

関西にいる「シュッとした」人たちから「シュッとした」お話を聞きたくて始めた、MAGKANインタビューコーナー!
第四回は、
小説『京洛の森のアリス』(文藝春秋刊)をはじめ、京都を舞台にした小説を執筆されている 作家の望月麻衣先生 にお話をうかがいました!MAGKANでマンガ化&連載が決定している『京洛の森のアリス』の誕生秘話や、京都の魅力について語っていただいたインタビューです。
編集さんとの打ち合わせでパッと花開いた作品なんです。
──『京洛の森のアリス』を書き始めたきっかけは何でしたか?
望月(以下M): 文藝誌『別冊文藝春秋』(文藝春秋刊)からエッセイの依頼を受けてお会いしたことがきっかけだったんです。その時にうちからも本を出していただきたいですね、と言っていただけまして、はじめは、他にも三作品抱えているからスケジュールが落ち着いたら…って話す中で、どういうジャンルが好きか質問したんです。そこで編集さんがファンタジー好きと発覚して、「私も大好きなんです!」とすっごく盛り上がったんですよね。そうしたら盛り上がりすぎて、京都を舞台に和製ファンタジーを書けたらおもしろいかもしれない…いや、やってみましょうか!と。編集さんとの打ち合わせでパッと花開いた作品なんです。

©Mai Mochiduki
「京洛の森のアリス」「京洛の森のアリス Ⅱ 自分探しの羅針盤」 望月麻衣(文藝春秋刊)
幼いころに両親を亡くし、引き取られた叔母の家でも身の置きどころのない少女ありすは、遠く離れた京都で舞妓修業を決意する。彼女のもとにやってきた老紳士に連れられて訪れた京都は不思議な世界だった―。ともに人間の言葉を話す、カエルのハチスとウサギのナツメと、ありすは京洛の森の謎に触れていくファンタジー小説。
M: その打ち合わせから帰ってすぐ、あの一巻の序章にあたるプロローグを書いて編集さんに送りました。
──えっ!? その日に!?
M: そこからようやく作って、世界を広げていきました。第二章は紅葉屋で、とか。あの頃は亮平を何屋にするかもいろいろ候補があったんですよ。
──亮平が「地図屋」という仕事じゃなかったら、どんなキャラクターになっていたのか…。 ちなみに、一番お気に入りのキャラクターは誰ですか?
M: すごく悩みますけど………ナツメ、かな。万能で、頼れる感じが好きです。家事もしてくれますし。我が家にもいてほしい(笑)

