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マグカンさんの作品:【第三十回】阪神タイガースWomen 三浦伊織さん

関西にいる「シュッとした」人たちから「シュッとした」お話を聞きたくて始めた、MAGKANインタビューコーナー!

第三十回は、

女子硬式クラブチーム 阪神タイガースWomenで主将を務める三浦伊織選手 にお話をうかがいました! 女子プロ野球で活躍されたご経験やこれからの意気込みについて語っていただいたインタビューです。

 

「阪神タイガースWomen」とは?

2021年1月に創設された、日本のプロ野球球団・阪神タイガースによる女子硬式野球クラブチーム。監督は球団OBの野原祐也さん。女子野球の普及振興を目的とする。

 

プロと名がつく以上は成績を残さないといけない

──三浦伊織選手といえば、2010年から2020年まで女子プロ野球選手として数々の記録を作ってきた選手です。プロ1年目でセンターのレギュラーを獲得し、打率リーグ2位、長打率リーグ1位の成績を残したことを皮切りに、MVP3回、首位打者4回、最多安打4回、最多盗塁8回などの数々のタイトルを獲得。2014年には驚異の打率5割をマークし、2019年にはリーグ初の通算500安打を達成…。その間に日本代表にも4度選出されていますね。ものすごい記録の数々ですが、女子プロ野球界に入った時、どういった気持ちで練習に打ち込まれていたんでしょうか?

三浦(以下、M): 女子プロ野球リーグって私が入団した2010年に始まったんですよ。だから、今までなかった女子の「プロ野球選手」という職業に就けたことがまず夢みたいで。

──三浦選手の世代が日本で初めての女子の「プロ野球選手」だったんですね。昔から憧れがあったんでしょうか?

M: 小学一年生から少年野球に入っていたんですけど、その頃から「プロ野球選手になりたい」っていう思いを持って野球をやっていたんです。でも、やっぱり学年を重ねるにつれて現実は厳しいと感じることが積み重なって、スポーツに携わる仕事に就ければ、なんて思っていて…。

──現実は厳しい、というのは?

M: 兄が少年野球チームに入っていたので、その影響で野球に興味を持って自分もチームに入ってプレーしてたんですけど、中学校に上がる時、中学の野球部に入ろうと思ったら「女の子はソフトボール部に入りなさい」と断られて。それで中学3年間の部活はソフトボール部で過ごし、高校に行く時にも野球をやりたいなと思っていたら、当時は全国に五校くらいしか女子硬式野球部がなくて、地元にもなかったので野球をやるのを諦めてしまったんです。挑戦しても良かったんですけど、家では親元を離れるのはまだちょっと早いかなという話になって。それで、小学校二年生からずっと続けていたテニスを頑張ろうと思って、テニスの強い高校に入って、インターハイでベスト4までいきました。それはそれでとても充実してたんですけど、一方で大好きな野球をできないもどかしさみたいなものもどこかにあって…。

──そのタイミングで女子プロ野球ができた、と。

M: ちょうど高校卒業後の進路を決める際に、大学テニス部からの推薦もたくさんいただいたり、行きたい大学に軟式の女子野球部もあったり、と決めかねてるところに父が女子プロ野球リーグが設立されるっていう記事を見つけてきたんです。その時はホントびっくりでした。やりたくても女子野球ができる環境がなくて、ずっとテニスをやっていた人間だったので。父にも、「娘は野球をやりたいのにずっとできずにいる」とはがゆさを感じてた部分があったらしくて。「一回挑戦してみたらどうや」と応援してもらいました。

 

やるからには一番になりたい

──親御さんが背中を押してくださったことも大きかったんですね。

M: はい。父はそうやってチャレンジを勧めてくれましたし、母も私の意思を尊重してくれました。現実派なので、いい大学に入って、いい会社に就職してっていう道に行ってほしかったっていうのがあったかもしれないんですけど(笑)

──そして、当日。

M: 受かる自信はなかったんですけど、久しぶりの野球を楽しもうと思って受けてみたら運よく受かっちゃいまして(笑)

──その勢いのまま、一年目に好成績を残せた、と。

M: いえいえ。正直、入団前は、不安だけどまぁ慣れればある程度はやれるかも、と思ってたりしてました。でも入団してから気付いたんです。この部分では人に負けない、といった「絶対的な自信」を持たないままこの世界に飛び込んできたと。

──「絶対的な自信?」

M: その入団テストは30人が合格したんですが、私以外の人たちはみんな女子野球部で野球をやっていたり、大学でずーっと野球を続けてきた人たちばっかりだったんですよ。私はそもそも硬式野球をしたことがないからスタートラインが全然違っていて。それだけで少し引け目を感じてしまう。でもテニス出身者と言われるのも嫌だなと思っていましたし、昔からバッティングが大好きだったので「自分はけっこうできるんだろうな」と思いながらみんなと練習を始めたんですけど、やっぱり、まぁ、ね。ずっとやってる人たちの集まりなので、まさっている感覚をまるで持てない(笑)… この人たちには負けていない、勝てる、と確信できることを1つでも作らないとこの世界でやっていけない、と気付いたんです。

