
関西にいる「シュッとした」人たちから「シュッとした」お話を聞きたくて始めた、MAGKANインタビューコーナー!
第十二回は、
大阪・本町で約5坪の書店「toi books」を営む、磯上竜也さんにお話をうかがいました!「変に悩むならやってしまおう」と思い切った判断で、2019年4月から書店を開店したその理由やこれからについて語っていただいたインタビューです。
「toi books」とは?
「本屋を『考えるため/問うため』の本屋」をコンセプトにした大阪・本町にある書店。2019年4月17日にオープンしたばかりだが、SNSを通じて本好きに話題に。新本・古本にこだわらず文芸書、絵本、漫画、写真集等を幅広く取り扱い、イベントも随時開催している。店舗HP

本屋を自分で開くなんて、考えたこともなかった
──本屋を一人で開くのって、そんな簡単にできるものなのでしょうか?
磯上(以下I):本屋を開こうと決めて、約3ヶ月でここをオープンしました。
──3ヶ月!? それは準備期間としてはかなり短いですよね?
I:たぶん短いほうです。皆さんはもうちょっと考えてから開くと思います(笑)
──何がきっかけだったんでしょうか?
I:「天牛堺書店」や「スタンダードブックストア」が閉店すると聞いた時ですね。自分がよく行っていた書店が立て続けになくなってしまって。「心斎橋アセンス」という書店でもともと働いていたんですが、その書店が閉店して無職になり、ふらふらしていた時でした。本屋を自分で開くなんて考えたこともなかったんですけど。大阪の書店業界に暗いニュースが続いている中で、何でもできるといえばできる状態にいる自分が、書店を開くことをハナから除外するのは良くないのかなと考え始めたんです。
──それって2019年1月あたりにニュースになった閉店情報ですよね?
I:そろそろ自分の進路を決めようと考え始めていた頃だったんですよね。それで、初めて書店を自分でやることも含めて今後を考えてみようと思って。ひとまず、良い場所がなければこんなことを考えても意味ないしな、と思って借りる場所を探してみたら、この約5坪の場所がちょうどあったんですよ。それからは早かった。「このくらいならいけるかも。変に悩んでぐずぐずするくらいなら、一回やってしまってそこから苦労した方がいい。じゃあもう開こう」ってなったんです。それで、バタバタとここを借りて。借りたら当然家賃がかかるので、早く開けようとすごいスピードで什器とかも全部決めて、やれるところから全部やっていって、最短の日に開店しました。
――めちゃくちゃ思い切りましたね…。
I:そうですね、かなり。ふらふらしていた間に、書店業界から離れるかどうかを考えたこともありました。でも、いつか離れるにしても、一回自分ができることを最大限やってみてから離れるのもいいんじゃないかって思い始めて。やらなかった時の後悔のほうが大きいだろうなと思ったんです。
──場所を借りて、本を選んで、大変だったんじゃないでしょうか。
I:借りたのはオープンのひと月半くらい前でしたけど、本を選ぶのは特に困りませんでした。もともと書店で働いていましたし。この狭さなので、コンセプトさえ決めたら置く本はある程度まですぐ絞れました。仕入れに関しては、「心斎橋アセンス」で働いていた頃に知り合っていた出版社の営業さんを通じて直接取引をお願いしている部分もありますが、基本は「子どもの文化普及協会」という取次(出版社と書店を繋ぐ問屋)から仕入れています。一般の書店と違って、仕入れると返品できない買い切り制度で仕入れるので、信託金のようなお金が必要なくて、低コストで始められるんですよ。

