関西にいる「シュッとした」人たちから「シュッとした」お話を聞きたくて始めた、MAGKANインタビューコーナー!
第八十七回は、
近畿大学 生物理工学部 人間環境デザイン工学科 准教授 島崎敢さん にお話をうかがいました! 心理学や人間工学など人間側からのアプローチによってリスク削減を目指す視点から、地震に対する防災について教えていただいたインタビューです。
防災はまさに心理学の塊
──心理学者として「安全心理学」を研究されていますが、防災と心理学にはどんな関わりがありますか?
島崎(以下、S): 心理学って人間が関わると全て関わってくるので、防災はまさに心理学の塊ですね。被災者だけでなく、ボランティアに入る人や地元の自治体の職員の人の心の問題や、復興を終えて次の災害のフェーズまで、起きた被害を伝承して忘れられることを防ぐ方法とか、防災訓練をいかに楽しくやるかとか…。ちなみに、実際に日本で地震への対策として取り入れられたのは、阪神・淡路大震災が起きた1995年頃からのことです。それ以前は、日本では建物や防波堤といったハードウェアをしっかり作ることで災害から人を守ろうとしてきたんですけど、阪神・淡路大震災やその後の様々な大きな災害が起きる中で、ハード面を頑丈にするだけでは対処しきれない、ということがわかってきたんです。例えば、阪神・淡路大震災の時は、近所の人の助けによって崩れた家から助け出された人がすごく多かった、とか。結局、社会が災害に対してちゃんと準備ができていて、人間が適切に行動できるようになっていないと、自然の驚異には立ち向かえない。だから、揺れの予測技術やハードウェア対策の次のフェーズとして、「どうやって人間に災害のことを心配してもらって、実際に適切な行動とってもらうか」を対策として考えるようになりました。ただ、私は阪神・淡路大震災の頃は受験生で、2015年頃から防災研究を始めたので、これは教わってきた話の受け売りなんですが(笑)
──具体的にはどんな事例を研究されていましたか?
S: 私はもともと事故防止のことばかり研究していたんですが、心理学において、事故防止の研究にも復興の過程の研究にも「レジリエンス」という概念があって。外乱(外からの予期せぬ干渉)があった時に、より強くいる組織にはどんな特徴があるか、それを知るために実際に被災した方にお話を聞いていたんですけど。例えば、2016年の熊本地震では、「おべんとうのヒライ」っていうお弁当屋さんの地元チェーンの動きが印象的でした。熊本地震は本震が明け方にあったんですけど、その翌日にはそのチェーンのお弁当屋さんだけ営業していたんです。あらゆるお店が閉まっている中で。当時、私は防災科学技術研究所に所属していたので、その一員として現場に入っていたんですが、みんなで「何で?」と驚いて、しばらく落ち着いてからチェーンの社長にご連絡してお話をうかがったんです。そしたら、普段から「人は食べなければ死んでしまう。食べ物を扱っているのだから、自分たちの仕事は食のライフラインだと思いなさい。災害が起きても、お弁当を売り続けるためには何をすればいいのか、細かいことは言わないから自分たちで考えてできることをやりなさい」って社長がずっと言い続けていたそうなんです。
──従業員の方々が上からの指示を待つのではなく…。
S: はい。本震が起きた日に、動ける従業員の方々がまずはお店に行ってみるところから始まるんです。開けられそうなら開店準備をするし、ダメでもそこで諦めるんじゃなくて、他に開く店がどこかはあるだろうから、そこに食材を運ぼう、とか、それぞれが自己判断でやるんですよ。その後は物流も止まるので、食材が入ってこなくなるじゃないですか。これもここで諦めるんじゃなくて、友達の農家にお米を分けてもらおう、とか。あとはガスや電気が使えるかどうかでお店によってメニューもどんどん変更して、「アレルギー表示が合っていません」という謝罪も勝手に書いて、どんどんお弁当を提供し続けたそうなんです。実はそれまでも、台風の時とかもそういう対応をしていたらしくって。
──すごい動きですね。
S: 災害の時って、組織のメンバーに「目的は何だろう、その目的に対して今できることは何だろう」と考える力を持たせられていることが大事なんですよね。それが「レジリエンス」に繋がる。もちろん、失敗事例もたくさん見てきました。炊き出しに来てくれた人たちに平時のマニュアルに沿って「ここ火気厳禁なんで」って言ってしまうとか、おにぎりが避難所に人数分には足りなかったから全部捨ててしまう責任者とか。
──えっ!? 避難所で数が足りないから、おにぎりを捨てる…?
