
関西にいる「シュッとした」人たちから「シュッとした」お話を聞きたくて始めた、MAGKANインタビューコーナー!
第五十回は、
扇町ミュージアムキューブ準備室の金さんと重田さん。関西小劇場界の背景を踏まえた劇場のコンセプトについてお話をうかがいました!

「扇町ミュージアムキューブ」って?
2023年10月に大阪・扇町に誕生する新しい文化創造拠点。かつて若者の文化発信地であった「扇町ミュージアムスクエア」(1985~2003年)のコンセプトを継承する施設として、250席、100席、50席の3つの劇場と7つの多目的スペースに、多様な芸術が集積するシアターコンプレックスです。


10個の様々なサイズのスペース=CUBEからなるシアターコンプレックス
──10月に発表された扇町ミュージアムキューブ開館のお知らせには多くの反響がありましたが、いつから準備を進められていたんでしょうか?
金さん(以下、K):建設が決まったのが2018年の夏なので、4年前ほど前です。計画当初から劇場の運営計画を弊社が担当し、今年の春から準備室を構えて現地での運営を始めました。
──準備室では具体的にどんな準備をされているんでしょうか?
K:劇場が施工途中なので、基本設計の部分から調整や変更が必要になったときに、指示や要望を伝えるハード面の対応と、劇場の利用料金の設定やオープニング公演に関するソフト面の対応をしています。あと、10月から利用受付を開始したのですが、ありがたいことに多くの利用問い合わせをいただいておりまして、嬉しい悲鳴を上げているところです。
──扇町ミュージアムキューブは「扇町ミュージアムスクエア」(以下、OMS)のコンセプトを継承する施設ということですが、劇場の特徴やコンセプトを教えてください。
K:まず、これだけは誤解のないようにお伝えしなければならないのですが、かつて大阪ガスさんが運営されていたOMSという、若者の文化発信に大きく貢献していた劇場がありました。今回の扇町ミュージアムキューブはOMSのコンセプトを継承し、OMSがあった時のように扇町に文化的な賑わいを取り戻すことを目指している劇場ではありますが、株式会社シアターワークショップという総合的な劇場プロデュース企業が運営する、新しい劇場となります。
重田さん(以下、S):SNSで開館のお知らせをした時、「OMSが戻って来た!」とか「帰ってきた」という言葉が多かったんですが、金が言う通り新しい施設です。それに建設地もOMSの直接的な跡地ではなく、扇町公園の南に建設中です。そして、扇町ミュージアムキューブの一番大きな特徴としては、10個の様々なサイズのスペース=CUBEからなるシアターコンプレックスであることです。
──シアターコンプレックスとはどういうことでしょうか?
S:いわゆるシネマコンプレックスと言われるシネコンはスクリーンがたくさんあり、一つの建物の中で恋愛映画やアクション映画など、訪れた人が様々なジャンルから選んで楽しむことができるという多様性がありますよね。その劇場版がシアターコンプレックスです。扇町ミュージアムキューブは250席、100席、50席というサイズ違いの3つのCUBEを劇場として演劇等のイベントを主に行う場所とし、残りの7つは多目的スペースとして、舞台・音楽の練習や地元の方のサークル活動などでも使っていただけるような場所になる予定です。つまり大きな劇場を一つ作るとなると、そこで一つの催しがある時にだけ人が集まることになりますが、この劇場ではある部屋で演劇が上演されている日に、他の部屋では音楽ライブやアートの展示会が行われていたり、次の上演に向けて稽古をしている人がいたりと、いろんな目的で訪れた人が自分の目的以外のものを発見する場所になってほしいと思っています。
──他に扇町ミュージアムキューブならではのこだわりはありますか?
S:劇場の利用料金に関してですが、6日間の長期プランをご用意しました。最近、会場費を安く済ませるために短期間で利用する団体さんが多いんですよ。でも、良い作品をしっかり準備してお客さんに見ていただくことも大切ですし、利用者の皆さんが満足のいく作品を提供してほしいので、長期のプランをかなり格安に設定しています。
──利用時間も8:00~23:00までの任意の12 時間(フレックスタイム制)となっており、使いやすそうですね。
S:運営に関わっているスタッフが演劇などの舞台作品に携わってきた人間が多いので、これまでどんな劇場が使いやすかったか、または使いにくかったか、そしてそれはどうすれば解消できるのか、というところはかなり話し合いました。

