関西にいる「シュッとした」人たちから「シュッとした」お話を聞きたくて始めた、MAGKANインタビューコーナー!
第六十八回は、
独自のマジック「ブレインダイブ」で注目を集める マジシャン 新子景視さん にお話をうかがいました! 関西を主戦場にする面白さや大切にされていることを語っていただいたインタビューです。
「 新子景視 」さんって?
関西大学を卒業後にプロマジシャンとしてデビュー。京都で公演を続けるノンバーバルシアター『ギア -GEAR-』でマジック演出と演者を務めていた。現在は、相手の思考を読み取る独自のマジック「ブレインダイブ」でYouTube動画投稿したり、様々なテレビ番組で紹介されたり、と広く注目を集めている。
関西は「マジシャン~?」「絶対騙されへんぞ」って必ず疑いから入ってくる
──YouTubeでは基本的に関西でマジックを披露されていますね。関西とそれ以外で、お客さんの反応に違いはあるんでしょうか?
新子(以下、A): やっぱりダイレクトにリアクションをもらえますね。その分、関西のほうがマジックのやりにくさはあるんですが。
──えっそうなんですか?
A: 目の前のトランプを勝手に触られたりとか、「タネが見えた!」とか、思っていることをすぐ言われるんですよ。老若男女関係なく。僕は関西で育ってその反応が当たり前でマジシャンをやってきたので、東京に行った時は皆さんお行儀よく見てくださるから、簡単に感じるくらいでした(笑)
──関西人だから騙しやすい、とかはないんですか?
A: いやいや、ないです、ないです。関西って何をやるにしても取っ掛かりが良くないんです。「マジシャン~?」「絶対騙されへんぞ」って必ず疑いから入るので。こちらとしては「どうせ騙されるから、最初っから素直に見たほうが得やけどな」とは思いますけど(笑) でも、ひとつ突破口が開けばあとはもう家族にしてくれるんですよね。マジックショーが終わった頃には、僕を身内かのように応援してくれたり。
──想像できますね(笑)
A: 「めっちゃすごいマジシャンがおんねん!」って周りに言ってくれるんですよ(笑) なので最初に「見破ってやる!」と来られるのも、関西ならではで楽しいです。だけど、関東のマジシャンの方は苦手な方が多いみたいです。本来、マジックってどれも仕掛けをちゃんと準備していて、勝手に触ってはいけないっていう暗黙のルールがあるものなので。
──普通はそうですよねえ…。
A: 僕の場合はその駆け引きも楽しいから、「どうぞ触ってください」ってやっています。その分、マジックの間にプランをけっこう変えていて。
──ええ! すごいですね。
A: 例えば、トランプを自分の思惑通りの順番でセットしていたとします。でも、関西の人なら「じゃあボクにちょっと切らせて」 と言ってくる。それにマジシャンが「いや…」ってなっちゃうと、そこで終わっちゃうんですよ。うまく言い逃れたとしても、逃げたっていう行為は消えない。だから、「切らせて」って言われた時点でマジシャンの「負け」なんです。勝負の世界じゃないんですけどね。切らせたくないなら、それを言わせない雰囲気をマジシャンが最初から作らないといけない。
一緒にマジックという不思議を共有したい
──関西ならそのやりとりはごく自然に発生しそうですね。
A: そう。いろんな人がいるんだから、「切らせて」って言われても別にいいじゃないですか。目的が違うんですよね。ほとんどのマジシャンはマジックを見せたいんですよ。自分が練習してきた成果を見てもらって、びっくりされたい。でも、僕はそうじゃなくて。マジックはあくまでコミュニケーションのツールなんです。一緒にマジックという不思議を共有したいんです。「これ、楽しいですよね、どう思いますか?」みたいな。でないと、マジックを素直に楽しんでもらえないというか。
──コミュニケーションのためにあるのが、マジック。
A: 「どうだ、すごいだろ!」という演技スタイルでやっている方も多いので、マジシャンを批評しているわけじゃないんですが。何かそれだと勝った負けたになってしまうというか、「騙された~」ってマジックに対するイメージが良くないまま終わっちゃいそうで。僕が関西人だからこそだとは思うんですけど、「いいですよ、カード全然切ってください」「これなら当てられへんやろ」って会話があってから当てたほうが、「えええ~!!」ってなるのは目に見えてますよね。絶対そっちのほうが良いと思います。
──それができるのは引き出しを多く持っているからこそ、なんでしょうか?
