265910 617311 617311 false l4Jb8aLVjYcKxGi4SPYBEwWb7HtzkLWs 3fae95fa2dff4a86cbee5405deac9cfb 【第七十一回】ダンボールお面 井上嘉和さん 0 0 15
マグカンさんの作品:【第七十一回】ダンボールお面 井上嘉和さん

関西にいる「シュッとした」人たちから「シュッとした」お話を聞きたくて始めた、MAGKANインタビューコーナー!

第七十一回は、

カメラマンとして活躍される傍ら、ダンボールでお面をつくる活動が話題の井上嘉和さん! ダンボールお面の誕生秘話や、ワークショップでの想いについて伺いました。

 

心がけているのはリアルにしすぎないこと

──井上さんは普段カメラマンとして活躍されていて、その傍らでダンボールお面、通称「ダンボル」を制作されているんですよね。作り始めたきっかけを教えてください。

井上(以下、Ⅰ): 息子たちを驚かせるために作ったことが始まりです。節分に豆まきってやるじゃないですか。「鬼のお面を被って家に帰ったら、子どもたちビビるんちゃうかな~」と思って、余っていた段ボールで簡単な鬼のお面を作ったんですよ。それを被って家に帰ったら、まあ子どもたちが泣きわめきまして(笑) その反応を見て「これは面白い…!」と味を占めました。

──Instagramにも投稿されていた、この赤いお面ですよね?

Ⅰ: そうです! それ以来、毎年節分に鬼のお面を作るようなったんです。僕は子どもが3人いるんですが、3年目にもなると長男が「お父さんのお面ってもう怖くないよね」「最初はビビったけどもう怖くないわ!」と言ってきまして。それで「はは~ん? それならもうちょっとリアルなものにアップデートして、これからもビビらせていこ!」と思ったことが、今の原型になっています。

──確かに、初代の鬼のお面と比べると迫力が全然違いますね(笑)

Ⅰ: そうなんです(笑) それをSNSに投稿していたら、友達から「ワークショップとかできないの?」とか、いろいろ声を掛けてもらうことが増えて「いやぁ~、これは趣味みたいなもんやしなぁ」と思いながらも、周りにプッシュしてもらったことで「ほんならワークショップやってみようか」と、今ではワークショップもやるようになりました。

──制作で一番こだわっていることは何でしょうか?

Ⅰ: リアルにしすぎないことですかね。自分にもできそうだと思ってもらえるラインを心がけています。といっても、これがなかなか難しいんですけど…。僕、「みんぱく」が大好きなんですよ。

──大阪の吹田市にある国立民族学博物館ですか?

Ⅰ: はい。あそこに展示されているお面って、めちゃくちゃ「上手い」わけではないじゃないですか。もちろんめちゃくちゃすごいものもありますが。きっと、どこかの部族が「お祭りに使おう!」みたいな感じで、手が空いている誰かが作ったんじゃないかと(笑) でも、そういうプリミティブな感じがすごく惹きつけられたんですよね。お面をリアルに作っていくというよりか「なんか作れんちゃうん?」みたいな雰囲気は残したいし、あんまり時間かけたくないっていう感覚はそこから来ているのかもしれません。

──井上さんが制作されるお面にはホラーっぽい要素も感じますが、何からインスピレーションを受けて制作されているんですか?

Ⅰ: 何でしょうね…。思えば、僕は小さい頃からウルトラマンとか仮面ライダーでいうと、怪人の方が好きだったんですよ。だから小学生の頃は怪獣の絵ばっかり描いていて…。あと、祖父の影響で仏像が好きでした。祖父が持っていた仏像の写真集で、千手観音とかを見ると「うわ、こいつめっちゃ手ある!」と、怪獣みたいだなと感じていて。さっき言った国立民族博物館も祖父に連れて行かれていたんですけど、そういうものの影響があって、ヒーローっぽい系統のカッコよさよりも、化物っぽいものやちょっとB級っぽいもの、茶目っ気のある怖さが好きなんだと思います。

 

自分じゃない何かになりたがっている人が多いのかな

──井上さんが思うお面の魅力ってどこにあると思いますか?

