192875 617311 617311 false QrxrtsJOQCD0ocgE2oL6YgHuZweXBzdl ddd4005a1b629c387356a322b19638fe 【第十八回】イラストレーター 中村佑介さん 前編 0 0 15
マグカンさんの作品:【第十八回】イラストレーター 中村佑介さん 前編

関西にいる「シュッとした」人たちから「シュッとした」お話を聞きたくて始めた、MAGKANインタビューコーナー!

第十八回は、

「ASIAN KUNG-FU GENERATION」のCDジャケットや阪急電鉄のラッピング電車など、幅広い分野で活躍する イラストレーター 中村佑介さん にお話をうかがいました!なぜ関西で活動を続けているのか、なぜイラストレーターという仕事をメジャーにさせることに意欲的なのか、その理由を語っていただいた、令和初の新春特別企画・ロングインタビューの前編です

中村佑介2016カレンダー ©Yusuke Nakamura

 

自分の絵は大阪によって作られている

──兵庫県出身で、プロになられてからもずっと関西にお住まいですが、イラストレーターとして仕事をする上で何か意識されていることがあるのでしょうか?

中村(以下、N): 関西、大阪は好きなところがいっぱいあって、愛着があるんですけど、僕からしたら他の土地でも良かったんですよね。たまたま関西にいたので関西にいるだけで。でも、自分の絵は大阪によって作られているから。ここにあるグッズのイラストもそうなんですけど。

──大阪によって作られている?

N: 大阪の文化って、食べ物でいえばお好み焼きみたいな、都会にしては泥臭いというか「イナたい」(田舎くさい)んですよね。どこまでいっても。洗練されすぎていないっていうか。そういうところが僕はすごく好きで。こんなにも栄えている都市において、いろんな生活環境や文化圏で生きている人たちがごちゃまぜになって暮らしているのって、本当にすごいことなんですよ。サイン会で全国を回りましたけど、都市において本当にありえないんですよね。ありえない。こんなにも整理していない町がいくつもあって、危ないとも感じる土地もあって、すごいじゃないですか。文化や人がごちゃまぜでも、「最後おいしく食べれたらいいやん」みたいな、本当にお好み焼き的な街ですよね。それは住んでいないと感じとれないところで、そういうものが僕は大好きなんです。自分の絵もいろいろなモチーフや色がフラットにごちゃまぜに描かれている。これはすごく必要な武器で、エッセンスだと思っています。

──ごちゃまぜで、お好み焼きなところに魅力を感じる、と。

N: 悪口を言っているみたいになってしまいますけど、町の汚さがけっこう重要だなと思っています。人口で言えば、一応東京・神奈川に次ぐ都市と言われているところなのに、ポイ捨てがすごいじゃないですか。衛生的に考えたら良くないことなのかもしれないけど、「ゴミくらいええやん」っていう大阪人のメンタルが表れているというか。あれだけ道路にポイ捨てはダメって書いてあるのに、吸い殻が落ちているのがすごいですよね。心斎橋で罰金とるよって書いてあるのに、その横で吸ってるし、タクシーに禁煙って書いてあるのに、乗ったらタバコの臭いがするし。「運転手さんはいいの!?」みたいな。でも、薄く許しているんですよね。「まぁいい…のかな?知らんけど」みたいな。それって、他の国の人がいても、道で寝転んでいる人がいても、「別にええやん」って言えるのと全く同じだと思うんです。整理せず、馴染ませるところが。まあ嫌な時もあるけど、それが絶対、大阪のいい面も作っていると感じています。

──思い入れがあるのはどこですか?