S: 毎回あるんですよ、これ。不公平だって言われたら困るから、足りないなら捨てちゃいましょうって。こういうことがたくさんあるんですけど、ただこれはその責任者が悪いって言うよりも、普段からその人はそういう扱いをされているんだと思うんです。何か自分で考えてやってみたら「勝手なことをやるな、マニュアルから外れるな、お前は考えなくていい」って言われて、失敗体験をたくさんしている。だから「ああもう考えるのをやめよう」ってなってしまう。普段はそれでも組織って回るんですけど、災害になるとその差が顕著になるんですよね。ダメな組織は本当にダメになってしまう感じがします。
──組織のメンバーがそれぞれ自分で考えることで成功体験を積んでいないと、いざという時に動けない組織になってしまうんですね。
S: 考えていいんだよ、いざとなったら自分が「良い」と思う方で判断していいんだよっていうメッセージを出し続けることが大事なんじゃないかと思っています。だから最近、私がやっているトラックドライバー向けのポッドキャスト「 プロフェッショナルドライブ 」でも始めたことがあって。「ドライバーギリギリチョイス」という1分の動画なんですが、業務中の非常時で、どうしたらいいかわからない状況を提示して「あなたはどうしますか?」って答えのない質問を投げるんです。正解はないから、考えてみてねって。災害時って、どうしたらいいかわからないけど、時間だけは迫っていて、今すぐ決めないといけない場面がたくさんありますよね。状況がわからないこともあるから、このコーナーでも質問はわざと中途半端にしていて、いろんな想像をしてもらったり、他の人と意見交換をして自分と違う考えの人がいることを知ってもらったりとか、いろんな波及効果がありそうだなって思っているんですけど。
──トラックドライバーの方向けに、ですか?
S: 私が元トラックドライバーなんです。心理学者として、事故防止の話をするだけじゃなく、三分の一くらい、トラックに特化した防災の話をしているんですよ。最近、トラック業界も一部から「防災対策をしないとまずい」という話が出てきていて。実は運送業って、交通安全は気にしても、防災対策はあんまり考えたことがないんです。どれくらい考えていないかというと、2025年の7月にカムチャッカ半島で起きた地震で、日本の沿岸部に津波警報が出ていたんですが、いつも通り港で積み込みとかしていたらしくって。「それってやばいな、ドライバーにも、経営者や管理者にも防災の事を考えてもらわなきゃ」って感じて。でも、運送業って大変なんですよね。みんな勤務時間がバラバラじゃないですか。一つの場所にみんなを集めて勉強会なんてできないし、ただでさえ人も足りなくて残業も厳しくなっている中で、どうやって教育をすればいいのか。それに、例えば年に一回、一時間講習を受けてもらったとしても、あんまり効果がないんですよね。だったら、点呼の時とかに「一分だけ流すから考えてみてよ」って週に一回でも流すほうが印象に残るし、その日の話題になるかなって。
──観てみましたが、けっこう難しい…!
──これは上司が「こんな時は自分で考えて判断しても責任は問わないからね」って伝えるきっかけにもなりますね。
S: そうですね。脳みそも筋トレと一緒で、使わないとそのテーマについて考えられなくなるので、考える練習だけしておくと、「どうしよう」と思ったとしても、「背景にある目的を考えて…助かるためにはこっちだよね」と考えて判断できるようになるんじゃないかな、と思っています。けっこう、他にもこういうことをやっている方がいて、カードゲームで災害時の判断が迫られる状況を作っていたりするそうです。
初対面の人たちの集団をどんなスピードで良い方向に持っていくか、って状況によって全然違う
──災害時の避難所での生活にも生かせそうな訓練ですね。
S: 避難所の場合、上手く回すノウハウみたいなものを形にできたらいいなとは思うんですけどね。なかなか難しくて。熊本地震の時に被災されたお兄さんからうかがった話だと、地震が起きたのが4月だったこともあって、珍しいことが起きていて。
──珍しいこと、ですか?