Ⅰ: ワークショップをするようになって気がついたんですけど、お面を被ると、みんな動きが変わるんですよね。お面が完成したら写真撮影会を行うんですが、「じゃあお面を被って写真を撮りましょう!」と言うと、大人も子どもも、がに股になって手を広げたり、変な声も出し始めるんです(笑) たぶん、みんな心の内側でちょっとはしゃぎたい気持ちがあるんだと思います。僕も「うぇ~い!」とか言って子どもたちを怖がらせたりしますしね。お面って「人が被って完成するもの」だと思うので、そういう意味ですごくフィジカルなものだと思います。

──お面を被ることで恥ずかしさが薄れる感覚はすごく分かる気がします。それこそ「仮面を被る」という慣用句もありますもんね。

Ⅰ: あと、意外とみんなお面に興味があるんだなと思いましたね。お面のことを検索すると、いろんなところでお面フェスとかやっているんですよ。最近は京都でも、妖怪電車や百鬼夜行をやっていたりしますし、自分じゃない何かになりたがっている人が多いのかなと感じています。それと、大人になるほど手を動かして何かを作ることってどんどん減っていっていると思うんです。だから大人ほど喋ることも忘れて黙々と作業して、だんだんランナーズハイ状態になっていますね。

──対して、子どもたちはどのような雰囲気で作っていますか?

Ⅰ: 「ツノつけたいねん!」「ワニみたいなおっきい口作りたい!」とか、いろいろリクエストを出してもらいながら「ほんならこういう作り方ちゃうかなー」と一緒に考えながら作っています。小学校3年生ぐらいまでの子は親御さんと参加してもらうようにしているんですが、ダンボールお面の制作では完成までの早さにもこだわっているので、ボンドではなくグルーガンを使ってもらっていて。そうすると、やっぱり火傷とかちょっと危ない瞬間もあるんですよ。もちろん最初に「めっちゃ熱いし怪我するから、気いつけんねんで!」「上向けたら垂れてくるから危ないよ」という話をするんですけど、工作が好きな子とかは、自分でガンガン作っていく中で「あっつー!」となっています。僕も怪我はしてほしくないんですが、僕らの世代からすると、今の子どもたちって危ないものに触れる機会が必要以上に減りすぎていると思うところもあるんですよね。例えば、昔は公園で遊んで、高いとこから落ちて「痛あ~!」と痛みを経験することで「あぁ、この高さはやばいんやな…」ということを、自分の身をもって学ぶことが多かったと思うんですが、今ではそうやって経験から学ぶ機会がなかなかないのかなあ、と。

──公園のような遊び場自体が減ってきていますしね…。

Ⅰ: でも、料理をするのも火を使ったり、刃物を使ったりと危ないんですけど、使わないと美味しいものは作れませんよね。だから、気をつけながら使うことができたら便利だという感覚を、ワークショップを通してどんどん覚えていってもらえたらいいなと思っています。

──「お面を完成させること」も大事だと思うんですけど、それ以上にワークショップではプロセスを大事にしているんですね。

Ⅰ: そうですね。僕は完成形を提示して「これを作りましょう!」とすることも全然ないんですよ。作業工程としては、原型を提示し、帯状になったダンボールを最初にいっぱい切っておいて、それをグルーガンで止めながら作っていくんですが、これができたら、あとはもう外側にいろいろと足していくだけなんです。そこは子どもたちの創造性に任せていますね。

 

妖怪になりたいと思っている

──ダンボールのお面と音楽を組み合わせたステージを演出されていましたが、今後も予定はあるのでしょうか?

Ⅰ: 「M.U.D.R.O.M.」とやったライブのことですね。彼らはIndustrial+Tribal(インダストライバル)という新しいジャンルの音楽をやっているミュージシャンで、僕が作ったお面を被ってもらい、演奏をしてもらいました。彼らは元々、防護服みたいな衣装を着たり、本人たちが作った仮面を被ったりしていたので、僕のお面とも相性は良かったように思います。

僕は本業のカメラでは舞台とかライブの撮影をすることが多いので、ステージに関わっている知り合いがめちゃくちゃ多いんですよ。だからライブとか、ファッションブランドのルック撮影とかで、お面を作ってほしいという希望がよくあって、「みんな虎視眈々と、ダンボールお面を使うチャンスを狙ってくれてはるなあ」と思います(笑)

──井上さんはライブや舞台を専門的に撮影されているんですか?