本が大好きで書店員になった、という訳ではない
──お店のコンセプトは何ですか?
I:文芸書を中心に「問いを与えてくれる本」をコンセプトに選書しています。一度、本ってものはどういうものかと考えた時に、「答えだけじゃなく、問いも持ってきてくれる本が良い本だ」という言葉が浮かんで。何かで読んだ言葉だったかな。文芸書って、ビジネス書のような売れやすさに繋がる即効性はあまりないけれど、気づきや問いを与えてくれるような良い本が多いと思うんです。それなのにあまり読まれていないな、もっと広めたいな、と前の書店に勤めていた時から考えていて。なので、その考え方をコンセプトに反映させました。
─だから、店名が「toi books」。
I:いえ、これは書店を開く云々の前に生まれた屋号なんですよ。書店を対象としたある企画に参加してみたくて、でもその頃は書店員を辞めていた時だったので何もできないなと思っていたら、主催の方が「想いがあるなら、屋号さえ名乗ってもらえれば参加できます」と言ってくださって。じゃあ考えてみようと考えて生まれたのが「toi books」だったんです。適当に決めるんじゃなく、先ほどお話したようなことを考えて屋号を決めました。いい屋号だと思っていたので、本屋を開く際にもそのまま使うことにしたんですよ。
──そんな流れが…。昔から本をお好きだったからこそ、ですね。
I:いえ、それが全然違うんです。ほとんど読んでいなかったんです。全く読まないってこともなかったんですけど。
──ええっ、まさかの答えが…。
I:本っておもしろいなとは思っていたんですが、読んでいないので本のことが全然分からなくて。じゃあ本屋で働いたら一番てっとり早く知れるだろうと、23歳の頃から働き始めました。本が大好きで書店員になった、という訳ではないんですよ。全然まっとうじゃない入り方をしています。
──昔から、とにかくやってみようの精神をお持ちなんですね。
I:そうですね、興味がわけば。とりあえずやらないと分からないとは思っているので。本屋に勤めようと思ったのも、自分で本屋を開くという選択肢を選んだのも、「やらんと分からんよな」という気持ちからでした。
──迷いや恐れはなかったんでしょうか?
I:めちゃくちゃありましたよ、それは(笑) 本って、たくさん売れるものではないし、利益率が高いわけでもなく、ただ並べて売れるなんてことも起こり得ない。だから、おもしろいと思ってもらえる場を作れるのかとか、不安はたくさんありました。でも、お世話になった方や、書店員の時からお付き合いのあった小説家の方々に書店を開くことを報告したら、「君なら大丈夫だよ。応援する」と言ってくださって。そういう風に言ってくださる方がいたから、気持ちが固まりました。

単純にお金はそこそこかかったので、精神的なダメージは大きかったですね
──開くと決めてから今までで、何が大変でしたか?
I:店の奥に置いている什器がめちゃくちゃ重たくて。完成品の状態で届いたんですけど、2階にある店まで運ぶのにエレベーターがないので…。運送業者の人が「手伝ってもらえませんか…」と。「勿論です」って言って(笑) あと単純にお金はそこそこかかったので、精神的なダメージは大きかったですね。一番不安になるじゃないですか、お金が無くなるって。
──お金、大事ですよね…。
I:でも、それ以外でめちゃくちゃ大変なことはなかったかな。一人でやっている分、自分の工夫ひとつで変えていけるし、失敗しても成功しても全て自分の責任にできる、というのはある種のラクさがありますね。普通の書店じゃ、自分一人が食べていければいい、という売り上げの作り方なんてできませんから。あっでも、経理作業は初めてなのでけっこう大変です。
──今の課題は何ですか?
I:欲しい本を全て揃えることができないのは直近の課題ですね。取次を介さないで書店と出版社が直で取引をするにしても、書店がいくつも増えてくると業務が煩雑になって出版社の負担になるので、仕入れられないところもあるんです。それは別に仕方がないことだとは思うので、別の方法を考えないといけないなと思ってはいます。
──お客さんに話しかけて交流されることもあるんですか?
I:基本的にこちらからは話しかけないです。話しかけられるのが苦手な方もいらっしゃると思うので。特に本なんか、読んでいるときに話しかけられたら気が削がれてしまいますし。でも、お世話になっている方々がTwitterでお店のリツイートをしてくださるので、Twitterで見ましたとか、お薦めの本はないですかとか、話しかけてくださることは一日に何回かあります。あと、古本も置いているんですが、特にコーナーに看板をつけているわけではないので、古本とは知らずに買われた方が、レジで「安すぎませんか?」と驚かれることはあります(笑)
──やっぱり、本のお薦めを聞かれることもあるんですね。
I:一人で小さな本屋をやっているからこそ、お薦めを聞かれた時にサッと答えられるようになっていないと意味がないとは思っています。普通の書店だとお薦めを聞かれることはそうないですし、置いてあるものも多いので、パッと提案するのが難しいと思うんですけど、ここは扱っている作品は把握していて、説明できる環境なので。
──お薦めするときはどういうことに気を付けていらっしゃるんですか?
I:できる限り、相手が今まで読んできた作品で、どういう部分が好きなのかを聞いて好みや傾向をお聞きするようにしています。ただ日常系が好きってだけでも、日常系のどういう部分が好きかをお聞きできたら、内容が日常系とは異なっている作品でも、その好みに通ずるものがあるからと薦められるんですよ。なので、あまり好みを教えてくださらなくて、「もう本当、お薦めでいいから」って言われるほうが実は難しくて(笑)。その場合は自分が本当におもしろいと思ったものを、自分の言葉でシンプルに伝えるようにしているんですけど。