N: やっぱり天王寺の、寺田町のあたり。大学卒業後十年間住んでいたので。南大阪が好きですね。言葉が荒いところがすごくいい。荒いコミュニケーションが成立するってことは、人と人とのATフィールドみたいなものが薄いってことですからね。問題もあるんでしょうけど、僕が住んでいた時はそれで問題がなかったし、いい町だなと思っていました。

──どうして、大阪が中村さんの絵に必要な武器になったんでしょうか。

N: 大学生の時に、関西にずっといようって決めたんです。学生時代、大阪芸術大学のデザイン学科で学びながら、大学の周りの景色をずっと描いていたんですよ。街灯は一個もなくて、当時は0時に閉まるローソンと畑があるだけで、自動販売機にはめちゃくちゃでかい、見たこともないくらいでかくて脚の長い蚊の死骸が入っているような景色を。それには理由があって。デザインって、スタイリッシュ、カッコいいみたいな、デザイン=都会っていうイメージがあるじゃないですか。それなのにこんな場所で学ぶなんてナンセンスなんじゃないか、って皆がずーっと言っているんですよね。当時は都会じゃないと良いデザインが作れない、みたいな幻想があったので。

──大学の最寄り駅に初めて下りた時、自動販売機とバス停しか目に入らなくて少し焦りました。

N: 僕もその時は同じように思っていたんですけど、今それを言ってもしょうがないからどうしようかな、と思って。都会でデザインを学んでいる人たちに負けないものってどうやったら作れるんだろうと考えて、じゃあ、都会の人は田舎を経験していないから、畑がどうなっているかとか、木造の家屋が並んでいる町並みはどうなっているかとか、それをリアルに描くことはできないだろうなと思って。それですぐ周りの景色を描くようになりました。

 

「見てください」「仕事ください」と僕は言いに行かなかった

N: あと当時は、今もそうですけど、日本人のアメリカ人に対するあこがれが強かったんです。昔のゲームやアニメのキャラクターってフォルムが全部アメリカ人じゃないですか。マリオが助けるのはピーチ姫だし、峰不二子ちゃんだって、名前は日本人ですけどフォルムはどう見ても当時の価値観では西洋人の設定ですよね。ラムちゃんも。そんな中で、日本っていうもの、田舎っていうものを描いたら、都会でデザインを学んでいる学生には作れないものが作れるだろうなと思って。勝ち負けではなく。

──今の場所にいることを強みに変えたんですね。

N: だから、大学を卒業しても、プロになりたいからって「どっか行きます」とはいかないんですよ。実際いま暮らしている文化や景色を武器にしようって活動しているので、人の多いところに行くのは僕の中では得がないわけで。武器を作るためにはガラパゴスでないといけないというか。それで、大阪でずっとやっていこう、と。

──不安はありませんでしたか?

N: インターネットも普及していたので、プロモーションするには別に困らないだろうなぁと思っていました。HPだけ作って、「仕事ください」とは絶対に言わずにいましたね。

──それはどうしてですか?

N: 大学一年生の頃から、イラストレーターとして活動するなら、東京に行ってポートフォリオ作って持ち込みして、いろいろ伝手を作って…っていう話を皆から聞かされるんですけど。でも、「見てください」「仕事ください」と僕は言いに行かなかった。なぜなら、「仕事ください」と言って「じゃあ あげるよ」とすぐ言われる人なんて、見せた瞬間に才能が見込まれるような、よっぽどの人じゃないといけないじゃないですか。そういう人って、どの環境でも既に周りでニーズがある人だと思うんですよね。

──確かに…。

N: それで、とりあえずHPのアクセス数を上げるのと、大阪の「アートハウス」という雑貨屋さんでポストカードをずっと出すことをプロモーションにしていました。それがめちゃくちゃ売れたら、お客さんも社会人が多いので、この人いいねって仕事は舞い込んでくるだろうと思って。こうしておくとすごく楽だなぁ、と。例えば、一冊本を出したら、それがプロモーションになって他のところから仕事がくるっていうような、仕事としての吸引力のある絵を描いておけば、ものすごく強いと思ったんですね。「この人の絵、おもしろいだけじゃなくて、使いやすそうだなぁ」みたいな。そういうのは相反するものだと思われがちですけど、隙間みたいなものをきちんと見つけてやっていけば、たぶん大丈夫だなと思ってやっていました。めちゃくちゃ貧乏でしたけど。当時、家賃2万8千円の風呂なしアパートに住んでいたんですよ。

──や、安い!

