましたね。やっぱりどこかへ出かけて、人と会ったり行動しないとアンテナに引っかかるものもなかなか見つけられませんから。いまこうやってインタビューを受けたり、編集の人と飲みに行ったりする中で「あ、それ面白いですやんか。絵本にできますやんか」ということを、人に見付けてもらうこともあるので。

──では…ぜひキラーカーンをモデルにした絵本を…(笑)

H: そうそう、そういうことなんですよね! キラーカーンって商標登録…してるんですかね?(笑)

 

Q.「シュッとしてるもの」って何だと思いますか?
H: 僕がシュッて使うときは馬鹿にして使っていると思います。裏返せば自分がシュッとしてないからですけどね。シュッとしたくもないんですけど…。僕はシュッとしている人あんまり好きではなくてシュッとしてない人の方が好きです。前に東京の人が、関東は権威っていうのをちゃんと守ってくれると言っていました。絵本の「先生」ということを大切にしてくれると。でも大阪だと「え? 先生? 賢いのん? あぁ、この人自分のことかっこいいと思てはんねや~」みたいな、打ち砕かれるようなこと言われるらしいんです。だから関西は恐ろしいって言っていました(笑) だから「シュッとしてる」も「先生」というのと一緒で喜んでたら大間違いだと思います。ちょっと馬鹿にしてますからね、関西人が使うとき。だって女の人が「シュッとしてはるわ」って男性に言うときって、絶対心奪われてないですもん!
Q.自分の名前で缶詰を出すとしたら、中に何を詰めますか?
H: 空(から)!
──それは何も入っていないというドッキリのようなイメージでしょうか?
H: それもありますけど、何が入っているんだろうという期待を裏切って「ええー。なんも入ってへんやん。何これ? どういうこと? 長谷川さんらしいなあ」と思って欲しいんです。俺に何も期待するな、何もないぞという意思表示です(笑) そのかわりに害も与えないからと(笑)

 

長谷川義史


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1961年生まれ、大阪府藤井寺市出身。『おたまさんのおかいさん』(解放出版社刊)で第34回講談社出版文化賞絵本賞、 『ぼくがラーメンたべてるとき』(教育画劇刊)で第13回日本絵本賞と第57回小学館児童出版文化賞、『あめだま』(ブロンズ新社刊)では第24回日本絵本賞翻訳絵本賞を受賞。他、数々の賞を受賞し、精力的に活動を続けている。

撮影:青谷建

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2023/5/1