関西で演劇を続けていくビジョンが見えなかった
──お二人はこれまでどのように舞台と関わってこられたんでしょうか。
S:私は京都出身で大学時代から学生演劇をやっていました。大学卒業後もフリーランスでずっと舞台に携わり、フリーランスで何年か経験したあとは劇場つきのスタッフとして作品を企画したり、利用者さんに使っていただくという施設の運営をするようになりました。そしてこの4月から新しい劇場の準備がいよいよ始まるということで、株式会社シアターワークショップへ移籍して劇場運営を担当しています。
──金さんはいかがですか?
K:私は西宮出身で、高校生の頃から演劇をやっていたんですが、ちょうどその頃にOMSや近鉄劇場が閉館してしまって、大阪の風向きがあまり良くなかったんですよね。有名な劇団もいたし、好きな劇団もいたんですけど、関西で演劇を続けていくビジョンが見えなかったので、東京の大学に進学して学生演劇を経験しました。そのときから将来は劇場に携わる仕事がしたいと思っていたんですが、当時アルバイトしていた劇場のプロデューサーから、「今まで演劇しかやってきていないから、一回普通の仕事も経験してみろ」と言われまして。私は演劇を作るよりも演劇を観る人を増やすという、アートマネジメント側に興味があったので、確かに今まで自分が関わってきた人ってみんな演劇が好きな人だったので、その人たちとだけで話していても演劇のマーケットって広がらないし、全然関係ないところに修行に出た方がいいな、と思い広告系の制作会社に入社しました。3年ほど働いたあと、「やっぱり演劇がやりたい」と思い、フリーランスとしていくつか舞台制作や広報のお手伝いを経験し、今の会社に入りました。
──お二人ともずっと演劇に携わってこられたんですね。重田さんはOMSの舞台は経験されたんでしょうか?
S:閉館前に何回か観に行ったり、使ったこともありました。僕は京都で演劇をしていましたが、当時の関西小劇場演劇は京都である程度集客ができてきたら次は大阪のOMS、という流れがありました。なので、着実にステップアップしていった人たちが立てる舞台だと思っていましたし、先輩たちからもOMSでやっているものは観ておいた方が良いと言われていました。そしてOMSの閉館の年に、駆け出しのスタッフとして初めてOMSを使ったんですが、そのあとすぐに閉館してしまいました。だから目標がなくなった感じでしたね。
──OMSの閉館は、関西小劇場界にとって大きな衝撃だったんですね。
S:そうですね。だから今回扇町ミュージアムキューブの話を聞いたとき、何かしらの形で関わりたいと思いました。
K:私も4年前に扇町ミュージアムキューブの話が出たときに関西出身ということで白羽の矢が立ったんですが、故郷に錦を飾るような思いもあり、去年戻ってきました。

