
関西にいる「シュッとした」人たちから「シュッとした」お話を聞きたくて始めた、MAGKANインタビューコーナー!
第四十五回は、
造形作家の安居智博さん。ユニークな作品を発表し続ける安居さんに、創作活動の原点や作品との向き合い方についてお話をうかがいました!
「安居智博」さんって?
紙製ロボット「カミロボ」の作者。手のひらサイズのフィギュアから着ぐるみ、プロレスマスク、イラストなど、カミロボ以外にも様々な作品を創作。2006年にはNews Week誌の「世界が尊敬する日本人100人」にも選出され、日本国内のみならず世界からも注目を集める。2022年には作品集『『100均グッズ改造ヒーロー大集合』』(平凡社刊)を出版。


観た人とコミュニケーションが取れる一番良い状態で止める
──このカラーコーンで作られた着ぐるみスーツ、Twitterで拝見しました! 制作期間は大体どのくらいかかったのでしょうか?
ホームセンターで買ってきた三角コーン24個を細かく切って針金でつないで、自分が着られる着ぐるみスーツを作りました。 pic.twitter.com/d10qtisrCB
— 安居 智博 (@kami_robo_yasui) August 13, 2021
安居さん(以下、Y):これは、2週間から3週間ぐらいですね。
──早いですね! これはカラーコーンを見た瞬間にこの形がパッと思い浮かんだのですか?
Y:どちらかと言うと、実際に作りながら現物合わせでデザインをまとめていくような方法で作っています。作る前に「こうなったら良いな」という大まかなスケッチは描きますが、いざ作業を始めると想像通りにはならないですね。使う素材の特性もあるので、どこか一部分を作ってみて方向性が決まったら、その造形ルールを全身に広げていくようなイメージで作っていきます。
──作る上で何か意識されていることはありますか?
Y:我慢することですかね。調子が出てくるとどんどん作り込みたくなるんですけど、作り込み過ぎてしまうとどんな日用品で作ったのか分かりにくくなってしまいます。その一方でディテールが少なすぎると、それはそれでふざけてやっている感じが出てしまうので、ちゃんとかっこいい着ぐるみとして成立させるために必要なディテールは保ちつつ、それ以上作り込まない我慢が必要なんです。
──つまり、パッと見たときに原型が分かるように作っているということですね!
Y:はい。技術をひけらかしたくなるモードに入りそうになることもあるんですけど、そうするとコミュニケーションが取れなくなる気がするんですよ。なので、観た人とコミュニケーションが取れる一番良い状態で止めることを意識しています。
──なるほど。カラーコーン以外にも日用品を使った作品をたくさん制作されていますが、作品を作るときは同時進行で作品を作っていらっしゃるんですか?
Y:基本的には、ひとつの作品を完成させてから次の作品に取り掛かっています。そうでないと、全部が7割ぐらいで終わりそうな感じがして…。
──と言いますと…?
Y:最初のうちは「後でまとめるべきところは後でまとめればいいや!」って思いながら作業を進めるんですけど、完成が見えてくるとだんだん断定していかないといけない作業が増えてくるんですよね。だから僕は7割から10割に仕上げるまでが辛い時間だと感じています。その辛いところへグっと踏み込まないと作品は完成しないので、同時進行してしまうと集中力が散漫になってしまって結局どれも未完成のまま放置してしまうんじゃないかと思います。

ガンプラとプロレス
──そもそも、安居さんの創作活動の原点はどこにあるんでしょうか?
Y:気がついたら描いたり作ったりしていたので、大きなきっかけがあったようには思わないですね。小学校4年生頃からガンプラブームがきて、ガンプラを改造するのが流行ったんですが、せっかく買ってもらったプラモデルに敵にやられた傷をつけたり、汚し塗装をするとかっこよくなるっていうのが雑誌でも特集されていた時代で、「こんなことしていいのか!」という衝撃を受けたことは覚えています。
──確かにちょっと勿体ないって思ってしまいますね(笑)
Y:ガンプラやミクロマンなど、可動式の玩具はカミロボの関節を研究する良い教材でした。
──カミロボというのは、安居さんが小学校3年生頃から作られている紙製のロボットのことですね。
Y:はい。