──それが、「絶対的な自信」…。

M: それを持つためには、まずは人より練習するしかないと。なので、休みの日も素振りをしたり、自分でバッティングセンターに通ったり。そうやって、人よりも練習するっていう自分との約束を守ることで、毎日少しづつ自分への信頼を高めて、ぶれない軸を作っていくことが成績に繋がる、という流れが見えてきたんです。それを経験して、練習は大事だということを改めて感じました。

──自分の理想と現実が違っていても心折れずに立ち向かっていったんですね。

M: やるからには一番になりたいなと思っていたんです。それで、一年目で打率リーグ2位になれたことで自信がついたんですけど、私より上の方が一人いたので。それが川端友紀選手だったんですけど、川端選手に勝ちたいなと言う思いがあったから、のちに首位打者とかをとれるようになったんだと思います。川端選手のおかげで野球に対して真剣に取り組めました。尊敬している選手です。

 

ひとつでも誰よりも多く練習して、「今日はこれでちょっと勝ったな」と

──実際にはどういった練習をされていたんですか?

M: シーズンオフの冬の間に毎日、最低1000球打っていました

──………1000球!?

M: (笑) チームのノルマとして、1000本振っていたんです。女子プロ野球って練習でけっこう振るんですよ。それを振ってから、プラスでその日に調子が悪い場合はバッティングセンターに行って、自分にプレッシャーをかけてやっていました。振る体力がついたのが良かったんじゃないかな。

──す、すごい…。

M: 1000球はノルマなので、みんながやっているんですよね。みんなと同じことをやっていてもみんなと同じ結果になってしまうと思ったので、みんなが練習終わっても自分はもう一本だけ打つとか、ひとつでも誰よりも多く練習して、「今日はこれでちょっと勝ったな」と思うようにしていました。そういう風にして、他のしんどい練習もモチベーションを保ってやってきたのかなと思います。

──スポーツをする上でメンタル面も大事ですもんね。打率を伸ばすためにも、考え方で工夫をされていると過去のインタビューでうかがいましたが…。

M: 正直、年間打率で成績を残すのが一番すごいことかなと思っていましたし、特に私みたいなタイプの選手ならば、そこを目指すべきだって強く意識していたので、各試合の打率で気持ちが左右されないように目標を立てていました。シーズン中の試合数を確認して、それなら今シーズンは一試合ヒット2本計算で、何本打てば達成だな、みたいな感じで。ヒット数は減らないので、3本打てれば貯金できたとか、打てない日があっても貯金してるからいいな、とか。毎日の打率は見ないで、自分が立てたその日の目標数に向かってやっていました。

──野球に触れ始めた頃はどの選手に憧れていましたか?

M: 愛知県が地元なので、中日ドラゴンズはテレビでよく観ていたんですけど、イチロー選手に一番注目していました。今でも尊敬している選手ですね。あれだけヒットを残してきた選手なので、「女子でもこれだけヒットを打てるんだよ」ってところを見せられればなと思っていっつもプレーしていたんです。

──練習方法を参考にしていたんでしょうか?

M: いえ、考え方ですね。あの打ち方は天才的すぎて到底私にはできないので(笑) イチロー選手の本を読んで考え方とか気持ちでどうしていくのか、というところを参考にさせてもらっていました。

──野球以外で注目している選手はいますか?

M: 卓球の石川佳純選手です。年も近いですし、伊藤美馬選手のように若い方が活躍している中でもこの間(2021年1月)の全日本選手権で優勝していて。それで泣いているところを見ていると「やっぱりしんどいんだな」とも感じたので。私もしんどいなって(笑) …そんなことないんですけど!(笑) そういう選手がいるから、私も若い子の中にいても頑張ろうっていう気持ちになりました。なので勝手に応援しています。

──自分だけじゃないって思えるのは心強いですよね。

M: 私も「まだまだできる」って思ってるんですけど、周りから「ベテラン」「ベテラン」って言われると、どうしても「もう若い子の時代なのかな」って思ってしまうところが性格上あって。でも、石川選手の「まだできるんだよ」って姿を見たことで気持ちが前向きになったというか。すごい存在だなと思っています。

 

「女子野球っていいな」と思ってもらえるように

──阪神タイガースWomenに入る話を聞いた時はどう感じましたか?