じっくり時間をかけてお客さんに見せる作り方もやってみて欲しい
──お二人から見て、今の関西小劇場界隈はいかがですか?
S:僕は1990年代に昔の関西小劇場界の盛り上がりを経験した世代で、当時を知らない若い世代にはピンとこないと思うんですが、本当に勢いがありました。では当時と今で何が違うかというと、OMSがあった頃はまだインターネットが発達しておらず、情報は新聞や雑誌という紙媒体のメディアや口コミ中心でした。だから、何か面白いものはないかと自分で探し回って、ハズレも引きながらアタリを見つけたときの面白さを体験していた世代だったんです。でも20年経って、今はSNSやスマホなどができて便利になった一方で、情報が氾濫していて逆に情報を探すのが難しい時代になったと思います。また、自分の好きなものを見つけるのが簡単になったために、好きなものだけを楽しんで過ごすことができてしまう。つまり、新しいものを偶然知る機会が少ないんですよね。だからこそ、シアターコンプレックスが必要だと思っています。
──確かに、今はハズレを引きたくないという気持ちが強い時代かもしれませんね。金さんは東京から帰ってきて、東京と関西の違いを感じることはありますか?
K:単純に比較はできませんが、「演劇祭」と呼ばれるものは関西の方が多い印象があります。私が観に行った演劇祭は上演時間が短くて、できるだけ多くの劇団を出すというものが多く、それ自体は楽しかったんですけど、逆に言うとフルコースではなくファストフードっぽいというか…。関西にはお笑い文化があるので、大阪の舞台人の方がお客さんがリアクションしやすいものを出すというか、じっくり作り込んだ作品というよりは、パッと出せるものが多い印象ですね。
──ああ、関西人は人を笑わせたいというサービス精神のようなものがあるかもしれませんね…(笑)
K:そうそう、「今からボケるよ! 笑ってね!」というのも分かりやすいです(笑) それに対して、東京は出しっぱなしというか、「食べても食べなくてもいいよ」という感じが多い気がします。だから比較して、厳しい言い方をすると、その場で結果は出るものの、持って帰ったときに残らない感じがあって…。とある演劇祭では当時流行った映画のパロディを取り入れた劇団が3つぐらいあって、それぞれ面白かったんですけど、それで劇団の方向性がお客さんに伝わってまた観たいと思わせられるのか、と考えるとちょっともったいない気がしました。もっとギリギリを攻めた、不安定さがあってもいいのにな、と思います。それが6日間プランを導入した話にも繋がってくるんですが、じっくり時間をかける作り方も、もっとやってみて欲しいですね。
──なるほど。ちなみに、劇団の数は当時と比べて減っているんでしょうか?
S:OMSがなくなってからの20年って、外部からよく「関西から劇場が減っている」って何度も言われたんですけど、実は舞台を作っている側からすると減っている実感はないんです。
──どういうことでしょうか?
S:劇場が減ると劇団も減るんですよ。だから劇場と劇団の需要と供給は残念ながら常に丁度よくなってしまうんですけど、全体的に見たら減っている現象が起こっているんです。そうすると結果的に観客も減ってしまいます。だから観る人も活動する人も増やさないといけないんですが、劇場ばっかりむやみに増やしてしまうと、需要と供給のバランスが崩れ、ただガラガラの劇場が増えてしまいます。だから業界の責任として、場所を増やすのであれば活動する人も育てていかないといけないと感じています。新しい劇場が定着するまで5年~10年はかかるでしょうから、今後は今の20代のクリエイターが30代の中堅になるまで劇場を存続させて、さらに下の世代に継承し、演劇人口が増えるように育てていかないといけないと思っています。