結局、どんな仕事に就いてもそれなりに苦労はするんだから、やりたいことをやっていたほうがいい。
──その後、連載が『別冊文藝春秋』で始まり、2018年2月に一巻が文庫になりましたが、どの世代の方に一番読んでほしいですか?
M: 年齢問わず、読んでもらいたいなと思っています。この作品は子ども向けだねと言う方と、大人向けだねと言う方とに分かれるんですけど、一巻は自分探しをテーマに、二巻は仕事とは何かをテーマに書いているので、意外と年齢は選ばないかなと。
──自分探しも、仕事も、生きる上で必ずぶつかることですもんね。
M: これから社会に出る子ども達はもちろんですけど、例えば子育てが終わった方でも、今から自分は何をするの?って感じることがあると思うんです。仕事にしても、結局、どんな仕事に就いてもそれなりに苦労はするんだから、やりたいことをやっていたほうがいい。それはずっと考えていくことだと思うので、若い方から大人まで楽しんでもらえれば。
──作中の世界は、「自分を偽らずに、本当にやりたいことをすること」が最も大切にされていますよね。ご自身がもしこの世界に入ったら、何をしていると思いますか?
M: やっぱり、書いていると思います。何かしら書いているんじゃないでしょうか。
人から見れば出たがりだと思われているかもしれないんですが、経験をしたいだけなんです。
──普段はどのように作品づくりをされているんですか?
M: まずは書きたいことを書いて、丸で囲っていくんです。何となくでいいから、とにかく書いていく。そこからこれが第一章で、でもこれはもっと後で…と決める。同時に、矛盾が出てこないようにその世界の決まり事も詰めていきます。ただ、第一稿はプロットみたいな勢いでざっくりと書いているんです。エンジンがかかっているときに書いてしまわないと、気持ちが離れてしまうので、まずは終わらせてから変なところを整えて、肉付けして、骨組みを作ります。
──『京洛の森のアリス』の設定ははじめどのあたりまで考えていたんでしょうか?
M: 序章を書いた時点で、二巻に書いた設定まで考えていました。でも、やっぱり他の作品のスケジュールがあったので、他作品の第一稿は一ヶ月くらいで書くのに、『京洛の森のアリス』は二ヶ月半くらいかかったんです。私にしては結構かかったなあ。編集さんには「早いですよ!」と驚かれましたけど(笑)
──家事をこなし、Twitterもブログもマメに更新、たまにSSも載せて…とされている中で、執筆ペースを保たれているんですね!
M: Twitterとブログは完全に趣味なんです。なので、書きたくなければ書かないというスタンスで楽しんでやっています。家事・子育ては仕方ないな、みたいな(笑) それに、執筆は午前中に書くんですよ。朝の10時くらいまでに家事をして、そこから昼過ぎまで書いています。切羽詰まっている時は15時くらいまで。あと、子ども達は20時から勉強をするようにしているので、たまにその時間を使って書いたものの推敲をします。サイクルができているというか。

──どうしても創作活動って波があるかと思うんですが、そういう時はどうされているんですか?
M: 書けない時はずっとネットサーフィンをしちゃうし、何にもできなかったって日もありますね。京都市内や図書館に出かけて、気分転換のためにいろんなことをしていたら、ああ、書けそうな気がするってなる時もあります。
──そんな中で、書店回りも、メディアへの露出も精力的に活動されてますよね。
M: 好奇心ですね。本当に、楽しいんですよ。ただ単に。人から見れば出たがりだと思われているかもしれないんですが、経験をしたいだけなんです。自分が出たものはあまり見たくないですね。でも、撮影ってどんなことをするのか、インタビュー取材も然りで、知っておきたい。それを全部 作品に活かす、みたいな(笑)
──それは、書店回りも同じですか?
M: そうですね。書店の現場を見るってすごく勉強になります。書店員さんの生の声は家にこもっていたら分からないので。例えば、少し前まではライトミステリが流行っていたけど、神様を題材にしたものに人気が出始めているかも、とか。書店に並ぶものの中で、どういうものが目につくのかっていうのも、実際に見てみると何となく掴めるんですよね。それに、書店員さんに会っていると血が通うというか、作品のことを覚えてもらえますし。
──大阪府枚方市の書店・水嶋書房さんや、京都の大垣書店さんとお話をしていても、望月先生を心から応援している空気をひしひしと感じました。
M: 最初はお忙しいのに迷惑じゃないかなと思っていたんですけど。最近は関東でのサイン会も行うようになったんですが、関西の書店員さんから、このまま書店回りをしてもらえなくなるんじゃないかと思っていたんです、と言われたこともありました(笑)

