新連載! 漫画『妖怪めし』と連動して、妖怪文化研究家 木下昌美さんの妖怪コラムをお届けします。また作中に登場するレシピをもとに、実際にご飯を作ってみました!
最終回、「妖怪は何故生まれるのか」。
『妖怪めし』ついに完結です。ここに至るまで多種多様な妖怪が登場しましたが、如何でしたか。優しい妖怪もいれば悪さをする妖怪、意外な一面を持つ妖怪もいました。彼らにはそれぞれ事情や背景があり、一括りにできるものではないことが窺えたのではないかと思います。
作中最後の敵は、不浄の王。彼を形作ってしまった主成分は「穢れ」であるといいます。穢れは私たちの生活の、至る所で発生します。例えば神社や寺で行う手水。参拝前に流れる水で手や口をそそぐ行為のことですが、穢れを取り去り浄化する意味が込められています。
日本国語大辞典で穢れをひくと「①けがれていること。きたないこと。不潔。よごれ。②人の死や出産などの不浄。服喪中であること。また、月経中であること。これらの間は神仏に参ることや人と会うことなどを避ける習慣があった。③悪習にそまること。みにくくなること。不名誉であること。卑劣。名折れ。…」と書かれています。恐らくみなさんの想像通りでしょうが、マイナスの印象を受ける言葉が並んでいます。
妖怪が生まれる理由は様ざまありますが、そのひとつに人間が目をそむけたくなる部分も内包しつつ表現してくれるからという面があると考えます。
『平家物語』「剣の巻」に、とても妬み深くある女をとり殺すため、生きながらに鬼になることを願った女性の話があります。俗に橋姫または宇治の橋姫と呼ばれますが、彼女が貴船神社に籠ると貴船大明神より鬼になりたければ宇治の河瀨に行き21日間浸かるよう告げられるのです。その通りにしたところ女性は本当に鬼と化し、恨めしく思っていた女や、縁者を殺して回ります。
また時代は下りますが、戦国時代の鍼治療の名医・茨木二介元行による古写本に『針聞書』というものがあります。現在は九州国立博物館が収蔵しており、実際に目にしたことがある方もいらっしゃることでしょう。この書には63種もの腹の虫が描かれています。病の原因となるものを虫として描くことによって表現しているのです。
これらの例からも、妬みという人が目をそむけたくなる部分を「鬼」として、病に対する不安を「ムシ」として、バケモノたちが担ってくれていることがわかります。先に書いた通り、妖怪は人間のマイナスの側面を埋めてくれる存在であることが見て取れるのです。
すべての妖怪がそうしたことを理由に誕生する訳ではありませんが、これまで『妖怪めし』に登場した妖怪たちも、もしかしたら私たちが隠しておきたいことを代わりになって表現してくれていた……のかもしれませんね。
さて。長らくお付き合いいただきました『妖怪めし』コラムも、これにて終了です。最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました。物語は幕を引きますが、忌火と兵徳の暮らしは今後ますます彩り豊かになっていくことでしょう。彼らのそんな姿を想像しつつ、いつかまた成長した彼らが皆さんの前にひょっこり現れることを願っています。
【参考文献】
・宮田登「ケガレの民俗誌 差別の文化的要因」【1996/人文書院】
「赤飯朴葉寿司」レシピ動画
【品書き】
★赤飯朴葉寿司
★わかめと海苔のお吸い物
◎材料(2人分)
〈赤飯〉
・小豆:50g程度
・小豆のとぎ汁:300cc(足りなければ水を足す)
・もち米:2合
〈鰻実山椒煮〉
・鰻の蒲焼:1尾
・酒:大さじ1
・みりん:大さじ2
・砂糖:大さじ1
・山椒:適量
〈奈良和え〉
・ニンジン:2分の1本
・シイタケ:2~2個半
・奈良漬け:2切れ
・だし汁:50cc程度
・しょう油:大さじ1~2
・砂糖:大さじ1~2
〈キュウリの漬物〉
・キュウリ:1本
・塩:大さじ1~2
・生姜:適量
・しょう油:大さじ3
・砂糖:大さじ2
・酢:お好みで
〈わかめのお吸い物〉
・だし汁:500cc
・わかめ:適量
・海苔:適量
・かまぼこ:4切れ程度
・塩:小さじ2分の1
・薄口しょう油:小さじ1
〈赤飯〉
①もち米は研いでたっぷりの水に浸けて吸水し、水気を切っておく。
②小豆は洗って鍋に入れ水を入れ火にかける。ひと煮立ちしたら中火にして茹で、ざるに上げる。小豆を鍋に戻し入れて、たっぷりの水を入れる。ひと煮立ちしたら、弱火にしてしばらく煮る。手でつぶせそうな硬さになるまで続ける。
③鍋にもち米と煮汁を入れ、上から小豆を入れる。
④米と同じように、様子を見ながら炊く。
〈鰻実山椒煮〉
①の蒲焼(動画では市販品)を一口サイズに切って鍋に入れ調味料と粒山椒を加え、煮立たせる。
②水分が少なくなり照りが出て来たところで完成。
〈奈良和え〉
①ニンジンを紅葉型にくり抜き茹でる。
②フライパンに軽く油をひいてニンジン、シイタケを炒める。
③出汁、しょう油、砂糖を入れて煮立たせる。
④を止め仕上げに細かく切った奈良漬けを加える。
〈キュウリの漬物〉
①キュウリは食べやすいサイズに、生姜は千切りにして袋に入れ、塩をもみ込む。
②①をしばらく置いた後、フライパンに調味料と一緒に入れてひと煮立ちさせる。
☆朴の葉の上に赤飯を握って乗せ、その上に具材を乗せて完成。桜でんぶで彩りを添えても良し。
〈わかめと海苔のお吸い物〉
①出汁を取り、塩としょう油で味付けする。
②①にわかめと海苔を加える。
③かまぼこを添えて出来上がり。
「赤飯朴葉寿司」と「わかめと海苔のお吸い物」の完成!
文・レシピ:木下昌美
木下昌美
【 Twitter 】【 Instagram 】【 ブログ 】
妖怪文化研究家。奈良女子大学大学院卒業後、奈良日日新聞社に記者として入社。その後、フリーの身となる。妖怪に関する執筆だけでなく、講演や妖怪ツアー等も行っている。
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