A: 度胸も必要だと思います。いくら引き出しを持っていても、瞬時にそれを出さないといけないので。「あ、あ、どうしよう…」と気持ちがブレた時点でダメだと思います。別にマジックが成功しなくても、いや絶対成功しないといけないんですけど(笑) あくまでマジックで楽しい空間にして、この状況を楽しませたいっていうのが目的なので。「あー、あかんのや…」ってお客さんに遠慮させるのが一番良くないなと思っています。
──物々しいセットでやるのがマジック、のイメージがありましたが、YouTubeでは道端の何もないところで披露して、とてもフランクにされていますよね。それを成立させているのが、度胸…。
A: おっしゃるとおり、引き出しの多さも必要だとは思います。でも、いくつもあるパターンの中から、このマジックを選んだんだと相手に思わせてはいけないんですよね。それがマジシャンの力量で。 「どうぞどうぞ、どれでもいいですよ。どれにします?」って言わないといけないですから。本当はそう思っていなくて、常に頭をフル回転させているんですけど。
──そのせいか、もうマジックにすら見えません。超能力か何かなんじゃないかと(笑)
A: それはありがたいですね(笑) 本当に関西で培ってきたものだと思います。最初に「切らせて」って言われて切らせなかったら、そのあとどれだけ頑張っても挽回することはできない、っていうのは関西で学びました。………ここまでの話、すごいノウハウかもしれないです。マジシャンが読むべきバイブルになっているかもしれません(笑)
「ブレインダイブ」は関西だからこそ生まれたマジック
──独自のマジックである「ブレインダイブ」は、特別な前振りもなくサラッと答えを言い当てたり、すごく近い距離感で、まさにコミュニケーションをとりながらされているマジックですよね。
A: そうですね。関西だからこそ生まれたマジックと言っても過言じゃないと思っています。距離が近いこともそうですし、せっかちな部分とか、僕としても答えを出すまでの間をあんまり置けないっていう性格も相まって、結局「シュッとしたほうがいいんじゃないか?」っていうのでこのスタイルが生まれました。それが意外と「こんなにすぐ当てられるなんて! 怖い…!」と楽しまれるようになって、強みになっている気がします。
──「まだ?」と思う間もなく、マジックを見せられますもんね。
A: それこそハンカチが出てくるとか、鳩を出すとか、いろんなマジックをやってきたんですけど、お客さんの反応があんまり…普通というか。でも、「ブレインダイブ」のような「メンタルマジック」と呼ばれるジャンルの、本人しか知らないことや考えを当てるマジックだと、リアクションが大きかったんです。それでマジックショーの中で配分を増やしたりする内に、「これはショーとして成立するんじゃないか」っていうところに行きついて。
──最初はいろいろと試されていたんですね。
A: それまでは、マリックさん(Mr.マリック)のようにおどろおどろしい雰囲気のある感じでやらないといけない、っていう認識がマジックの世界にあったんですよ。メンタルマジックはある程度年齢を重ねている、説得力のある人じゃないとやれない、とか。でも、もう少しカジュアルに考えていることを当てられるのも逆の怖さがあるな、と自分でやっている時に気づいて。シンプルにすることが一番の強みであると同時に、難しいところではあるんですけど。
──ラスベガスでも勉強されてきたそうですが、どこでの経験が一番大きな学びでしたか?
A: 『ギア -GEAR-』という京都のショーですね。言葉を使わないエンターテインメント、ノンバーバルパフォーマンスショーだったんですけど、その中にマジックを組み込んで、毎日ステージに立っていました。言葉を使わないって、究極のシンプルなんですよね。それを長くやっていたおかげで、「ブレインダイブ」でも必要最低限の言葉を使って相手の情報を当てることができるにようになったんだと思います。
──マジシャンであり、演者でもある時間があったんですね。
A: 言葉を使わずに、間とか、状況の操作ができるようになったのはステージに立っていたからこそですね。マジシャンにとって、言葉を使わないってダメージが大きいんです。「手品(マジック)」って手ひとつに口三つって書くでしょう。それくらい喋りが大事なんですよ。納得があって、驚きがあるから、納得を作るために言葉でミスリードをする。本当はあるものを「ないですよね」と言って、人に誤った認識をさせる。言葉があれば楽なんですが、ステージでは使えないから、日々悩んでいました。その時間があったから、必要のない言葉を重ねることなく、「ブレインダイブ」というマジックをできるようになったのかもしれないなと思っています。
子どもたちを驚かせないと一人前じゃない
──目の前の事象を納得させる、というのはそこまで難しいんですね。
A: だから、僕は子どもたちを驚かせないと一人前じゃないと思っています。
──子どもたちを?