S: 彼は地震が起きてすぐ外へ飛び出したら、ちょうど車で通りがかった人に「津波が来るかもしれないから乗って!」と言われて、自宅からかなり離れた、知っている人が誰もいない避難所に行くことになったそうなんです。「どうしよう」と思って周りを見たら、自分と同じように一人で不安そうにしている人が何人かいるから、「暇だし、自己紹介しません?」って話を始めたそうで。そしたら町内会長が近づいてきて、「私、実は4月に町内会長になったばっかりで…。話も上手だし、まとめるのも上手だし、この避難所を仕切ってくれませんか?」って頼まれたって言うんですよ。
──ええ!
S: 「無理です」って言っていたんですけど、朝になって熊本市の市役所の方が来て「4月に防災担当になったばかりで…何していいか分からないんです。仕切ってもらえませんか?」ってまた頼まれて(笑) それで何百人もいる避難所を仕切ることになっちゃったらしいんです。
──4月だからってそんなことが!?
S: 実はそのお兄さん、普段は子どもをキャンプに連れていって自然の中で体験させるってことをやっている方だったんです。実際、盛り上げて焚きつけて皆に何かやってもらうっていうことがすごく上手で。そんな方が避難所を仕切ることになって、一番最初に何をしたかって言うと、「知らない人がいるから揉めたり犯罪が起きたりしてしまう。だからまずは仲良くなりましょう」って自己紹介を促したそうなんです。そこから、「”被災した”じゃなくて”ボランティアした”、”自分たちでやってきた”って言えるようになりませんか?」っていう目標を立てた。全部自分たちのことなんだから、避難所にいるお客さんとして助けてもらうんじゃなくて、自分たちの力で復興しましたよって言えるように。「みんなが絶対何かをやってください」って。
──すごい…。
S: で、「最初のその”何か”は、この話を新しくやってきた人に伝えることです」って決めてから、「今日の目標は、一日何も食べられなかった人が一人も出ないようにすること。そのために、皆で話し合って工夫してやりましょうよ」とか始めていったそうです。なので、トイレ掃除もみんな率先してやるし、全く動けないおばあちゃんにも「お隣の〇〇さんが掃除に行くから、おばあちゃんの仕事は〇〇さんの財布を見ておくことだよ。しっかり頼むよ」みたいなことも言って、避難所の人たちが主体的に関わる仕掛けをどんどん作ってらっしゃったんですよね。
──避難所での人間関係ってものすごく大事ですもんね。
S: 初対面の人たちの集団をどんなスピードで良い方向に持っていくか、って状況によって全然違うんですよね。例えば、大学の新入生。みんな友達がいないじゃないですか。この入学してからの最初の二週間がめちゃくちゃ大事って言われているんです。「フレンドシップマーケット」っていう状況になっているらしくて、その二週間だけみんな友達作りモードなんです。でも、その期間中にできないと、もうグループができあがっていて輪に入れなくなる。これがそのあとの成績やドロップアウト率にものすごく繋がるんですけど…。避難所の場合は、これよりもっと短いと思います。最初の10時間くらいが勝負なんじゃないでしょうか。
──とはいえ、熊本地震のお兄さんのようにできる人は多くないですよね…。
S: そうですね。だから、仕組みのほうに「自分たちで考えて動いていいんだよ」っていうメッセージがたくさん仕込まれているといいなと思いますね。雰囲気を作るためのきっかけみたいなものが。東京都足立区の避難所運営マニュアルを例に出すと、このマニュアル、表紙に過激なことが書いてあるんですよ。
──過激なこと?
