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マグカンさんの作品:【解説】第二回「豆腐小僧」

漫画『妖怪めし』と連動して、妖怪文化研究家 木下昌美さんの妖怪コラムをお届けします!

第二回は、「豆腐小僧」。

さて、一体どんな妖怪なのか…?


 豆腐小僧は盆に乗せた豆腐を持っている、そんなバケモノです。ここだけ聞いたら、なんとほんわかしたバケモノであることかと思われるでしょう。

 主に黄表紙(草双紙のひとつで大人向きの絵入小説)に登場します。描かれている豆腐小僧を見ると、可愛いとまでは言いませんがどこか憎めない、愛らしさを醸(かも)し出しています。

 近年では京極夏彦さんによる小説と、その小説を原案とするアニメ映画『豆腐小僧(2011年)』をきっかけに知った、という人も少なからずいらっしゃるはずです。ゲゲゲの鬼太郎のアニメ第6期61話「豆腐小僧のカビパンデミック(2019年)」に登場したことも記憶に新しいところです。いずれも怖くない存在として、人間に寄り添いながら奮闘する様子が印象的でした。

 このようにして、今でこそ広く知られるようになった豆腐小僧。かねてより注目し、研究を進めていたのが日本文学研究者のアダム・カバットさんです。様々な文献に登場する豆腐小僧が明るみに出ることになりました。しかしながら明らかでないことも多く、アダム・カバットさんもその出自などに疑問を抱くなど、依然として謎に包まれたものでした。

 同じように、豆腐小僧は何ものであるかと疑問に思っていた方は少なからずいらっしゃったようです。現在兵庫県立歴史博物館学芸員である香川雅信さんは、茶運び小僧などと同じ系譜ではないかとしています(※1)。

 また国文学研究者である田中貴子さんが、2005年の日本宗教文化史学会大会にて「豆腐小僧の謎を解く――妖怪の生成をめぐる試論」と題し発表をされています(※2)。豆腐小僧が突然何もないところから生まれるとは考え難いとして、豆腐地蔵との関係性について示唆されたそうです(口頭発表で、私はその会に参加していないため、また聞きです)。

 豆腐地蔵については、まんが日本昔ばなしなどにも登場するのでご存じの方もいらっしゃると思います。地蔵が小僧に化けて豆腐を買いに行く、あの話です。豆腐小僧誕生の背景に、この地蔵の話や『妖怪めし』内にも登場する『豆腐百珍』の流行など、いくつかの要因が絡み合い生まれたものではないかというのが田中さんのお話でした。

 話は逸れますが、私は学生のころ『豆腐百珍』を読む授業を取っており、試しに掲載されている品を何度か作ってみました。現代でも変わらず楽しめるメニューが多く、驚いた覚えがあります。いかようにも染まる豆腐は、万能だと実感した次第です。この『豆腐百珍』の出版は好評で、以降「百珍物」と呼ばれる書物が出たようです。


 さて、話を戻しましょう。なるほど、豆腐小僧がポッと出のアイドルオバケではなさそうな気がしてきましたね。なにやら秘密を抱えていそうな、そんな雰囲気を醸し出しています。

 その期待通りとでも言いましょうか、竹原直道さんが「疱瘡神のパロディとしての豆腐小僧」として、豆腐小僧の内側に迫る論文を出されました(※3)。

 タイトル通り、豆腐小僧が疱瘡神(天然痘をつかさどる神で病を免れ軽くしたりするために祈るもの)と、浅からぬ関係ではないかという考えのもと、論が展開されます。

 具体的にどういうことかというと、例えば豆腐小僧の身に着けているもの。着物は疱瘡絵の題材が用いられていますし、小僧の被る笠は瘡の暗喩ではないか……といったようなことです。

 ちなみに疱瘡絵とは、疱瘡除けのまじないとして紅で鍾馗や桃太郎、鎮西八郎為朝などを描いた赤刷りの錦絵のこと。コロナウイルスの流行に伴い少し話題になりましたので、目にしたことがあるという方もおられるでしょう。

 加えて豆腐小僧のアイデンティティーのように見える紅葉の豆腐、こちらも疱瘡絵のモチーフである金太郎の母親山姥の象徴である深山をあらわしているのではないかと指摘します。

 時期をほぼ同じくして、笹方政紀さんも自身のSNSなどを通じ豆腐小僧と疱瘡神の関わりを追求。後に先の竹原さんと連絡を取り合い、先の竹原さんと同様の見解であることを確認し合ったといいます。

 竹原さんの論との相違点になどついては同人誌『怪魅型(※4)』ほか『怪異学講義 王権・信仰・いとなみ(※5)』にてまとめ、発表されました。疱瘡は1度かかれば2度かからないため、豆腐小僧は物語のなかでワンシーンに登場することなど、さらに深くその中身に迫っています。

 いやはや、どうしたことでしょう。ポワッとしてそうに見える豆腐小僧ですが、トンデモナイ隠し玉を持っているではありませんか。見かけで判断してはいけないのは、人もオバケも一緒のようです。

 この場では先行研究のまとめに終始してしまいましたが、なんでもなさそうに見えるオバケも探れば何かしらが見えてくる。そんなことが伝わりましたら幸いです。豆腐小僧をはじめ、そんなバケモノたちの魅力にみなさんも醸されてみませんか。

【注】
※1 香川雅信『江戸の妖怪革命』河出書房新社/2005
※2 田中貴子 日本宗教文化史学会大会 口頭発表「豆腐小僧の謎を解く――妖怪の生成をめぐる試論」2005
※3 竹原直道 第36回日本歯科医史学会 発表「豆腐小僧と天然痘」2008、『Cultures/critiques』「疱瘡神のパロディとしての豆腐小僧」国際日本学研究/2011
※4 ペンネーム・豆腐の角」西日本化物・妖怪同好会『怪魅型 KAMIGATA』「疱瘡絵としての豆腐小僧」2019
※5 東アジア恠異学会編『怪異学講義 王権・信仰・いとなみ』笹方政紀「疫病と化物」2021/勉誠出版

【参考文献】
・アダム・カバット『江戸化物草紙』1999/小学館
・アダム・カバット『大江戸化物細見』2000/小学館
・アダム・カバット『ももんがあ対見越入道ー江戸の化け物たち』2006/講談社
・武蔵野大学Webマガジン きじキジ「河童?豆腐小僧?武蔵の『妖怪先生』インタビュー!」2016
https://webmag.musashi.ac.jp/


文:木下昌美

木下昌美


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妖怪文化研究家。奈良女子大学大学院卒業後、奈良日日新聞社に記者として入社。その後、フリーの身となる。妖怪に関する執筆だけでなく、講演や妖怪ツアー等も行っている。

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2022/1/1