A: 子どもには常識が通用しないんですよ。だから大人にあるはずの納得がない。「これはこうなるはず」と大人の常識はあっても、子どもにはないから、そんな彼らの思考を操作して驚きに持っていかないといけないんです。
──「どうして1+1が2になるの?」のような、子どもの感覚ですね。
A: 年に一回、神戸の小学校とかでマジックショーをやっているんですけど、やっぱり思ったことをダイレクトに言われるので、ものすごく勉強になっています。オブラートに包むことも、忖度することもないので、ツッコんだらダメだろうと思うようなことも平気で言ってくるんですよ。楽しいんですけど、あの純真無垢さが凶器となる瞬間がありますね(笑) だから、彼ら彼女らに喜ばれたら一人前。子どもにウケないと大人にはウケないと思っているので、子どもたちの前でやらせてもらえる機会は逃せないなと思っています。
──幼い頃のご経験がマジックを始めるきっかけだったそうですが、継続して小学校に行くのはそれも理由のひとつでしょうか?
A: そうですね、そうです。子どもたちを見ていると自分とかぶるので…。ちょうど小学生くらいの時に、母親が目の前でカードマジックを見せてくれたんです。それまではテレビでしか見たことがなかったので、興味はあってもあまり現実的に感じていなかったのに、目の前で見たことで現実が歪む感覚というか、衝撃をかなり受けて。
──そこからマジックの世界へ入り込んだんですね。
A: それまでずっと、いたずらが好きだったんですよ。女の子にちょっかい出したりとか(笑) でも、こっちは喜ばせようと思ってちょっかいを出してるんですけど、たまに嫌がられて。
──ああー…。
A: それがあった時に、不完全燃焼というか、こっちの思惑が通じてないことにモヤモヤしていたんです。それが、マジックならちゃんと誰にでも喜んでもらえるっていうのを知って。嫌がられていた女の子からの見る目も変わったんですよ。「すごい人だ!」と思ってもらえる高揚感も心地よくて、きっと目立ちたがり屋だったんだと思います(笑)
人と仲良くなるためのコミュニケーションツールがマジックなだけ
──もうその頃から、マジックでコミュニケーションをとられていたんですね。
A: 僕はマジックというツールを使って人と繋がりたいんですよ。 マジックが好きというより、マジックのその先の人に興味があって。人と仲良くなるためのコミュニケーションツールがマジックなだけです。マジックじゃなくてもいいんですけどね。でもマジックが一番わかりやすくて。
──マジックなら、相手が嫌な気持ちにならない。
A: ならない! だからマジックをずっと続けているんですけど。
──「ブレインダイブ」をやる上では、何を一番大切にされていますか?
A: 「ブレインダイブ」の中なら、人と人の感覚を繋げることを大切にしています。Aさんに触れたらBさんもその感覚を共有してしまうとか、ディナーショーに来られているご夫婦だったら、ご主人に考えてもらったことを奥さんが当てちゃうとか。
──そうやって経験すると「あの時おもしろかったよね」って見た人同士で思い出話ができますもんね。
A: そうです、そうです。ステージに上げているのは一組のご夫婦だけど、あくまでそれは会場の皆さんの代表で。ご夫婦の感覚を共有することで会場全体が繋がるっていうのを大事にしています。そのおかげか、「その演目が好き」とか、「それを他の人にも見せたいからうちにも来てほしい」と言っていただくことも多くて。結局は人の心の部分、繋がりの感覚が人を動かすんじゃないかな、と思っています。
──そうやって、どんどん繋がっていくんですね。
A: これ、関西のインタビューだからハッキリと初めて言うんですけど…(笑) マジックショーって、けっこう疑似的にストーリーをつけて繋がりがどうとか言っているのがよくあって。僕、ああいうのあんまり好きじゃないんです。とってつけたようにマジックのテーマに落とし込んで、「実はああで、こうで」とストーリーを語られても、冷めていくんですよ。
──本当にハッキリと!(笑)
A: こっちが感じさせるより、感じてもらうほうがいいじゃないですか。代表となるご夫婦やご友人を舞台に上げて、感覚を繋げて、会場全体がほっこりする。そのほうが押しつけがましくなくて、実際に本当に繋がったところも見てもらえて。わかりやすく繋げることで、見た人の心の中に残ってもらえたらいいなと思っています。
──テレビ出演もたくさん増えていると思いますが、YouTubeやショーに比べて気を付けるところに違いはあるんでしょうか?