S: 避難所となる学校の開け方が書いてあるんですけど、「まずは門を乗り越えて校舎に行って、このガラスを割って鍵を持ちだしてください。その鍵で門を開けてください」って書いてあるんですよ。犯罪じゃないですか?(笑)
──犯罪ですね…(笑)
S: 一応小さく「または、事前配布の鍵で開けてください」って書いてあるんですけどね。普通は逆なんですよ。ほとんどの避難所運営マニュアルは「事前配布の鍵で開けてください」ってだけ、書いてあるんですよ。でも、その鍵を持っている人が来られるかどうかなんて、分からないじゃないですか。その人も被災しているんだから。そうすると、誰も開け方が分からないから、門の前でただ待つんですよね。「鍵がないんだよね」とか言って。
──そうですね。
S: けど、災害時ってそうじゃない。目的は避難してきた人たちを雨風から守ることなんだから、「普段は犯罪だけど、やっちゃえばいいじゃん」っていうメッセージがマニュアルの表紙にドン!と書いてあるだけでも、「災害時って、普段はダメなことでも、皆のためになることなら考えて実行してもいいんだな」って受け取ってもらえるかもしれない。どれだけ効果があるか分からないんですけど、こういう仕掛けをたくさん仕込んで、雰囲気作りのきっかけにできるといいですよね。
防災ってめんどくさくないですか?
──防災って、どうしたら意識的にみんなでやっていけるんでしょうか。
S: …防災ってめんどくさくないですか? できるならやりたくないですよね?
──うっ…まぁ正直、めんどくさいところは…あります。
S: 人によってやりたくない理由はいろいろあると思うんですけど、「怖いから」っていうのもあると思うんですよね。防災対策を頑張る動機の一つに「怖いからやる」っていう人ももちろんいるので、「こんなに怖いことになるから、防災対策をちゃんとやろうね」っていう情報発信は間違いではありません。でも一方で、「怖いことだから考えたくない」って耳をふさぐ人もいるんですよ。災害が怖いだけで、防災は怖くないはずなんですけど。実際、ゼミの学生の卒論テーマで一緒に検証したことがあって。同じ防災対策の内容で、怖い動画と怖くない動画をそれぞれ作って2つのグループに見せたあと、「IAT」(潜在連合テスト)というテストをして、防災に対して怖いと無意識にでも思っているかどうかを測ったんです。…まぁ、いろいろあって綺麗な結果は出なかったんですが、部分的には「怖い防災対策動画を観たほうが、防災と怖い感情への結びつきが強くなっている」というのは出てきたので、きちんと検証していけば「怖くない防災教育」の必要性はありそうだなと思っています。
──怖いからこそ、「でも自分にそんな酷いことは起きない」と思いたくなる心理もありそうですね。
S: 自分は大丈夫って思いたいんですよね。「自分が危ない」ってすごいストレスなので。災害になると、リスクの捉え方がみなさん緩くなるんですよ。例えば、洪水で避難指示が出ている時。避難指示が出ているって、まあまあのリスクなんですよね。でも、「前も大丈夫だったし」って避難しない。もちろん、何も起きない可能性のほうが高いと思うんですけど、例えば洪水の確率を十分の一だと考えたとして、じゃあ「十分の一で墜落する飛行機に乗れますか」って聞かれたら?
──絶っっっ対に乗りたくないですね。
S: 絶対に嫌でしょう。飛行機だったら絶対に嫌なのに、災害だと「十分の一でしょ、俺は大丈夫だと思うよ」って言うんです。災害リスクの捉え方だけ、すごくバイアスがかかっているなって感じます。
──それは防災意識によって変えられるものですか?
S: 変えるのはそう簡単なことではありませんね。これは「防衛機制」という、自分の心を守る仕組みなんです。逆ギレも「防衛機制」の一つで、自分に攻撃が来ないように攻撃をし返すっていう行動なんですけど。自分の心にそういう仕組みがあることをよく理解して、「ああ今そうなってるな」って行動を変えていってほしいなとも思いますが…これ面白いのが、心のどこかで「やばいな」と思っているので、誰かが逃げ始めるとみんな逃げるんですよ。
──へえ!
S: 電車の乗り換えや、終電間近の駅でありませんか? 一人が走りだしたら、本当はまだちょっと余裕があるのに、みんな走り出す、みたいなことが。そういう、最初に走り出す人がいたらいいんですよね。全員が全員、自分の心や行動を客観視してリスクの捉え方を考え直すなんて無理なので、誰か一人でも…人口の5%くらいでも率先して避難する人がいればいい。そうすれば、みんなついていくので。少しずつでも、そんなバランスを崩せる人が増えてくれたらすごくいいなあと思いますね。
生活の中にいかに防災を忍ばせて楽しくやるか
──島崎さんは防災意識を測る心理尺度「 防災意識尺度 」を作られた方ですが、防災意識ってどうすれば高めていけますか?