本が売れる場じゃないと本屋じゃないと思っていて
──今後の目標をお聞かせください。
I:目標………ちゃんと本が売れる本屋になりたいです。生きていくためもありますけど、本が売れる場じゃないと本屋じゃないと思っていて。良い本があっても、売れていなければ作った人や出版社には還元できない。だから、売ることにはこだわっていきたい。もっとカッコよく「良い本を届けたくて」って言えたらいいんですけど(笑) 売れる本屋になりたいです。ローベルト・ヴァルザー(スイスの作家)を日本一売っている本屋になりたいってTwitterで書いたりして。ふざけ半分でもあるけど本当にそうなればいいと思っていますし、これから本を売っていく上で、そういう意識は大事だと思っています。
──だからこそ、作家のトークイベントやブックフェアも積極的に行っているんでしょうか?
I:そうですね。本屋をやっているモチベーションが「どれだけ本を売れるか」というところなので、おもしろいと思っている本が売れるようになってほしいんですよ。だから、売るためのひとつというか、その作品を知ってもらうきっかけのひとつとしてのイベントにしたくて。作品を知ってもらうきっかけだと考えると、イベントってかなり有効なんです。「イベントまでは行かなくてもいいや」と思っている人でも、「今度ここに作家が来る」という目で見てもらえたら、作品自体がその人の目に留まることになる。単純に、イベントに来る人だけに効果があるわけじゃなくて、大阪から離れた土地の人でも「大阪で盛り上がってるみたいだから読んでみようかな」って手に取ってもらえたらな、と。あと、ひとつの書店が同じ作品を連続的にお薦めし続けるのって、しつこく見えることもありますが、イベントがあればそれを理由に同じ作品のことをずっと告知できるので。
──作品に合わせてイベントの形を変えてらっしゃるんですか?
I:作品の良さに合わせて企画するようにしていますね。6月30日(日)に行った島田潤一郎さんの『90年代の若者たち』(岬書店刊)のイベントでは、小説家の津村記久子さんと対談していただいたんです。お二人が同年代なので、90年代の話がしやすいだろうとか、本には音楽の話がよく出てくるので、音楽が好きな津村記久子さんとなら話が盛り上がって、本の内容から離れたとしてもその本自体の魅力が伝わるイベントにできるだろうとか、考えて組みました。
──それは本当にお二人の作品を読んでいなかったら思いつかない内容ですよね。
I:それはやっぱり最低限やらないといけないことだと思っています。何より、ちゃんと読まないと作品に対して失礼ですし。イベントに来てくださったお客さんに、普通に読んだだけじゃ気付かなかったような面白さや、より深い楽しみ方を提示できたらなと思って、イベントを開いています。ただ、お金がかかることではありますし、予算があるので、限られたお金でできる最高のイベントを目指しながら、これからもやり続けていきたいです。

Q.「シュッとしてる」ものって何だと思いますか?
I:森泉岳土さんの描かれる漫画ですね。全部カッコいいと思います。描いている絵も他の人とは全然違いますし、物語も文学的というか、小説のような読み心地の作品が多くて。静けさやカッコよさがしっかりとある作品ばかりで、シュッとしているなという感覚があります。最新の作品『セリー』(KADOKAWA刊)は普遍的な物語性のある作品なので、普段漫画を読まない人も、漫画をよく読む人にもぜひ読んでほしいです。
Q.自分の名前で缶詰を出すとしたら、中に何を詰めますか?
I:この質問、やばくないですか?名前が付くっていうのがけっこうハードル高いですよね?(笑)
──すみません(笑)
I:なんやろう、『ドラえもん』(小学館刊)には缶詰のひみつ道具が2、3回出てくるんですよ。「カンヅメカン」っていう漫画の〆切に追われてカンヅメになるための缶とか、開けたらその一帯が一定時間その季節になる「季節カンヅメつめあわせ」とか。そういう缶詰モチーフの作品アンソロジーがあったらおもしろいですよね。なので、それを入れたいです。

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