A: ないんですよ。演目によってはあるかもしれないんですけど、僕のスタイルはないですね。だからテレビのリハーサルではよく驚かれます。やっぱり「ここからは撮らないで」というのが多いらしくて。
──何だか、できないことなんてないんじゃないか、と思ってしまいますね(笑)
A: さすがに「うちの嫁さん消してくれよ!」とかは…。
──そんなこと言われるんですか?
A: 何でも言われますよ(笑) 「私、結婚できますかね…?」と聞かれたり。
──占い…?
A: それは「わかりません」とお答えするんですけど…。やっぱり、不思議な現象を見ると、「この人は何か助けてくれるんじゃないか」と思われるようで、「『探偵ナイトスクープ』ちゃうで!」と思うプチご依頼は日々来ております(笑) 「家の金庫の番号を忘れました。ブレインダイブで当ててください」とか…わからんっちゅうねん!(笑)
──そもそもブレインにないですもんね(笑) それでは、今後の目標や挑戦したいことはありますか?
A: インタビュー的にこう答えたほうがいいだろうな、というのはあるんですけど…本当に目標とかはなくて。目の前の人を楽しませることだけに意識を向けるってことを、これからも大事にしていきたいです。テレビに出たい、有名になりたいと思ってここまで来たわけではなく、純粋に目の前の人に意識を向けてきた結果が今だと思うので。だから、「僕がこうなりたい」というよりは、自分が人を楽しませることで見える未来を楽しみにしている、という感じです。
──何がどうなっていくかは未知数だ、と。
A: はい。そのほうがマジックみたいじゃないですか。僕はマジシャンだけれども、マジックを仕事だとあんまり思ってないんですよね。なぜなら自分の人生自体がマジックだと思っているから。どうなるかは自分でも楽しみなんです。だって、そっちのほうが楽しくないですか?
Q.「シュッとしてるもの」って何だと思いますか?
A: いわゆる「シュッとしてるわ」っていうのは概念になっちゃうと思うんですけど、僕が考えるなら「手ぶら」。
──手ぶら?
A: 僕もよく「シュッとしてるわ」と言われるので、言葉のイメージは大体できるんですけど。お答えするなら、身一つってことだと思います。それが自分の理想でもありますね。道具をたくさん準備しているマジシャンじゃなくて、「あの人、なんかトランプだけ持って走ってきてサッとマジックしてパッと帰りはったわ」「シュッとしてるわ~」みたいな。
──究極のシンプル。貫かれていますね!
Q.自分の名前で缶詰を出すとしたら、中に何を詰めますか?
A: うーん、僕の名前で出すとしたら、二つしか思いつかないな…(笑)
──何でしょうか?
A: 嫌ですけど…脳みそ。ブレインだからっていう。「新子景視が出した缶詰の中身、一体何が入っているでしょう?」「脳」。…誰の脳やねんって感じですけど(笑) 脳の形をしたマシュマロとかね。よくあるじゃないですか。
──新子さんの脳かと思いました(笑)
A: あとはマジックが関わることで言うと、トランプ。マジックをしなくても、家族でゲームでも、何でもいいんですけどね。トランプ一つで、本当に世界を変えることができるんですよ。
新子景視
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和歌山県出身。クロースアップマジックから大掛かりなイリュージョンまで、幅広いジャンルのマジックを得意とし、中でも、人の脳に潜り込み、本人しか知り得ない情報をダイレクトに読み取るという独自に考案した「ブレインダイブ」は幅広く注目を集めている。好きな漫画は『Y氏の隣人』(集英社刊)。
撮影:青谷建