S: 自分の好きなことや仕事と、防災を結び付けたらいいんじゃないかと思っています。歴史が好きな人だったら、お城やお寺と絡めて考えるとすごく面白くて。江戸時代の人って実は防災をすごく考えているんですよね。大阪城なんか、とても良い場所に建てられているんですよ。ハザードマップと重ねてみていただくと分かりやすいんですが、淀川が氾濫するとその周りは全部水没するのに、大阪城だけ水没しないんです。地盤もすごく硬いところですし。あと、徳川家康が日本を統一した時に、「一国一城制」でいろんな城が壊されたんですけど、代わりにお寺が建てられたので、古いお寺はやっぱり良いところに建っていますね。古い学校も同じようにめちゃくちゃ良い土地に建っていることが多いんですが、少子高齢化で小学校が統合されて、良い場所に建っていた三つの学校が、田んぼのど真ん中で最悪な土地に建て直される…なんてこともあります。そんな話を、歴史が好きな人は飲み会で語ったらいいんじゃない?ってよく言っています(笑)
──趣味の話と見せかけて、防災の話に!
S: 料理も同じで、お子さんがいらっしゃる方に「普段、防災って何をしたらいいのか分かりません」って聞かれることもあるんですけど、「手抜きの料理をしましょう」って言うんです。日によって、火を使わない、包丁を使わない、お皿を洗わないってルールを決めてお子さんと料理をするとか。誰かに文句を言われたら「これは防災訓練です!」って言えますし。あとは知人の高校の先生がやっているんですけど、生徒をスーパーに連れて行って「災害時に使える物を探して買ってきて」とかね。たまにそうやってミッションを作ると、宝探しみたいで、普段のスーパーも楽しい場所に変わるんですよ。そういう「自分視点の防災」というか、生活の中にいかに防災を忍ばせて楽しくやるかってできたらいいですよね。備蓄倉庫に発電機を置いておいても、いざとなった時に使えませんでした、とかだともったいないですから。
──「防災だ」と意識しすぎないほうがむしろ良いのかもしれませんね。
S: 防災って言うと良くないんですよね。あまり難しく考える必要はないんです。ある自治体では、毎年、防災訓練としてAEDの使い方講習や炊き出し訓練で焼きそばを焼いたりしていたけど、ずっと人が来なかったらしくて。でも、ある年から、防災訓練のチラシに一番大きく「焼きそば」って書いて、小さく「防災訓練やっています」って書くようにしたら、十倍くらい人が来たそうなんです。それでいいんですよ。本人は防災だと思っていなくても、そこで交流が生まれて、知り合いになるだけでも実は防災なので。「この人、顔知ってるな」って思うだけでもすごい価値があるんです。
──確かに。そんな形なら気軽にやっていけそうですね。ちなみに今、研究を進めているのはどんなことですか?
S: 外国人の防災教育を今いろいろとやっています。観光客じゃなくて、働きに来る人が増えているので。災害って、国によって起きたり起きなかったりがあるんですよ。例えば、日本にはベトナムの人が多く住んでいるんですけど、ベトナムって地震が起きない国なんですよね。存在自体を知らなくて、「地震って何ですか」っていうところから始まるらしくて。でも、それだとちょっと困ってしまう。なので、外国人向けの防災教育を考える必要があるなと思っていて。この間は、日本語を勉強をしているベトナム人の大学生向けに防災の話をしにベトナムへ行ったんですけど、洪水になって私が被災してしまいました(笑)
──ベトナムで洪水被害に!