──関節の研究とはどういうことでしょうか?
Y:カミロボは全身の関節が可動するように作っています。小学3年生の時に針金を使った、カミロボ独自の関節可動の仕組み「ヤスイ締め」を考え出して以来、子供ながらに紙製ロボットの関節可動を研究していたのですが、ガンプラやミクロマンの構造は小学生が人体の関節を理解するという点でかなり役立ちました。
──カミロボは今も保存されているとのことですが、現在カミロボは何体あるんですか?
Y:全部で600体ぐらいです。小学生時代に作った古いものは何度も修理や補強を重ねています。表面は当時のままで内部構造が補強されているという意味では、耐震補強をした昭和レトロの建物みたいになってきました(笑)
──600体!! そのカミロボでプロレスごっこをしていたとうかがいましたが、プロレスにハマったきっかけはあったのでしょうか?
Y:小学校5年生の時に、初代タイガーマスクが登場して世間がプロレスブームに沸いたのがきっかけでした。タイガーマスク以前のプロレスは怖いものっていうイメージがあったのであまり見ることはありませんでしたが、タイガーマスクは元々自分が好きだったロボットアニメや特撮ヒーローとかを見る気分でプロレスを見ることができたので「なるほど、プロレスってこうやって楽しむもんなんだな」って見方が分かった感じがしました。
──その当時はゴールデンタイムにプロレスが放送されていた頃ですもんね。ずばり好きな選手はいましたか?
Y:ん~…多すぎて絞り切れないんですけど、ハルク・ホーガンとか好きでしたね。
──超人ですね! お話をうかがっていると、ガンプラとプロレスの価値観がカミロボを始めとする安居さんの創作活動の原点になっている感じがしますね。
Y:そうかもしれませんね。

自分のための創作活動と、発表するために作るものという2つのレール
──書籍化もされた『100均グッズ改造ヒーロー大集合』に登場する人形は、既存のものを組み合わせることで作品にされていますが、0から何かを作ることと、既存のものを生かしながら作ることでは作品の向き合い方などに何か違いはありますか?
Y:僕の中では真逆ですね。例えば0から作り上げたカミロボは、自分が楽しむために作っていたものであって人に見せるために作っていたものではありませんでした。カミロボの構造や、戦わせた時の紙ならではのリアルな攻防に気が付いた時は「これはすごい!」と思ったのですが、同時にこの感覚はクラスの友達とは共有しにくいものであることを理解していました。子供同士の世界では金属やプラスチックではなく、紙でできているっていう貧乏くささや、安居が勝手に作っている「見たこともないロボット」は恥ずかしいもので、バカにされても仕方がないものだという自覚がありましたね。
──子供の世界って正直ですもんね…(笑)
Y:でもガンダムのプラモデルを綺麗に作ったり、クラスメイトを主人公にした漫画を描いてみんなに回し読みしてもらったりするとすごく受けが良かった。そんな経験の中で、描いたり作ったりしたもので周りに楽しんでもらう面白さも感じていたので、そこは使い分けるようになっていきました。

──ではカミロボに対し、日用品ヒーローたちは人に見てもらうための作品ということですね。
Y:そうです、みんなに楽しんでもらいたいという視点からスタートしています。この使い分ける感覚は今でも持ち続けていて、「自分のため」と「発表するため」という境界線を意識しながらその間を行ったり来たりしながら創作活動をすることが自分にとって一番いい状態なのだと思うようになりました。最近は2つのレールを意識的にクロスさせられるようになってきたと感じていて、それが日用品ヒーローのシリーズで一番はっきり形にできたと思っています。みんなに楽しんでもらうために作った作品に、僕の「ヤスイ締め」が入っていることで、日用品のヒーローたちはカミロボでやってきた構造やデザインの構築の仕方を翻訳してくれているような感じです。

──すると、自分でこっそり楽しむものだったカミロボを世間に発表することになった時はどんなお気持ちでしたか?
Y:当時は発表と同時にパルコでの展覧会やDVDの発売などのプロジェクトが始動したのですが、その時は光栄であるという気持ちがありつつも、ものすごく恥ずかしかったですね。幼少の頃から何かしら物を作ったり描いたりしてきたので、いつかこれが自分の作品だと呼べるものを作りたいと長年思っていたんですけど、なかなか上手くいかない日々が続いていました。そんな時に、カミロボを発表してみないかと声をかけていただいたんですが「あー、やっぱりそういうことだったんだ」と思いました。
──自分の作品はやっぱりカミロボだったと納得されたということでしょうか?
Y:どう考えてもカミロボに自分の考えが一番濃厚に詰まっているよなぁ、と納得した反面、残念さみたいなものもありました。本当はもっとスタイリッシュな表現というか、お洒落なものを作れたらいいよなって思っていたのに、俺の場合はこの紙製のロボットだったのかと(笑)
──あっ、スタイリッシュなものが作りたかったんですね(笑)
Y:漠然とした憧れがありましたね。カミロボ発表当時はSNSも無い頃で、今よりも多様な価値観が許容されにくい時代でした。そんな中、こんな紙工作の一人遊びを発表したら気持ち悪がられて傷つくこともあるだろうと躊躇する気持ちもあったのですが、思い切って飛び込んでみようと思いました。カミロボって戦わせてボロボロになってきてからの方が動きがよくなって、存在感が高まってくるんです。だから何かしら悪いことを言われるかもしれないけど、大胆に遊んだ結果、少しくらい自分が傷を負ったとしても全然平気だろうと。それくらいの方が、カミロボの作者としては正しいんじゃないかと思っていました。