 

「いやそれかわいくないのに、描く?」みたいな。

N: もともとは、キャラクター性がもっと強い、アニメやゲームの絵の仕事に就きたかったんです。でも、絵の中でキャラクター性のあるかわいさを追求すると、記号としては、目が大きいとか胸が大きいとか、露出度が高いとか、そっちにいかざるを得なくて。外部の人が見ると、あれは性の強調だと思ってしまうようなものに。漫画・アニメファンから見れば、かわいく見せるための文法だから、別に性の強調ではないとわかるんですけどね。僕も文脈がわかっているので、そういう絵を見てもわかりますし。まぁ、でも、そうなんですよ。ただ慣れてしまっているだけで、同時に性の強調でもあるんですよね。そのオタク文化みたいなものが世の中に認められた時から、商業(広告)イラストの分野にまでそれが濃く入ってきてしまうというか。日本の中でアニメや漫画、ゲームをクールジャパンとして盛り上げようとした時に、どうしてもそこが引っかかってきてしまいますよね。

──見る人が増えると、文法がわからない人も出てくるから。

N: っていうのを見越したわけじゃないんですけど、僕の場合はそういう女の子のキャラクターを人間の女の子と同じようには、あんまりかわいいと思えなくて。作家としては、絵がうまいなぁと尊敬するんですけど、キャラとしてのファンになれないというか。キャラクターとして好きになるっていうのが、昔から全然なかったんです。それで僕はエロ漫画を読んでなかったんですよ。性の目覚めが来た時も、いわゆるアニメ絵のエロ漫画とか、エロアニメ、エロゲームもありましたけど、そっちじゃなくてエロビデオなんですよ。エロ本なんですよ。人間っていうものが好きだったので。

──生身じゃないとダメだと。

N: なのに、芸大に行ってゲーム会社に入りたいとか思っていたんですよね。アニメや漫画の女の子のキャラクターに魅了されたことがないのに。それで、そういった女の子に準ずる絵が描けなくなっちゃったんです。「いやそれかわいくないのに、描く?」ってもう一人の自分が聞いてくる、みたいな。じゃあ自分がかわいいと思う女の子を描いてみようってなった時に、だんだんとこういう絵ができあがって。

中村佑介作品集「Blue」(飛鳥新社刊) ©Yusuke Nakamura

 

「これは…何なんだろうね」と言われていた

N: 僕の絵の特徴は、一枚の絵の中の物語性というか、構図とか色彩とか、いろいろあると思うんですけど、それらを持ってしないと、この女の子はいわゆる現実の女性の実在感に近づけないんですよね。イラストだから、フキダシでしゃべらせるわけにも、動かすわけにもいかない。だから背景込みの作品にしたんです。この子にパーソナリティをつけて、見る人に想像してもらって、補強してもらうような。ただ、キャラクターデザインの仕事って背景描いちゃダメなんですよね。背景がないと存在できない女の子なんていらないんですよ。それで、大学三年生か四年生の時に、じゃあこの一枚絵でフリーのイラストレーターになろう、と。

──そんな経緯があったんですね。

N: 当時、90年代後半くらいのイラストって、もっと抽象的なものだったんです。古本屋で昔の文庫や教科書の表紙を見てもらったらわかると思います。僕の絵はそれで言うとコミック文化にすごく寄っているから、これが一般書籍の表紙になるなんて、その時50代だった大学の先生には想像できなくて。「これは…何なんだろうね」と言われていたんですよ。とりあえず、展覧会やって作家活動みたいなことをするのがいいのかなぁ、それにしても絵画でもないしねぇ、みたいな話を。先生としてはこれのジャンルがわからない。一番近いのは色がついている一コマ漫画って言われたんですけど。まぁ、まさにそのとおりだなと僕も思っていました。

──そうやって生まれてきた女の子が、中村さんの描く女の子たちなんですね。では、現実の女性を観察することはありますか?