演劇はコミュニケーションをとって複数人で作っていく芸術分野
──若手の育成もしていかなければならないと仰っていましたが、今の若いクリエイターたちに何か伝えたいことはありますか?
K:ちょっと気になるのは諦め感ですかね、意外とわがままな人が少ないなって思います。あと、わがままになったとしても人と意見がぶつかったときに、去っていってしまう人が多い気がします。去るのではなく「僕はこれをやりたいんだ! だからみんなついて来い!」って言ってしまえばちゃんと失敗できる機会も得られると思うんですけど、今って昔と比べていろんな価値観があることが当然だし、人に押し付けちゃダメだし、多様性を重視しなきゃいけない。だから誰も分かってくれないと思ったら、一人でやることを選んでしまう人が多いんだと思います。最近のYouTuberさんとかを見ていると、自分ひとりで走ることで上手くいっていたり、一人で突き進むことで得られる専門性みたいなものもあると思うんですけど、演劇ってそうはいかないんですよ。コミュニケーションが大事なので、人と意見が合わないことすらも作品に昇華させたり繋げていかないといけないんです。なので喧嘩の仕方が下手というか、もっと自分たちが正解だって言い切ってしまえばいいのにと思います。
──重田さんは近畿大学でも教鞭を取っていらっしゃいますが、若い人たちと接するなかで思うことはありますか?
S:近畿大学の舞台芸術専攻で教えているんですが、卒業後も演劇を続ける人が少なくなっていることは気になっていますね。一度チャレンジしてから諦めるというならまだ良いんですが、演劇で生きていくのは無理ですよね……という感じで諦めてしまう人が多くなってしまった印象です。当然、昔と比べて経済的な部分をはじめ当時と違う状況はあるんですけど。先ほど金が言ったように、演劇はコミュニケーションをとって複数人で作っていく芸術分野なんですよ。また、お客さんを前にして勝負しないと評価されない分野でもあります。だから長くやっていくためには同じ方向を目指せる仲間を探すコミュニケーションと、自分が面白いと思うことを自信をもって周りに伝えていくコミュニケーションが必要になってくると思うんですが、そういった自分の力を高めていく試行錯誤の過程をもっと楽しんでほしいと思います。
──ありがとうございます。では最後に、どんな劇場にしていきたいか教えてください。
K:コンセプトとしては先程も重田が言ったように、シアターコンプレックスという様々なサイズの劇場があり、いつ行っても何かやっていて、自分の知らないジャンルでも興味を持ってもらえる機会を提供していきたいです。ただ、いきなり利用してくださいと言っても難しいと思うので、まずは劇場側からオープニングイベントで、「こんな使い方もできるんだよ」ということを提示していけたらと思いますし、なるべく多ジャンル且つ、若手からベテランまでいろんな世代が楽しんでもらえるような劇場にしたいと思います!

Q.「シュッとしてるもの」って何だと思いますか?
S:どこが良いってわけじゃないけど、良いと思うときに使いますね。ポジティブな要素があるときに使うと思います。
K:実は私、西宮出身なんですけど「シュッとした」がよく分からなくて…(笑) ネットで調べたり、重田に聞いてやっとなんとなく分かったというか…(笑)
S:その時点でもうシュッとしてないな(笑)
K:でも、今日お昼にタイ料理を食べに行ったら、そこの店員さんが「辛くなかったですか? また来てくださいね」とか声をかけてくださって、その押しつけがましい感じでなく自然な感じ振る舞いが素敵だなと思って、こういうのがシュッとしてるってことなのかな? と思いました。…合ってるのかな?(笑)
Q.「扇町ミュージアムキューブ」の名前で缶詰を出すとしたら、中に何を詰めますか?
S:ん~…観たことないものが出てくると良いですよね。
K:逆に、来た人が何か詰めてもいいのかも! こっちが何か入れるより、何か入れたくなるような場所にしていきたいので。あと、いつ誰が来てもいいように缶の蓋は開けておきます!

金有那
兵庫県出身。学生時代から演劇に携わり、大学卒業後は広告・プロモーション制作会社のプロデューサーを務めた後、フリーランスとして様々な劇団で制作や広報を担当。2015年にシアターワークショップに入社し、昨年より関西にて扇町ミュージアムキューブの運営準備を行う。好きな漫画は『忘却バッテリー』(集英社刊)など。
重田龍佑
京都府出身。ARTCOMPLEX ディレクターや大阪市立芸術創造館 館長を務めた経験を活かし、2022年4月よりシアターワークショップに移籍。近畿大学舞台芸術専攻で教鞭を取るなど、若手アーティストの育成にも積極的に取り組んでいる。好きな漫画は『暗黒神話』(集英社刊)、『とつくにの少女』(マッグガーデン刊)。
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