Ⅰ: 写真館も経営しているので記念撮影や地元の保育園や発表会なども撮ったりしていますよ。ライブ写真を撮るようになったのは、20歳くらいのときです。知り合いのバンドを撮影するようになったことで、いろんなバンドを撮影するようになったんですが、その輪が広がってくると、時には音楽ライブというよりも、演劇っぽかったり、音楽に合わせて即興でダンスしたりするパフォーマーの方たちを撮影する機会も増えました。そのタイミングで大阪を拠点に活動していた「維新派」という劇団に出会ったんです。7年前に解散してしまいましたが、僕のライブ写真展を維新派のスタッフの方がたまたま見に来ていて、それから維新派を撮影させてもらうようになったことで他の舞台関係の人たちからも信頼を得て、撮影依頼も増えました。僕は現場が好きなので、「井上さん、また撮りに来てはるわ」みたいに思ってもらえたらなと(笑)

──「また来てはるわ」って…何だかすごく良いですね(笑)

Ⅰ: そういう妖怪になりたいと思っているんですよね。

──妖怪……?

Ⅰ: 良い写真を残して去っていく、座敷童みたいな感じというか…。井上を見かけたら「あ、今回はいい写真が残るぞ」みたいな…。

──なるほど! 漫画のキャラクターにできそうです (笑)

Ⅰ: 僕、小さい頃からめちゃくちゃ漫画が好きなんで(笑) 妹がいたので、リボンとか、別冊マーガレットとかも読んでいたので少女漫画に対する抵抗も全くないですし、いくえみ綾さんとか岩本ナオさんの作品もすごく好きです。以前に友人たちと一人3冊オススメの漫画を持ち寄って、ビールを飲みながら紹介し合ったりするマンガ飲み会に参加したり、「最近どんなん読むん?」「こういう系統好きやんな」というリサーチをした上で、「じゃあ…これかな?」と選んで持っていった作品を「これこれ!これめっちゃ好き! 紹介してくれてありがとう」と言ってもらえるとすごく嬉しくて。

──お話を聞いていて思ったのですが、ひょっとしたら井上さんの表現媒体の原点って漫画でもあるのかもしれませんね。

Ⅰ: そうですね、そうかもしれません。僕、写真を撮るときに「見開きで成立する写真」を撮るように心がけているんですよ。だから、本当に漫画が原点なところもあるかもしれません。

──では、最後に今後の展望などあれば教えてください。

Ⅰ: 写真は本業なので、撮影中にふと「これ…何かの真似っぽいな」「このやり方ダメかも…成立してないな」とか、自分の中でブレーキをかけちゃう瞬間があって…。それに対してお面の制作は「好きなもの作りゃいいや」ぐらいな感じで、「あ、作りたい!」と思ったものをブレーキを踏まずにそのまま出力できるので、気晴らしになっている部分はありますね。どっちも我慢してやっていると、しんどいと思うので。だから、何か一緒にやりたいって言ってもらえたら僕もやってみたいですし、お面を被っている人を撮影するのが好きなので、面白そうなコラボの可能性があればどんどん声掛けてもらえると嬉しいなと思っています!

 

Q.「シュッとしてるもの」って何だと思いますか?
Ⅰ: 上品なものをイメージしますね。お笑いでも、下ネタだろうがそこにインテリジェンスを感じられれば、下品というよりも素直に「お、カッコイイ」ってなると思うんですよ。逆に、瞬発力だけのネタっていうのも面白いんですけど、自分の好みとしては自制された笑いがいいというか、ストイックさを感じるものの方が好きですね。
──では井上さんがシュッとしてるっていうときは、いい意味で使われるってことですよね。
Ⅰ: それは…日本語の難しいところですね…。子どもが頑張ってお洒落しているのを見て「シュッとしとんな」って、ちょっとこう…小バカにした感じで言うこともあるので、一概に良い意味でとは言えないかもしれません(笑)
Q.自分の名前で缶詰を出すとしたら、中に何を詰めますか?
Ⅰ: 難しいですね…。でも…何をするにしても笑いに変えられる知性というか、面白そうだと思えるユーモアを詰めたいですね!

 


井上嘉和

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1976年生まれ。1997年頃から関西の身近なバンドたちのライブ写真を撮りはじめる。2010年からは劇団維新派のオフィシャルカメラマンとなり、それ以降数々の舞台撮影を行う。家族のためにはじめたダンボールでお面をつくる活動がSNSで話題となり、展示会やワークショップなども開催している。好きな漫画は『さくらの唄』や『FLIP-FLAP』(ともに講談社刊)、『映画大好きポンポさん』(KADOKAWA刊)など。

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