• お知らせ 2022.3.1

シュッとした噺【第四十一回】菓子工房シュクルリ オーナーパティシエ 井藤裕史さん

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関西にいる「シュッとした」人たちから「シュッとした」お話を聞きたくて始めた、MAGKANインタビューコーナー!

第四十一回は、

大阪・塚本にあるパティスリー「菓子工房シュクルリ」のオーナーパティシエ 井藤裕史さんにお話をうかがいました!パティシエになった理由から、面白いアイデアを生み出す秘訣に迫ったインタビューです。

「菓子工房シュクルリ」さんって?

チョコミントに魅せられた、全国のチョコミン党たちから熱烈な支持を集めるお菓子屋さん。また、遊び心満載の独創的なケーキも話題となり、般若心経の特注ケーキは多くの反響が。テレビや雑誌でも多数紹介されている、注目の人気店です。

チョコミント好きの彼女が言うなら間違いない

──最初にお店が話題になったのはチョコミントのお菓子がきっかけだったと思いますが、最初からチョコミントに特化したお店にしようと決めていたのでしょうか?

井藤(以下、I):そうですね。商売って「全部が美味しいです」って間口を広げるよりも「こういうものに特化しています」というコンセプトがあった方がやりやすいんですよ。オープンする半年前ぐらいに、チョコミント好きの奥さんのために「チョコミントのオペラ」っていうケーキをプレゼントしたんです。それを食べた奥さんが「めっちゃ美味しいやん」「これ絶対売れるよ」って言ってくれて。そこで、チョコミント好きの彼女が言うなら間違いないと思ったので、コンセプトをチョコミントに決めました。だから外観もチョコミントカラーにしたんです。可愛いし綺麗ですしね。

──奥さんの一言がきっかけだったんですね。

I:はい。だから僕は彼女のことを「チョコミント部長」って呼んでます(笑) 新作は彼女へのプレゼンを通さないと完成しませんし、彼女はうちのブレーンです。

家族との時間を確保するために独立

──そもそも、パティシエになられたきっかけは何だったんでしょうか?

I:母の手伝いがきっかけだったと思います。料理が得意な母親で、クリスマスケーキはブッシュドノエルを自分で作っていましたね。普段の食卓も、チーズフォンデュが当たり前に出てきていました。その時はその凄さが分からなかったんですけど、35年前の食卓にチーズフォンデュが並ぶって、すごくハイカラな母親だったと思います。その影響で、僕も自然と料理の手伝いをしていて、小学生の時には、料理をすることが楽しいと感じていました。なので、その頃から将来は食の道にいきたいなと考えていて、僕はお菓子の方が作っていて楽しいなと思ったので、中学3年生の時には、専門学校に行ってパティシエになろうって決めていました。

──料理と比べて、お菓子作りの楽しさはどこにあると感じていたのでしょうか?

I:料理って「場所」がないと振る舞えないじゃないですか。昔は、テイクアウトも盛んではなかったし。でもお菓子って、人にあげる機会が多いんですよ。となると、渡した瞬間の顔とか反応をダイレクトに見ることができるんです。その反応を見るのが楽しかったんですよね。あと、プラモデルを作るのも好きで、ちまちまと作り上げる作業が元々好きだったんですよ。なので、料理よりも細かい作業が多いお菓子の方が、僕には向いてたかなって思います。

──では、パティシエになるために、高校から製菓の学校へ進学されたんでしょうか?

I:いえ、高校は普通の学校に行きました。早い子だったら、高校1年生の時から大学のオープンキャンパスに行っていた人もいましたけど、僕は進学する気は全くなくて。できれば高校卒業後、すぐにケーキ屋へ就職したかったんです。ただ、田舎の普通科の高校から、ケーキ屋に就職するツテがなかったんですよ。先生が「見つけてきたぞ!」って資料を持ってきてくれるけど、どっかの工場のお菓子部門だったりして…。それで結局、専門学校に1年通って、バイトを始めたケーキ屋さんで就職したって感じですね。

──このお店を開店されるまでは、ずっとそこで修行されていたんですか?

I:何店舗か変わってますけど、修行の日々でした。元々は神戸の北区のケーキ屋で3~4年働いて、そこからは大阪に出ました。ヒルトンホテルやウエスティンホテルで働いたり、ウエディングの会社でも働きました。あと、工場みたいなところや、カフェでもバイトをしたりして、いろんな業態を経験した上で辿り着いたのが、独立でした。

──最初から独立したいという気持ちはなかったのでしょうか?