M: 率直に言うと嬉しかったですね。女子プロ野球でやることが、女子野球を広める一番の近道かなと思って11年間やってきたんですけど、違う世界、環境でもいいかなって気持ちになりました。しかも「タイガース」という注目度が高いチームで活動することによって、女子プロ野球リーグ時代よりも認知があがるかもしれないと思って。それが入ろうかなと考えたきっかけですね。

──昔よりは女子野球人口が増えているんですよね。

M: 高校の女子野球部が今だと全国に40校くらいになりました。今の子だったら私の時より選択肢は広がっているんじゃないかなと思います。私はもう高校の時に「どこどこの女子野球部に入りたい」って考えられるような時ではなかったので、それを考えられる時代に野球したかったなっていうのはありますけどね。阪神タイガースWomenの選手もどこどこ高校の先輩後輩で、野球部の思い出を話すこともあって、羨ましいなと思いながら聞いていますね。先輩とかテニス部にしかいないので…(笑) 当時は野球をやってる女の子なんているのかなと思ってたくらいでしたし。

──阪神タイガースWomenによって、今まで以上に簡単に、野球をする選択肢を選べるようになるといいですよね。

M: そうですね。阪神タイガースWomenに入りたいって女の子が増えるようにやっていかなきゃいけませんし、女子野球をもっと広められたらなと思っています。

──初代主将も務めることに。

M: そうですね、「実力ある若い子がいっぱいいるから、その子たちの方がいいですよ~」と思いました(笑) 彼女たちが引っ張っていくチーム、というのが私に勝手に描いてた理想形でもあったので。でも光栄なことなので「私で良ければ」と受けさせていただきました。

──プロ野球ではなくクラブチームでの練習になりますが、どういった練習をされているんでしょうか?

M: 平日はお仕事や学校があるので、午前の部と夜の部に分かれて、甲子園の室内練習場を借りてそれぞれが練習している状況です。チームとして会えるのは週末の一回だけ。野球がお仕事のプロ野球では毎日全員揃って練習する時間が充分に確保されていたんですけど、クラブチームは個々の限られた時間の中で効率よくやらなきゃいけないので、時間を持て余すことなく充実して練習できていますね。もちろん野球はチームスポーツなのでみんなで練習したほうがより良いものになっていくとは思うんですけど、短い時間の中で自分をいかに鍛えられるか、集中して練習しています。

──今までと違う環境ですが、練習とお仕事の両立は慣れましたか?

M: 慣れました。筋肉痛でいっぱいですけど(笑)

──筋肉痛?

M: 去年まではちょっとベテラン?(笑)だったので、女子プロ野球ではみんなとは別メニューで調整は任されていた部分があって、近年は体力強化での激しい追い込みとかはやってなかったです。でもここではみんな横一線でスタートして鍛えていこう、と新たな覚悟を持ってきたので。2月は久しぶりに、走り込みや筋トレなどの体力強化をみっちりやりました。身体をいじめる練習がいっぱいですごく筋肉痛でございます(笑)

──メンバー間とのやりとりで最近何か笑ってしまったエピソードはありますか?

M: すみません、まだ全然ないんです…(笑)

──あっそうか、週一回しか集まる時間がないんですよね!

M: 全員で練習したのはまだ3回、4回くらいですね。全然まだエピソードまではないんですけど、たぶんみんな緊張してるのかなと思っています。これから個性を引き出していけたらな、と。引き出していきます!

──シーズンが始まったら私たちも試合を観に行けますか?

M: コロナの影響でちょっとわからないんですけど、きっと大丈夫だと思います。関西でやっていて、アマチュアなので立ち見とかかもしれないんですが、無料で観られるので! そういった情報も私たちから発信できたらな、と思っています。

──最後に、阪神タイガースWomenとしてのこれからの野望を教えてください。

M: 関東に比べて関西は女子野球のクラブチームが少ない中、こうやって作っていただいたことに感謝でいっぱいなので、その思いをしっかりとプレーで表現していきたいです。今は全国大会で日本一になることを目標にしているんですけど、一般的に女子野球を知っている方がまだまだ少なくて、阪神タイガースWomenなら多くの方が女子野球を知るきっかけを作れると思うので、そういう部分では「女子野球っていいな」と思ってもらえるように、憧れてもらえる選手を一人でも多く出せるように頑張ります。

 

Q.「シュッとしてるもの」って何だと思いますか?
M: すらっとしている男性をイメージしますね。具体的に言うなら…佐藤健とか?(笑) (インタビュー中、好きな漫画の話で『恋は続くよどこまでも』(小学館刊)が話題に出ていました)
Q.自分の名前で缶詰を出すとしたら、中に何を詰めますか?
M: ヒットを打てる缶詰。「絶対に打てる!」みたいな薬がほしいですよね。

 

三浦伊織


阪神タイガースWomen HP

愛知県出身。日本女子プロ野球リーグに11年間在籍し(2010年~20年)、MVP3回、首位打者4回、最多安打4回、最多盗塁8回、最高出塁率2回、最優秀守備率1回、ベストナイン8回、ゴールデングラブ賞3回など、数々のタイトルを獲得してきた女子野球界を代表する選手。2014年には打率5割をマークし、19年にはリーグ初の500安打を達成。安打製造機として「女イチロー」の異名を取る。21年、阪神タイガースWomenの創設メンバーとして入団。初代キャプテンに就任。「タイガースアカデミー ベースボールスクール」の専属コーチも務める。

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2021/4/1