下手の考え休むに似たり
──京都を拠点に活動されていますが何か理由があるのでしょうか?
Y:元々学生時代に京都をうろうろしていたっていうのが、まずベースにあると思います。社会人になってから最初に就職したのは東京で、戦隊シリーズの撮影で使う着ぐるみのスーツを作る仕事をしていたんですが、そのときに最初のボーナスで個人的にミシンを買って、プロレスのマスクを作る研究をしてたんですよ。
──今は仕事としてプロレスマスクの受注もされていますが、プロレスマスクも元々は自分で楽しむものであって、世に発表するわけではなかったんですか?
Y:造形的な興味からでした。どういう材料を使ってどのように作っているのかとても気になったので、プロレス雑誌のアップ写真を見て「ここに縫い目があるってことは、おそらくこういう型紙なんだろうな…」っていう研究をしながら作っていました(笑)
──す、すごい!
Y:それで、当時京都にあったプロレスマスクを作る工房で働き始めたのをきっかけに戻ってきたんですよ。そこからの流れでフリーになってからもずっと京都にいますが、最近は神社仏閣の良さも徐々に感じるようになってきました。今は散歩中に灯篭を見るが好きですね。
──ん? 灯篭ですか⁉ どんなところに良さを感じているんですか?
Y:幾何学形の「構築感」ですね…灯篭の中にロボを感じているんだと(笑)
──そこにもロボを! 今後は灯篭をヒントに新たな作品が生まれるかもしれませんね(笑) 今後作りたいものや挑戦してみたいことはありますか?
Y:それを見つけるために日々試行錯誤している感じですね。自分が夢中になれる「面白さの鉱脈」を探すのが日課のような感じです。
──ちなみに日用品で作品を作るという鉱脈はどのように探し当てたのでしょうか?
Y:最初はカミロボの世界に、紙ではない異素材で作られた敵が攻めてくるという世界を作ろうと思ったんです。「三匹のこぶた」って童話がありますが、あの話って三匹が作る家の素材が物語の進行に重要な役割を与えていますよね。ああいうコンセプトの話を作りたくて、つまようじやアルミホイルなどを使った「異素材カミロボ」を作り始めました。その時はあくまでも単発のアイデアだったのですが、ここに鉱脈があるんじゃないかと気づいてからはもう一段階進んで、日用品で作ろうと思い立ちました。更に、日用品のなかでもキャラクター性があるものを使って、日用品の再構築だけではなくキャラクター性の要素も再構築していくところに、気づけば足を踏み入れていた…という感じですね。
──なるほど、そういう経緯があったんですね。
Y:「下手の考え休むに似たり」って言葉がありますけど、あれって良い考えが浮かばないのに考え続けることは休むことに似ている、だから考えたって仕方がないよ、って意味ですよね? でも最近気付いたのですが、休むことってリラックスしてノーストレスじゃないですか。そう思うと、下手の考えをしているときは楽しい時間だと言えるんじゃないかと。だから面白さの鉱脈を探してバカみたいなことを考えている時間は楽しい時間なんだからどんどんやっていこうぜ! と解釈することで間違ってないだろう、と思うようになりました。
──では、今後の作品も楽しみにしています!

Q.「シュッとしてるもの」って何だと思いますか?
Y:シュッとさせようという意識から生まれたものではないんだろうなと思います。
Q.自分の名前で缶詰を出すとしたら、中に何を詰めますか?
Y:自分の名前で、となると難しいんですけど…缶詰みたいな意識を持つことはありまして。僕、適当な落書きをしたスケッチブックがすごく溜まっているんですが、見返すと何を目的として描いたのか分からないものがたくさんあって、その時の気分が真空パックされているみたいな気がするんですよね。なので、自分の落書きを缶詰の中に入れて、熟成させて、数年後に開けたらちょっと良い物になっていたらいいのになって思いますね(笑)

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造形作家である安居智博氏による初めての作品集。100円ショップにある日用品や駄玩具、また、包装紙や千代紙などのプリント柄の紙など、なんでもロボット化してしまう安居さんの驚異の発想力のすべてが詰まっています! 是非安居ワールドをご堪能ください! ご購入はAmazonからどうぞ。

安居智博
滋賀県出身。フィギュア造形や広告制作などの活動をする一方、自身のライフワークとして幼少期から作り続けている紙製ロボット「カミロボ」は、美術教科書掲載や海外での展覧会など国内外のアートシーンで評価を受ける。好きな漫画は『北斗の拳』(集英社刊)

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人喰い鬼と食えない女

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