I:ケーキ屋で働き始めたころは「いつか自分でケーキ屋をやりたい」って思っていました。でも、大阪に出てきてから、そのモチベーションは下がりましたね。大阪へ出る前に僕が勤めていたケーキ屋は、朝の6時半から始まって、夜8時~9時まで働く過酷な環境で。給料も安かったし、休みは週1回。もちろん12月の休みはありませんでした。

──忙しいイメージはありましたけど、想像以上にハードワークですね…。

I:そういう時代でもあったんですよ。でも、大阪に出てヒルトンホテルで働いてみたら、給料が4倍になったんです (笑) めちゃくちゃ忙しかったけど、残業代も全部出してくれるし、休みも倍になりました。だから、休みも給料も増えた、社食もある、寝るとこも全部ある…。「なんだこれは。こんなんもう独立しなくていいやん」と思って、独立へのモチベーションは下がりました。

──確かに、安定した場所から離れることは体力も使いますし、不安も感じますよね。

I:でも、前職のウエディング会社で働いているときに、僕ら夫婦にとって待望の第一子が生まれたんです。ただ、ウエディング系の会社って、土日は休めないことが多いんですよ。「子どもの運動会や授業参観に行けへんの嫌やな…」「この子が何より好きやし、ずっと一緒にいたいな…」という思いから、じゃあ自分の好きな時に仕込みができて、自分の都合で営業できる店をやろうと思ったんです。だから「美味しいお菓子を俺が広めてやる!」とか、そういう野心はなくて、家族との時間を確保するために独立したっていうのが1番の理由ですね。

今まで定着しているイベントに新規で参入しても勝ち目がない

──チョコミントに特化したお店も珍しいですが、店内もたくさんアニメの絵やグッズなどが飾られていて、他のお菓子屋さんと比べると雰囲気が違いますね。

I:僕が思う最高の職場とは、好きなものに囲まれて仕事ができる環境なんです。僕はTVアニメ「おジャ魔女どれみ」や「プリキュアシリーズ」(ABCテレビ・テレビ朝日系列)がすごく好きなので、絵やグッズをたくさん飾っています。オープン当初はおもちゃ屋さんだと思われていました。「ここ何屋さん?」「おもちゃ屋か雑貨屋かと思った~」って(笑) あと、よく「お子さんいるんですか?」「女の子ですか?」って言われるんですけど「いや、これ全部僕のものなんで」って(笑)

──確かに一見、お菓子屋さんっぽくないかもしれません。このガチャガチャもお菓子屋さんでは見たことないですし。

I:「お菓子屋なんだから、ガチャガチャよりも焼き菓子のセット置いた方がいいんじゃないの?」という意見もありましたけど、そんなの面白くないなと思って(笑)

──他と違うというと、福袋も普通のお菓子屋さんではやっていない取り組みですよね。

I:そうですね。クリスマスってケーキ屋はどこもお客さんの取り合いじゃないですか。でも、クリスマスケーキって一つの家庭に1個あったら十分ですよね。なので店側からすると、いかにお客さんを呼び込むかで売上が変わってくるんですけど、正直クリスマスシーズンってイチゴがすごく高いんです。それに台数もたくさん作らないといけない。そんな険しい中に参入してもしんどいだけだと思ったので、うちはクリスマスやバレンタイン、ひな祭り、ホワイトデーはあまり乗り気じゃないんですよ(笑)

──でも、お店をやっていく上では売上も考えていかなくてはいけませんし、大事なイベントですよね…?

I:僕はイベントの中でハロウィンが一番好きなので、ハロウィンには力を入れているんですけど、ハロウィンが終わってからの12月の売上も確保しないといけないので、その方法を考えたときに、ヨドバシカメラさんで「デジタルカメラの夢」っていう福袋を販売していることを思い出したんです。それで「チョコミントの夢…ええやん!」と思って、福袋をやることにしました。それで、その年に作った新商品とかを全部入れて、ちょっとお得に出してみたら、1年目でめちゃくちゃ反響がありました。なので、もうクリスマスは他のケーキ屋に任せて、うちは他がやっていない年末の商戦をとろうと。

──なるほど、隙間を狙ったわけですね!