どこよりも日本的なのに、異世界みたいなところですね。
──それほど、関西の書店員さんとの繋がりを大切にされているということですよね。京都を舞台にした作品をたくさん書いてらっしゃいますが、京都の魅力はどこにありますか?
M: 歴史が古いからこその重みと、どこよりも日本的なのに、異世界みたいなところですね。18時になったらゴンゴーンと鐘が鳴るとか、昔の日本の出来事が普通に行われているところがすごいなと感じます。
──ご出身は北海道ですよね。
M: はい。北海道は他の地域に比べて歴史が浅いからこそ、余計にそう感じるんだと思います。北海道だと大正時代創業のお店と聞くと「わあ古-い」と思っていたんですけど、京都じゃ「そんなん最近やん」みたいな(笑) あと、5年前から京都に住み始めたんですが、けっこうちょろちょろしているにも関わらず、名所と呼ばれる場所にまだ行ききれていないんですよね。その濃さも本当にすごい。
──京都で一番好きな場所はどこですか?
M: 本当にたくさんあります。気に入ったところは全部作品に書いているんですけど…。南禅寺や源光庵、吉田神社、下鴨神社、上賀茂神社は良く行くところですね。
──作品の中で出てくるスポットばかりですね
M: もともと、ミーハー的にパワースポットが好きで。一度、神社はガソリンスタンドみたいなものだと聞いたことがあるんです。エネルギーが足りない時や、これからが勝負って時はエネルギーチャージができて良いことがあるよって。それからは、あ、ちょっと行っとこうかな、と思うようになりましたね。
──京都での暮らしには慣れましたか?
M: 京都に移り住むと決まった時、周りからは大丈夫かとすごく心配されました(笑) 旦那が転勤族なのでいろんなところに住んできましたが、京都の人はつき合いやすいなと思います。田舎だと皆さん親しげで、ちょっと家に入らないかと言ったら夕食の時間になってもまだ居る、ということがよくあったんですが、京都の人は絶対にない。玄関先でいいと断られますし、相手に負担をかけさせない人付き合いをするんです。それを壁と言ってしまえば壁なんですけど、遠慮するところがしっかりしているなと感じました。
──”京都人”ならではの距離感というか。
M: でも、意外とご近所の奥さんたちは福岡や四国出身で、京都弁を話しているのに京都生まれ京都育ちとかじゃないんですよ。京都への憧れで京都の大学に入って、そこでご主人と知り合ってそのまま結婚しているらしいんですが、地方の方言が恥ずかしいから京都弁に直した、って言うんです。え、インチキじゃないか!みたいな(笑) その方言も可愛いんだからこっちでも話してよ、みたいな(笑)

表紙の話が出る前から、庭さんの絵の世界観で『京洛の森のアリス』を書いていたんです。
──関西在住・出身の作家さんだけでつくるマンガ雑誌『MAGKAN』で、『京洛の森のアリス』のマンガ化、連載が決まりました。
M: 庭春樹さんに描いていただけることになって、ものすごく嬉しかったです。編集さんと表紙の話が出る前から、庭さんの絵の世界観で作品を書いていたんです。ふわっとしたやわらかい、パステルカラーのイメージ。なので、表紙をお願いできたことだけでも嬉しかったのに、コミカライズもしていただけるなんて、もう嬉しくないわけがないですよね。びっくりですよ。ミラクル。
──最初から、あのイラストの世界感で作品を書かれていたんですね。
M: 表紙を描いていただいたのがちょうど『MAGKAN』に掲載されている読切の『ところにより』を描かれていた時だったみたいで、庭さんから「いま手がけている作品も主人公が三つ編みの女の子なんです。でもわざとじゃないんですよ」って連絡が来て(笑) でもそれって御縁ですよね、と話していました。漫画が始まるのが本当に楽しみです!
『京洛の森のアリス』『京洛の森のアリス Ⅱ 自分探しの羅針盤』発売中。三巻の刊行が決定している。2018年冬から『MAGKAN』にて庭春樹によってマンガ化&連載開始予定。
Q.「シュッとしてる」ものって何だと思いますか?
M: この関西弁は、青年のことを意味していると思っていました。凛としているというか、背筋がピッと伸びているというか。『京都寺町三条のホームズ』(双葉社刊)の清貴はシュッとした子というイメージで作っています。
Q.自分の名前で缶詰を出すとしたら、中に何を詰めますか?
M: あなたを主人公にした物語を詰めます。
望月麻衣

【 公式サイト 】
北海道出身。京都在住。2013年、E★エブリスタ主催の電子書籍大賞を受賞しデビュー。2016年、『京都寺町三条のホームズ』で第4回京都本対象を受賞。『京洛の森のアリス』のほか、『わが家は祇園の拝み屋さん』『太秦荘ダイアリー』などがある。
