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マグカンさんの作品:【解説】第三回「こんにゃく橋の幽霊」(こんにゃく寿司・のっぺい【レシピ付き】)

新漫画『妖怪めし』と連動して、妖怪文化研究家 木下昌美さんの妖怪コラムをお届けします。また作中に登場するレシピをもとに、実際にご飯を作ってみました!

第三回は、「こんにゃく橋の幽霊」。

さて、一体どんな妖怪なのか…?


 美味しいだけでなくヘルシー食品としても注目を集める「こんにゃく」は、古くより日本の食卓に欠かせない食材でした。

 平安時代中期の漢和辞書『倭名類聚鈔』(※1)にも、その名が見えます。曰く蒟蒻の根は太くて白く、灰汁で煮て凝成(ぎょうせい)させて食べるとのこと。

 また江戸時代に入るあたりでは、より一層食材として注目を集めていたのでしょう。同時代中期の本草書『本朝食鑑』(※2)では採取時期や食べ方について細かく言及している上、どこそこの産地のものが良いとまで記されています。しかしながら、その味は取り立てて美味しい訳ではないそうで、なんとも残念。体を冷やす作用があり糖尿病や腫れものを治してくれるとありますので、医薬食品としての役割も果たしていたことがわかります。

 現在はスーパーで気軽に手に入るこんにゃくですが、こうして見ると様ざまな時代を生き抜いてきたんだなと感慨深くもありますね。

 この度『妖怪めし』に登場するのは、そんなこんにゃくに縁の深い幽霊です。そこだけ聞くと『怪談模模夢字彙(かいだんももんじい)』(※3)かな、と想像される方もいらっしゃるかもしれませんがそちらではありません。奈良県天理市稲場町に伝わるお話です。

 町のとある橋にこんにゃくを咥えた亡霊が出没するそうで、その名も「こんにゃく橋の幽霊」と言います。幽霊の正体はこんにゃくのことで夫婦喧嘩をし身投げした女性。『天理市史』などにも見えますが、稲葉の孫兵衛という麹屋がある夜の帰り道、石橋にてこの幽霊に出会います。孫兵衛が必至に念仏を唱えた結果、九十九遍目にようやく消え失せたのだとか。

 お話の地で生活する方々に話を聞いてみると「あそこではないか……」と、ぼんやり伝わっている橋があるとのこと。場所を聞きだし、私も足を運んでみました。

 現在、田畑が広がる同町には、大和川と布留川の合流点から派生したとみられる川が流れています。そのため随所に小さな橋が架かっているのですが「こんにゃく橋の幽霊」が出るとされるのも、その内のひとつ。

 長さは軽自動車1台分ほどでコンクリート製、脇には地蔵が祀られていました。本当にこの橋が、件(くだん)のこんにゃく橋かは定かでないものの、少なくとも一部ではそのように扱われている橋が実在することが判明。まわりに民家も少ない、なんとも物寂しい雰囲気が漂う場所でした。

 しかし一体全体、こんにゃくの何が原因で喧嘩になったのでしょう。“こんにゃくは体の砂払い”と言いますが、あの世ででも夫婦が内に溜まったものを吐き出して仲良く幸せにいてくれることを願います。

【注】
※1 国立国会図書館デジタルコレクション 『倭名類聚鈔 20巻』
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2544224
※2 京都大学貴重資料デジタルアーカイブ『本朝食鑑 12巻』
https://rmda.kulib.kyoto-u.ac.jp/item/
※3 山東京伝著・北尾重政画 黄表紙『怪談模模夢字彙(かいだんももんじい)』には「こんにゃくの幽霊」が登場します。

【参考文献】
・天理市史編纂委員会編『天理市史』1958/天理市

 

こんにゃく橋の幽霊も夫婦仲良く食べられますように「こんにゃく寿司・のっぺい」レシピ動画


【品書き】
★こんにゃく寿司
★のっぺい

◎材料(2人分)

〈こんにゃく寿司〉
・こんにゃく:1枚
・出汁:こんにゃくが被るくらい
・みりん:大さじ1~2
・砂糖:大さじ1~2
・しょうゆ:大さじ2~3
・酒:大さじ1~2
・塩:少々
・塩麹:小さじ2~3
・米:2合
・みょうが:適量
・青じそ:適量
・生姜:適量
・いりごま:適量
・唐辛子(好みで入れても良し):1本
・米酢:180~200cc
・砂糖:大さじ4~5
・塩:大さじ1より気持ち少なめ

〈のっぺい〉
・こんにゃく:1枚
・里芋:4~5個
・大根:3分の1本
・にんじん:2分の1本
・厚揚げ:1~2個
・出汁:具材が被るくらい
・しょうゆ:大さじ2~3
・塩:適量
・みりん:大さじ1~2
・砂糖:大さじ1~2
・酒:大さじ1~2


〈こんにゃく寿司〉
①こんにゃくを横半分、さらに斜め半分に切る。切り込みを入れて袋状にする。
②鍋に湯を沸かし、こんにゃくを下ゆでする。
③出汁とみりん、砂糖、しょうゆ、酒をあわせて鍋でひと煮立ちさせる。こんにゃくを加えて煮含める。この時好みで唐辛子を加えても良い。
④水と塩麹とを混ぜたもので、ご飯を炊く。
⑤みょうが、青じそ、生姜を細かくきざむ。
⑥④のご飯が炊けたら、冷まして酢液(砂糖と酢を混ぜて火にかけたもの)を回し入れる。
⑦⑥に⑤と、いりごまを入れて混ぜる。
⑧③のこんにゃくに、⑦を詰めて完成。

〈のっぺい〉 ※奈良県の郷土料理
①こんにゃくを下茹でする。里芋も下茹でしておくとベター。里芋、大根、にんじんも適当な食べやすい大きさに切って、下茹でする。厚揚げにはお湯をかけて簡単に油抜きをする。
②鍋に出汁を入れて煮る。
③材料がクタっとしてきたら調味料を加え、さらに煮込んで完成。

「こんにゃく寿司・のっぺい」完成!

文・レシピ:木下昌美

木下昌美


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妖怪文化研究家。奈良女子大学大学院卒業後、奈良日日新聞社に記者として入社。その後、フリーの身となる。妖怪に関する執筆だけでなく、講演や妖怪ツアー等も行っている。

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2022/3/1