I:バレンタインも、デパートで催事とかをたくさんやってるんで、あんな中にいち個人店が戦いを挑んでもボッコボコにされるだけだなと。だから、多少はやりますけど、しっかりやるのは辞めました。その代わりに3月10日が「ミントの日」なので、これをうちだけのイベントにしようと考えました。それで1年目のときに、ショーケースを全部ミントのお菓子にしてみたら、それがもう大好評で。2年目に実施したときには、ケーキ屋ではあるまじき3時間待ちになりました。

──えっ、3時間ですか⁉

I:店の前に列がずっと続いていましたね。その行列を見たお客さんから「今日なにやってんの?」って電話がたくさん来て…。「いま忙しいねん!」って思いながら対応していました(笑) そんな風に、今まで定着しているイベントに新規で参入しても勝ち目がないって思ったので、うちだけの価値を持たせるイベントを考えてやっています。今後も隙間隙間を狙っていけば、うちの店が成り立っていくんじゃないかな、と。

違う業界の友達やカルチャーから吸収したものを、お菓子に落とし込もうと思っています

──ガチャガチャや福袋の商戦もそうですが、面白いアイデアはどういうところから思いつくのでしょうか?

I:んー…パティシエではない目線で、物事を見ることが大事かなと思います。僕は大阪に出てきてホテルで働くようになってから、自分の時間が持てるようになったんで、たくさん遊び歩くようになったんです。そこで、パティシエではない、服屋の人やBARのマスター、クラブでDJをやっている人、絵描きさん、彫師さんとか、いろんな業界の友達ができました。なので、そういった違う業界の友達やカルチャーから吸収したものを、お菓子に落とし込もうと思っています。その一方で、失礼な話かもしれませんけど、パティシエとか料理人とかって、視野が狭い人が多いんですよ。料理のことにしか興味がないから、料理作るのはめっちゃ上手いけど、服はめっちゃダサいみたいな…。そういうタイプが多いんです、この業界(笑)

──なるほど、異業種の方々との交流がアイデアを生み出すきっかけになったと。

I:そうですね。有難いことに、パティシエって珍しがられるんですよ。だから向こうから面白がって近寄ってきてくれて、交流の幅が広がった部分もあるかと思います。ライブ会場とかに行って「なにやってんの?」って話になったとき「ホテルでパティシエやってる」って言うと、大抵「え! そんな人、出会ったことないわ!」って言われるんです。そこから「じゃあこのイベントに合ったお菓子を作ってよ」って言われて、僕のお菓子をライブハウスの物販で出すようになったりとか。

──個人的にパティシエとしての依頼を受けることもあったんですね。

I:なので、独立してお店を出すときも、神戸ではなく大阪で店を出したんです。だいたい店を出すってなったら、みんな地元に帰って店を出すんですけど、僕自身のファンというか顧客がもういたので地元に帰ったところで、大阪のファンを捨てることになるじゃないですか。そこまでして神戸でお店をやっても意味がないなって思ったんで、この場所でお店を開きました。

──お話を聞いてると、本当にその当時の過ごし方が今の井藤さんの軸になっている感じがしますね。

I: そうですね。このお店の看板キャラクターも、そのころに知り合った、日本橋で彫師をやっているアメリカ人の友人にデザインしてもらいました。僕は彼が描く女の子のイラストがすごく好きだったので、僕のリクエストを取り入れつつ、ちゃんとチョコミントの歴史も踏まえながら制作してくれました。

──チョコミントの歴史…?

I:チョコミントといえば、アメリカでは「ガールスカウトクッキー」が有名なんですよ。ガールスカウトクッキーっていうのは、全米のガールスカウトに所属する女の子たちが活動資金を集めるために販売するクッキーのことなんですけど、向こうでは100年以上続く伝統行事なんです。そこではいろんな味が販売されているんですが、中でも1番人気なのがチョコミント味なんだそうです。それを聞いたときになんだか繋がりを感じたので、制服もガールスカウトをイメージした軍服っぽい感じにしました。あとは、うちのカラーを入れるためにボタンをチョコにしたり、シュクルリの「S」を入れたりして出来上がったのが、この「みるりちゃん」です。

──そんな歴史があったんですね! 知らなかったです。

I:僕も元々知らなかったので、彼からその歴史を聞いたとき、面白いなと思いました。アメリカ人の彼ならではの視点ですよね。

推しキャラのためのステージを作りたい

──常に楽しんでお仕事されているイメージがありますが、苦労していることはありますか?