N: ありますね。あんまり街に出ないんですけど、SNSや雑誌を見たり、近所を歩いたりとか。芸能人を見てではなくて、例えばサイン会でお客さんと話している中でとか、別にいつでも。犬にしてもオスとメスで動作が違うし、幼児でも違うし、違いが多くて。何でこんなに違うんだろうと思ったら、やっぱり仕草ですね。単純に。女の人しかしないような、指の表情ひとつにしても違いますからね。そういうので、女の人を描けたらいいなあってずっと思っていたんです。極端な話、髪が短くても、胸がなくても、ズボンを履いていても、すごく女性っぽさを描けたなら最高だなぁって。表現としては。別にそればっかり描くとかじゃなくって、「あぁ女性っぽいなぁ、女性らしいなぁ」みたいなことを描けたらいいなと思って、ずっと描いているんですよね。まぁ、広告としてはパッと見てわからないといけないので、やっぱり記号としてスカートを履かせちゃうことが多いですけど。

『謎解きはディナーのあとで ベスト版』(小学館刊) ©Yusuke Nakamura

 

男子中学生から変なメールをもらうには、もっと感覚が変にならなきゃダメ

──今も、かわいい女の子を追求し続けているんですね。

N: そうですね。作品、絵としては常に「あ、これで完成だな」と思ってから出すのでいいんですけど、仮想現実としてはまだ足りない。夢中になれない。男子中学生からの変なメールがバンバン届くようにならないとダメだと思うんですよ。僕のはやっぱりあくまで綺麗な絵なんです。これが、男子中学生を動かすくらいになれた時に、僕の描いた女の子も一人前になるのかなぁ、って。

──変なメールが届くようにならないといけない…?

N: 僕が子供の頃は、絵のキャラクターに夢中になることがなくて、常に”絵”が好きだったんですよね。人の描いた絵が好きで。『ドラゴンボール』(集英社刊)もキャラクターじゃなくて鳥山明さんが一番好きだったし、『キン肉マン』(集英社刊)もゆでたまごさんが好きだし。鳥山明さんは女性の絵がすごく上手いなぁ、スクリーントーンがなくてもこんなに表現できるんだぁ、カッコいいなぁと思っていました。だから、そんな僕が男子中学生から変なメールをもらうには、もっと感覚が変にならなきゃダメですね。

──感覚を変に、ですか。

N: うちの奥さん、『セーラームーン』(講談社刊)が大好きで。キャラクターとして大好きなんです。ミュージカルも行くし、ファンクラブも入っている。映画を観て泣いちゃうこともあって、それを見て僕は羨ましいと思っているんです。絵や、他の人の作品にそんなに入り込んだことがないから。どうしても、原作の武内直子さんの絵のタッチとアニメはやっぱりちょっと違うんだなぁ、とか、ストーリーはこうやって作っているのかとか、いつもそっちに興味が湧いちゃって。こういった、構造や作家の手をどうしても意識してしまう限り、僕にはなかなか到達できないのかもしれないとは思っているんですけど、それでも男子中学生たちを動かせるようになりたいですね。時々はあるんですけど。男子中学生から、「中村さんの描く女の子みたいな子がクラスにいたら付き合いたいのに」って、かわいいメールが届いたことが。「ああ、これが当時の僕なのかな」と思うと、癒されますよね。慰められる。

──これからそんなメールが増えてくるんですね。

N: でもそうなると、じゃあ現実の女の子は何なんだって思うんですよね。イラストレーターの目標としてはなりたいですけど、わからないな。親心としては、「絵なんて見て欲情すんなよ!」みたいな(笑) 「現実の女の子のほうがもっとかわいいじゃん」とか思っちゃう。二人の人間が頭の中にいるので。いつも頭の中で喧嘩しています。

──だからこそ、今の絵を描けるのかもしれませんね。

N: そうですね。葛藤を作品にしているんですよね、たぶん。

 

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撮影:青谷建

中村佑介


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兵庫県宝塚市出身。バンド「ASIAN KUNG-FU GENERATION」をはじめとするCDジャケットや、小説『謎解きはディナーのあとで』、音楽の教科書の書籍カバーなどを手掛けるイラストレーター。ほかにも、バンド活動、テレビやラジオ出演、エッセイ執筆など表現は多岐にわたる。初作品集『Blue』(飛鳥新社刊)は、画集では異例の9.5万部を記録中。好きな漫画は唯一キャラクターのフィギュアを持っている『魔太郎がくる!!』(秋田書店刊)。

 

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2020/1/1