S: 結局、講義自体はオンラインでやって、来年もやりましょうねってなったんですけどね。この洪水被害に遭う前にも、下見を兼ねてベトナムに行ったんですが、洪水対策が日本と全然違っていました。ベトナムって、堤防がないんですよ。日本も昔はそうだったんですけど、今はほとんどの川に堤防がありますよね。堤防がないので、すぐ川が溢れてしまう。でも、それって悪いことばかりではなくて。堤防がある川だと、水をせき止められるんですが、溢れる時は堤防の限界を超えた量の水が一気に溢れるので、流速がすごいことになるんです。堤防がないと、ゆっくり水が溢れてきてゆっくり下がっていくだけなので、洪水といっても、町中が水に浸かるだけで、人が流されて死ぬようなことにはあまりなりません。そんな洪水が年に二、三回くるらしいんです。だから、最初からそのつもりで家も作ってあって、一階のコンセントが身長と同じくらいの高さにあるんです。電気系統がやられないように。さらに、一階にはすぐ動かせるような物しか置いていないので、水が来てもすぐ二階に物を上げて、水が引いたらすぐ掃除して次の日から通常営業、みたいな感じなんです。すごく対応が早い。しかも、実はベトナムに住む方のほうが防災意識が高いんですよ。「防災意識尺度」を使って測ったものなんですが、日本人のほうが低いんです。日本って、災害大国とか言っていますけど、実際に被災経験をすることがすごく少ないんです。避難所に行ったことなんて、ほとんどの人がないんじゃないでしょうか。ちなみに私もないんですけど。だから、あまり自分事に思ってないというか。大阪の真ん中に住んでいても、淀川が氾濫したり、津波が来たらこのあたりが全部水没するようなところに家がある、なんていう自覚もあまりないんじゃないでしょうか。
──ベトナムの方への防災教育は案外早く浸透するのかもしれませんね。
S: そうですね。今は担当している研究室の学生の卒論テーマとして、日本に住んでいるベトナム人の方と街歩きをしてみて、目の付け所がどう違うか調べているんですよ。やっぱりベトナムの人はマンホールや側溝が気になるみたいなんですが、日本に住んでいるからこそ、倒れて来る物とかもしっかり見ているなと感じているところです。
──防災を研究するって本当に幅広いですね。
S: 防災のように、あらゆる学問が関わる分野って他にないんですよね。私も防災の研究を始めてからいろんな分野の知り合いが増えて、研究が発展してきましたし…。そういう意味でも魅力的な世界だと思っています。たぶん、社会で求められる力と近くって。学生が勉強するテーマだとしても、いろんな知識が必要で、理系も文系も関係なく理解しておかないといけないし。言っても災害って何十年かに一回のことなので、そんなにお金や時間を突っ込めないじゃないですか。だから、将来役に立ちそうだからっていう理由で防災に興味を持つとかでもいいので、それをきっかけにいろんなことを知ることになって、結果的に防災力が上がっていた、くらいのほうがいいかもしれませんね。
Q.「シュッとしてるもの」って何だと思いますか?
S: 最初は研究者かなって思ったんです。研究者って本当のことを言うのが仕事で、真実の奴隷なので。普通の仕事っていろんな事情で嘘をついたり忖度したりするんですけど、我々は嘘を付いてはいけないんですよね。「本当のことを言っていればいい」ってシュッとしてるなって思ったんですけど、研究者ってそうじゃない人もけっこういるので(笑)
──(笑)
S: なので、やっぱりサイエンスとかなのかな。サイエンスの世界は本当のことを言う人が偉いんですよ。どんなに立場のある先生でも関係なくて。あとは、ベテランになるほど言いづらいんですけど、過去の研究が間違っていた時に「間違っていました」と発表できる人も。そういうのも含めて、本当のことを言える、素直に謝ることが偉い世界っていうのはシュッとしてるなって思います。
Q.自分の名前で缶詰を出すとしたら、中に何を詰めますか?
S: 難しくて、学生たちに聞いてみたら「パイナップルどうですか」って言ってくれたんですよ。「一見ゴツゴツしてるけど、中は甘い」っていう意味で。丸ごとパイナップルの缶詰です(笑)
島崎敢
東京都出身。近畿大学の准教授であり、国立研究開発法人 防災科学技術研究所の客員研究員も務める心理学者。専門分野は安全心理学。著書に『心配学~「本当の確率」となぜずれる?~』(光文社刊)など。好きな漫画は『ベルサイユのばら』(集英社刊)、『AKIRA』(講談社刊)、『社内探偵』(DPNブックス刊)。
『シュッとした噺』次回更新は3月1日です。
面白かったら応援!
お気に入りに追加して
更新情報を受け取ろう!