I:なにか新商品を作ると「チョコミント味はないの?」って言われるんですよ。で、チョコミント味の新商品を作ると「それのチョコミントじゃないやつはないの?」って聞かれるんです(笑) だから、うちの商品ラインは、一商品で2つの味を出さないといけなくて、それがしんどいですね。

──シュクルリさんだからこそのお悩みですね(笑)

I:あとは、ハロウィンとかで面白い商品を出すと「クリスマスはどんな商品が出るんやろ」「次のシーズンも楽しみにしてます!」っていうプレッシャーが…(笑) クリスマスに関して言うと、お菓子作りに必要な型はだいたい海外から輸入しているんですけど、海外はキリスト教の方が多いので、キリストの誕生日であるクリスマスはふざけないんですよね。ハロウィンはみんな「お祭りや~」って雰囲気があるから、アホみたいなふざけた型も多いんですけど、クリスマスはそうじゃない。だから難しいんですよ。そういうこともあるので、お客さんの期待に応え続けられるかなっていうプレッシャーはありますね。下手なもの作って「え、シュクルリさんが作ってコレですか…」ってなるのは避けたいので(笑)

──では、そんなプレッシャーも抱えつつ、次に挑戦してみたいお菓子の構想はありますか?

I: アイドルでもアニメでも、いまってアクリルキーホルダーっていうグッズが出てるじゃないですか。それを飾ることを前提にした、推しキャラのためのステージを作りたいなって思っています。

──ステージ…?

I:例えば、火を使って戦うキャラクターだったら、炎っぽい色のクリームやチョコのパーツを作って、推しが輝くステージを作るんです。それで、家であなたの推しをのせてくださいっていうケーキを作りたいなと。

──なるほど! さすがオタクの心理を分かっていらっしゃいますね!

I:僕自身、漫画やカルチャーが大好きなので。ただ、それをお客さんにどう説明して準備していくか悩んでいます。こんなパーツがありますっていうことを、一度全部作ってから説明しないといけないですし…。あと、これは僕の悪い癖なんですけど、いつも、前段階で準備ができないんですよ。例えば、ふらふらと町を歩いて、面白いものが目に入ったときに「あ、これ作ろう」って思ったら、もう明日には店に出してたりとかするので(笑) だからいつも事前告知が出来ないんですよね(笑) いつか形にできればと思うので、どうアプローチしていくか、これからも考えていきます。

Q.「シュッとしてるもの」って何だと思いますか?

I:「シュッとした」っていう言葉はいろんな解釈があるし、だいたい誉め言葉で使われると思うんですけど、変な言い方をすると、褒めるとこがない時でも「シュッとしてんちゃう?」って逃げられますよね(笑) だから良いようにも悪いようにもとれる。もし良い意味で使うとするなら、僕は容姿とかだけじゃなくて、その人の生き様とか、好きなことをやって楽しそうにしてる人がシュッとしてるなって思います。

Q.自分の名前で缶詰を出すとしたら、中に何を詰めますか?

I:「シュクルリ」という名前で缶詰を出すとしたら、お菓子が入っていると面白くないんですよ。「何でこれ入ってるん!?」っていう驚きがあると面白いと思うので、究極は何も入ってなくてもいいかもしれません(笑) 固定概念をぶっ壊していくようなものを入れたいですね。

井藤裕史

兵庫県出身。神戸北区のケーキ屋やホテルでの修行を積み、2018年に菓子工房シュクルリを開店。チョコミントのお菓子で注目を集め、その独創的なお菓子で人気を博している。好きな漫画は『三つ目がとおる』(講談社刊)、『ブラックジャック』(秋田書店刊)、『ナニワ金融道』(講談社刊)など。

「菓子工房シュクルリ」

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チョコミントのお菓子をはじめ、大仏型のチョコレートやユニークでキュートなケーキが魅力。誕生日や記念日のデザインケーキも注文可能。お問い合わせはお店のHPをチェック。

営業時間 11:00 ~ 19:00
定休日 火曜・水曜(その他不定休)
〒555-0021 大阪府大阪市西淀川区歌島2丁目1−6ホンダハイム1F
※営業日はHPやSNSで事前にご確認ください。

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